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女子寮計画

 翌日、陸斗は学校へ行き、練習場では受付に座って話をする、佳斗と美里の姿があった。


「ねえ、兄さん。どうするか決めた?」


「そうだねぇ……、ルリちゃんの才能は素晴らしいものがある。とは思うけど、内弟子というのがネックかな」


「どうして?」


「いや、そりゃあ、うちはリクトが小学生とはいえ、男二人だろう。アズサが生きていてくれたら良かったんだが、流石に年頃の娘さんを一緒に住まわせるのは、どうかと思うんだ」


「そうね……」


 二人の会話の様子から、佳斗はこの話を断るつもりのようだ。


 というのも、その理由は世間体。

 もちろん、瑠利の実力を認めてはいるが、神川家は父子家庭である。そんなところへ年頃の娘が出入りするなんて、問題がないとは言い切れないが。


「雄介(大内プロ)には悪いが、これからプロを目指すルリちゃんに変な噂がたっても困るし、この話は断るべきだと思う」


 それが佳斗の決断であったが、美里は「うふふ」と笑みを浮かべる。


「そうね、兄さんなら、そう言うと思っていたわ。でも、それじゃあルリちゃんは納得しないはずよ。だから、こういうのはどうかしら?」


 そう、どこか得意気な様子で微笑んだ美里に、佳斗は少しばかり首を傾げ、


「何かいい考えがあるのかい?」


 と、尋ねた。

 それに対し美里も、待ってましたとばかりに説明を始める。


「ええ、ここには父さんたちが住んでいた、離れの家があるじゃない? それをリフォームして、女子寮にしたらどうかと思うの。雄介さんが従業員を派遣してくれるなら私の仕事にも余裕ができるし、そこで寮母をしようかと思っているのよ。良いと思わない?」


 と、その思惑を一気に捲し立てるように話すが、ちゃっかり自分の居場所を確保しているあたりは流石である。


 これまで神川家の昼食や夕食は美里が作り置いたものであったので、今更一人二人増えたところで、変わりはないのだろう。

 むしろ、忙しくて家事を怠りがちな兄に代わり、自分が実家の大掃除をするくらいの気持ちでいるのだ。


 これに佳斗も「考えてみる価値はあるか」と、納得。


 神川ゴルフ練習場の敷地には母屋の他にも屋敷が建っており、今は物置と化しているが、元は両親が住んでいた家である。

 練習場の駐車場とは反対側にあり、外から覗かれる心配もなく、また母屋と並んで建っているため、行き来も楽だ。


 となれば、あとはどうリフォームするかだが、すでに水道や電気は通っている。キッチンやトイレ、お風呂も入れ替えはするが、位置はそのままでいいだろう。

 残るは、部屋をどうするか。

 女子寮ともなれば、談話室は必要であろうし、床も女の子が住むのなら畳を変えて、全面フローリングにした方が良さそうだ。

 そして肝心な部屋数だが、二人の希望は五部屋。

 これは、瑠利が一人で寂しい思いをしなくて済む、という意味合いもあるが……ただ、問題は……。


「でもなぁ、リフォームとなればお金もかかるし、流石にすぐには出せないよ」


「そうね、いい案だとは思うのだけど……」


 こうして、結局はお金の問題となったところで、練習場の入口辺りから声が聞こえてきた。


「そういうことなら、私にも協力させてもらうよ」


「雄介!」


「あら、雄介さん。いつからそこに?」


 それは突然の訪問となった、大内雄介プロ。

 どうやら彼は、今後についての話をするつもりで来たようだが、興味深い話が聞こえてきたため、聞き耳を立てていたらしい。


 佳斗たちも話に夢中で、彼の車が入ってきたことに気がつかなかったようだ。


「いや、二人が楽しそうに話し込んでいたものだから、つい出そびれてしまってね。悪いと思ったんだが、話しをすっかり聞いてしまったんだ。でも、その内容がルリくんのためってなら、お金のことは心配しなくていい。元は、私からの依頼だからね。リフォーム代も任せてくれたまえ」


 そう話す彼の提案は、ある意味当然のこと。

 瑠利を預かるためにはそうすべきと判断したのだから、必要な経費は持ってもらうのが自然であろう。


 けれど、それを素直に受け取れないのが、佳斗の性格だ。


「いや、そういうわけには……」


 と、断ろうとするが、相手は付き合いの長い大内雄介である。

 佳斗の性格など、お見通しであった。


「なに、女子寮ってことなら、こちらにも利はあるからね。私のところにいる子たちも、あと何人か預かってもらえるだろ。ルリくんも一人じゃ寂しいだろうから、丁度いいと思うんだがね」


 と、支援をする代わりに、ちゃっかり弟子候補を増やそうとする。


 それをプラスに取るべきかは悩むところだが、ただ、そう言われてしまっては佳斗も断るわけにはいかない。


「わかったよ。リフォーム代の支援はお願いする。けど、最初の入寮者はルリちゃんにしてくれよ。誰かに先を越されたとなったら、可哀そうだからね」


「ああ、そうするよ。私もルリくんに恨まれたくはないからね」


「うふふ、一番弟子かと思ってたら、別の子に取られてた。なんてことになったら、ほんと雄介さん、一生恨まれると思うわ」


「だろう」


「ははは」


 と、和んだところで、話は纏まった。


 佳斗と美里も真剣な面持ちとなり、改めて意志を伝える。


「わかったよ、雄介。ルリちゃんは引き受ける。けど、僕だけじゃ頼りないから、サポートを頼むよ」


「ああ、すまなかったね。その言葉を聞けて、安心したよ。困ったことがあれば、いつでも頼ってくれていい。それからミサトくんも、ありがとう」


「うふふ、任せてくれていいわ。うちには同じくらいの娘もいるから、ちょっとくらい増えても平気よ。むしろ、娘が増えたみたいで嬉しいわ」


「ははは、そう言ってもらえると、助かるよ」




 こうして瑠利は、神川佳斗の正式な弟子となることが決まった。


 その後は雄介の目的だった派遣されるスタッフの事や、リフォームの時期などが話し合われ、大まかな案が決められていく。


 派遣スタッフは明日、そしてリフォームは一か月後である。



 結果、美里の提案した女子寮計画が、悩んでいた佳斗の背中を押したのだった。

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