反省会とお楽しみの夕食
団体戦が終わったその日の夜。
宿泊している旅館に戻った春乃坂学園ゴルフ部の一行は、三部屋借りているうちの一部屋に集まり、今日の反省会を行っていた。
その中心にいるのは、彼女たちの指導プロの芳尾麗奈。
仕事の都合で合流は遅れていたが、表彰式には間に合い、表彰台に上がる教え子たちの嬉しそうな様子は見ることができていた。
その後、全体の順位と明日の組み合わせを確認、個別に今日のプレーした感想を聞いて、今に至る。
「皆さん、お疲れさまでした。私の都合で合流が遅れてしまい、申し訳なく思っています。ですが、皆さんそれぞれが頑張り、団体戦準優勝という結果を勝ち取ってくれたことを嬉しく思います。本当に、おめでとうございます」
まずはそう挨拶した芳尾プロ。
生徒たちからも「ありがとうございます」の声を聞けて、顔を綻ばす。
まだ春乃坂学園の生徒を指導するようになって二年くらいであるが、今の子たちはずっと見てきた生徒たちだ。
その彼女たちが全国大会への切符を手に入れたのだから、感慨深いものもあるのだろう。
気持ちも高ぶっていたらしく、落ち着くのを待って話を続けた。
「では、明日の組み合わせからですね。朝陽さんは最終組で高山真琴さん、波川紅実さん、浜辺聖来さんと同組です。三人ともに実力校の主将ですが、朝陽さんなら普段通りのプレーをすれば問題ないでしょう。相手の選手はみんな背が大きいかと思いますが、関係ないので思い切ってぶつかってください」
そう話す芳尾プロの言葉に、瑠利はいつも通り「は~い」と気の抜けたような返事をする。
強豪校なら怒られそうな態度だが、これは彼女がリラックスしている証拠なので、芳尾プロもとやかく言うことは無い。
むしろ「大丈夫そうね」と、デビュー戦の興奮が無いことに驚いているくらいだ。
なので、芳尾プロも気にせず先を続ける。
「次に吉瀬さんですが、最終組の一つ前でメンバーは深野朋絵さん、永尾明華さん、滝原由依子さんと一緒ですね。ここは同じ主将同士ですので、どっちが上か見せつけてやりましょう。吉瀬さんも普段通りにプレー出来れば問題ないはずですので、朝陽さんに迫るプレーを期待しています」
そう話す芳尾プロの言葉に咲緒里は少しばかり気後れした様子で、「はい……」と返事。その理由は『朝陽さんに迫るプレー」というフレーズに原因がある。
というのも、瑠利と同じようにプロを目指す咲緒里には、一年以上練習をサボってしまったという負い目があり、高校進学と同時に詩穂から誘われて再開したが、今度はブランクにも悩まされ続けてきた。
そのブランクもようやくここに来て感じなくなり、これからが本番というところなのだろう。
咲緒里の感覚では瑠利に迫るというよりは、追いかけるといった方が正しいのである。
「それから、舞木さんは更にその一つ前の組で、メンバーは愛原純恋さん、澄田咲月さん、波川麻実さんですね。吉瀬さんもそうですが、この辺りのメンバーで代表を争うことになりそうですので、頑張ってください。特に、舞木さんは後半動けなくなるくらいまで消耗したと聞きました。パッティングは精神をすり減らして行う作業なので、オンとオフを有効に使い分けましょう。ゴルフ競技は長丁場ですからね。ペース配分も覚えなければいけません。そう言った意味でも明日は全国大会のための予行演習と捉えてもいいかもしれませんね。ともかく、先を見据えたゴルフをしてください」
その芳尾プロからの忠告に、リンも「わかった」と頷いた。
彼女も、流石に今日のことは反省していて、明日の個人戦はおまけ程度に考えている。
まずは、新しく身についた能力をどうコントロールするかが重要だ。
全国大会での団体戦は二日間の日程であり、その日の気温次第では消耗戦となり得る。
今日の後半戦のように調子に乗っていたら、すぐにガス欠してしまい、みんなに迷惑を掛けることになるのは必然。
そうならないためにも、明日は勉強の場だと考えていた。
「それから、佐子田さんと夏目さん」
「「はい」」
「二人には申し訳ないけど、経験を積む場と考えてください。全体のスコアーを見ても、今年はあまりにもハイレベル過ぎます。例年なら5オーバーまではチャンスがあったはずなのに、今年はアンダーでなければ厳しいかもしれません。ですので、ここは切り替えて、全国大会だと思ってプレーをしましょう。きっと、本番にも生きると思いますよ」
それは純粋に個人戦は諦めくれという言葉だ。
ただ、二人にはそれがわかっていたことで、むしろ望むところと気合も入る。
「はい、わかっています」
「私、もう足手まといになりたくないから」
そう答えるカエデは、自分がスコアーを落とさなければという思いが強い。
佳奈美も団体戦が無理なら個人戦でという気持ちはあったが、すでに全国大会が確定しており、落ち着いていた。
約三週間後に迫る団体戦に向けて自分にできることをする。
それが目標となったのだ。
こうして、それぞれが意識を固める中、お待ちかねの夕食タイム。
家では食べられない凝った料理が出てくると、皆に好評だった。
「なにこれ? 湯葉?」
「私、初めて食べます」
そう話すのはカエデと一年生の早嶋優良。
珍しい組み合わせだが、意外とカエデは一年生に人気がある。
その隣では佳奈美と咲緒里が鍋に火をかけ、豆腐が茹で上がるのを待っていた。
「湯豆腐ですか。夏に食べるのもいいですね」
「ああ、この酢ダレの酸味が効果的なのだろう。楽しみだ」
そのような、ちょっと大人びた会話をする三年生の隣では、リンと瑠利が小さく切り分けられた牛肉に齧りついていた。
「うまうま」
「お肉柔らかい」
「これが、飛騨牛」
「わかるんですか?」
「カン」
「やっぱり」
そのリンの感は大正解であるが、そもそもわかったところで味の違いが判るわけでもない。
ただ、やっぱりお肉は美味しかったみたいで、リンは萌花や陽菜乃のお肉をジッと見つめ、二人が慌てて隠すという事態になっていた。
とまあ、こんな感じで夕食を楽しむ生徒たちであるが、一年生で一人だけ、西原紗英は先生たちと話をしていた。
「西原さん、今日はお疲れさまでした」
「はい、明日も頑張ります」
「うふふ、よろしくね」
「任せてください」
そう、自信ありげに請け負う紗英は、今日一日で他校の生徒たちと友好関係を結んでいた。
というのも、どの高校でも情報集めは行われていて、その際に仲良くなったのだ。
県外の高校生同士であれば会う機会もあまりないが、彼女はまだ一年生。
大会のたびに会うとなれば、楽しみも増えるであろう。
それが楽しくて、彼女は積極的に活動していたのであった。




