団体戦の結果
これで、春乃坂学園ゴルフ部は、全ての選手が競技を終えた。
彼女たちのスコアーは、こんな感じである。
朝陽瑠利 7アンダー(32・33)の65スコアー
夏目カエデ 10オーバー(39・43)の82スコアー
佐子田佳奈美 5オーバー(39・38)の77スコアー
舞木りん 2アンダー(36・34)の70スコアー
吉瀬咲緒里 4アンダー(35・33)の68スコアー
平倉萌花 23オーバー(48・47)の95スコアー
濱吉陽菜乃 19オーバー(47・44)の91スコアー
団体戦参加選手の内3人がアンダーで競技を終え、五人の合計スコアーは362の2オーバー。
例年なら間違いなく優勝できるスコアーであったが、今年は事情が違っていた。
というのも、どの高校もレベルが高いのだ。
これは会場となった高岩カントリークラブの難易度が低いというわけではなく、前半を4アンダーという驚異的なスコアーで上がってきた朝陽瑠利に要因がある。
彼女は、これがデビュー戦。
となれば、優勝争いをする選手たちの心情は穏やかでないはずだ。
ポットでの新人なんかにトップを譲るわけにはいかないと、先輩たちの心に火をつけたのが原因である。
その結果、例年以上に好スコアーでプレーを終えた選手が多かった。
そして、これが個人戦の順位だ。
一位 7アンダー 朝陽瑠利(春乃坂学園)
二位タイ 5アンダー 高山真琴(関沢高校)
波川紅実(菖蒲学園)
浜辺聖来(竜峰学園)
五位タイ 4アンダー 深野朋絵(桜花東高校)
吉瀬咲緒里(春乃坂学園)
永尾明華(富士アザミ女子学園)
八位タイ 3アンダー 滝原由依子(三重県佐奈高校)
愛原純恋(富士アザミ女子学園)
澄田咲月(竜峰学園)
すでに、この時点で選手は10人。
全国大会への切符は十位までであり、2アンダーの舞木りんや、1アンダーの香坂雫にもチャンスはあった。
史上、稀に見る大混戦となったこの大会。
間違いなく明日も激戦が繰り広げられる予想だが、まずは団体戦の表彰式だ。
すでに全ての選手たちが競技を終えていて、クラブハウス前の広場には参加高校の選手が並んで結果の発表を待っていた。
ここで行われる表彰式と一緒に総合順位も発表されるので、みな一様に緊張した面持ちだ。
ただ、一部例外もいるが……。
「ちょっと、どうなのよ!」
「カエデさん、落ち着いてください」
「でも、気になるじゃない」
表彰式を前に落ち着きのないカエデを瑠利が宥めてみたところ、ほとんど効果は無い様子。
となれば、ここは同級生の舞木りんの出番と、皆は期待するが……。
「フフフ……。気にするだけ、ムダ。ドンと構えていれば、大丈夫」
と、意味不明な発言にガッカリ。
おまけに、一年生の平倉萌花が悪乗り。
「そうそう、カエデ先輩は何もしてないんだから、黙っててください」
なんてことを言い出すから、またもカエデは暴走する。
「……ちょっと、誰よ。今言ったの」
「シーン」
「しーんって、ほのか! あんたね」
「私じゃないですよ、ルリです」
「嘘おっしゃい」
そんな調子でカエデを中心に騒がしくするメンバーたちだったが、もちろんこれを咲緒里が許すはずがない。
「うるさいぞ! お前たち。カエデとホノカ、お前たちは後で説教な!」
「うっ……」
「ほら、あんたが……」
そうしてまた揉めそうになったところを、咲緒里のひと睨みで消沈。
カエデは、ようやくおとなしくなった。
と、そんな中、ついにアナウンスが流れる。
「只今より、東海地区大会団体戦決勝戦の表彰式を執り行います」
その言葉に、緊張で顔を引き攣らせる選手たち。
優勝は無理とわかっていても、何故か期待してしまうものなのだ。
ミンミンと鳴くセミの声と、風にそよぐ木の葉のざわめき。
誰もが声を出さず、静まり返った広場では、進行係のアナウンサーの透き通るような声が響き渡る。
「東海地区団体戦決勝戦、大混戦となったこの戦いを制したのはトータル359スコアー、1アンダーで競技を終えた、竜峰学園です!」
と、次の瞬間、沸き起こる拍手と歓声。
「おめでとう!」
「やっぱり、今年も竜峰か」
そんな声も飛び交う中、竜峰学園の選手たちが壇上に立ち、表彰式は始まった。
団体戦ということもあって、送られるのは優勝旗と盾。
それを羨ましそうに眺める各校の選手たち。
優勝旗のペナントには竜峰学園の文字ばかりで、今年も届かなかった。
来年こそはと心に誓う者、冬には借りを返すと意気込む者と様々だが、大会はまだ終わりではない。
全国大会への切符は二枚あり、準優勝校にもチャンスはあるのだ。
優勝チームの表彰式も滞りなく終わり、竜峰学園の選手たちが壇上から下りると、次は準優勝チームの発表となる。
どの高校もここが本命であり、この時を待っていた。
ドキドキと心臓の鼓動までが聞こえてきそうなほどに、静寂に満ちた広場。
そこに、再びアナウンサーの声が響く。
「続きまして、準優勝校の発表です」
ここで自分の高校が呼ばれれば、全国大会だ。
二位争いをする高校の選手たちは祈るような気持ちで両手を組み、その結果を見守った。
そして……。
「大混戦となったこの大会ですが、惜しくも準優勝となったのは、トータル362スコアー、2オーバーで全体の二位で終えた、春乃坂学園です」
その発表に、ガックリと項垂れる者、膝を付く者と様々だったが、当の春乃坂学園はというと、大盛り上がりである。
「えっ、うそっ!」
「当然」
「だから、カエデは落ち着けって」
「だって、私たちがだよ! 全国だよ! 凄いじゃん!」
「いいから、わかったから。少しおとなしくしとけ」
「ええ~、サオリ姉は嬉しくないの?」
もはや留まることを知らぬカエデの暴走。
けれど、流石にこれは咲緒里も注意できなかった。
「わかった、わかった。私も嬉しいよ。だが、まずは表彰式だ。みんな、出るぞ」
「は~い」
「カエデ、恥ずかしい子」
「ちょっと、りん」
「はいはい、カエデさん、急いで」
「むぅ……」
と、年下の瑠利にまで子ども扱いされて若干拗ねた様子のカエデだったが、それも表彰式が始まるまでのこと。
これまでこういった経験のない彼女は、そこから見える景色に見入っていた。
「カエデさん、おとなしくなりましたね」
「ああ、ようやく自分の置かれた立場が分かったんじゃないか」
そう話すのは佳奈美と咲緒里だ。
表彰台から見える景色は、涙する敗者たちの姿。
カエデは彼女たちの気持ちも背負って、全国大会へ出場するのである。
「わたし、喜んでる場合じゃなかった」
「ふふふ、ようやくわかったか」
「うん……」
どうやら、事の重大さに気付き、気を引き締めた様子のカエデ。
まだ明日は個人戦決勝が残っており、浮ついている場合ではない。
「わたし、明日も頑張るよ」
「とうぜん」
「はい、カエデさんなら大丈夫です」
両隣にいるリンと瑠利に小声で励まされながら、カエデは目の前の光景を瞳に焼き付けるのだった。
ちなみに、団体戦第三位は菖蒲学園。
姉の波川紅実が5アンダー、妹の麻実が2アンダーとスコアーを伸ばしたことで、トータルスコアーが363の3オーバーで競技を終えていた。
結果、春乃坂学園とは僅か一打差しかなかったのである。
そして、第四位は富士アザミ女子学園。
こちらはトータルスコアーが364の4オーバーと、惜しくも届かず。
それから優勝を狙っていた桜花東高校は6オーバーと、やはりハイレベル過ぎたこの大会が仇となった様子である。




