綱渡りのゴルフ
一方、カエデの乱調など知らぬ佐子田佳奈美は、難しいバックナインに悪戦苦闘していた。
というのも、最初の10番をチップインパー。
続く11番ショートも1オンを逃して、寄せワンでのパー。
更には12番でも二打目がグリーンに乗らず、ここも見事なアプローチショットでパーセーブと、完全な綱渡り状態だ。
それでもパーを取り続けているのは、彼女の意地。
前半ハーフを終えて3オーバーの39スコアーは、カエデと同じだった。
そのため、もしここでスコアーを崩してしまえば自分だけがチームの足を引っ張ることになり、それを嫌だと思う彼女の意地が、この状態を支えているのである。
けれども、そんな彼女を尻目に、一緒の組でプレーする富士アザミ女子学園の藤居奈緒は、淡々とプレーを続けていた。
ここまで目立ったミスもなくパーをセーブし続け、表情にもあまり変化は見られない。
続く13番ホールの狭いロングも、きっちり三打でグリーンに乗せて問題なくパーをセーブと、正確なショットを武器にパーを積み重ねていった。
そして、同じようにミスなくプレーしている選手がもう一人。
愛知県桜花東高校三年の雪屋愛実。
彼女もまた難しい出だしの3ホールで全てパーと、順調な滑り出しだ。
続くロングもきっちりパーをセーブし、迎えた14番ホール。
グリーン残り100ヤード付近にある大きな松が二打目を難しくさせているが、ここもティーショットを3Wで刻んで、次を6Wでグリーンに乗せてのパーとし、藤居奈緒に遅れまいと、必死である。
ただ、そんな中、岐阜県関沢高校の織原芽衣だけは、スコアーを崩していた。
前半でも一人だけ5オーバーと少し出遅れた彼女は、後半も11番、13番、14番をボギーとし、15番ホールでもピンチとなっていた。
その理由は飛距離。
このホールはグリーン手前100ヤード辺りから急激に上っていて、1Wの飛距離が他の三人と比べ劣る彼女は、その影響をまともに受けることとなったのだ。
打ち上げはグリーン面が見えないこともあって、難易度は高い。
見えない先の状況や、その結果もわからないので選手には不安も残る。
そのため、精神的な不安定さからヘッドアップして、ミスを招くのだ。
おまけに、彼女は七組目のメンバーで唯一スコアーを崩していた。
「あっ」
そう漏れた言葉は、周りにも聞こえたことだろう。
彼女のフェアウエイからのショットは、まさかのチョロ。打ち上げということもあり、20ヤードしか進まなかった。
そのため、ここもボギーとし、すでに後半だけで4オーバー。
更に、同じ組のメンバーたちとの差を広げる結果となったのである。
そうして迎えた16番ホール・366ヤード・パー4。
フェアウエイ右には大きな池があり、左にはバンカー。
そして、更にそれ以上左へ行けばOBとなる難しいホールだが、ここまで必死に耐えてきた佐子田佳奈美は、もう限界だった。
すでに後半6ホールを綱渡りな状態でのパープレー。
前の15番ホールでは、ようやくパーオンしてのイージーなパーだっただけに、緊張の糸も解れかけていた。
その状態でのティーショット。
「あっ、待って! そっちはダメ!」
咄嗟に出たその言葉の通り、彼女の打球は左のOBゾーンへと吸い込まれていく。
運よく木に当たって出てくればいいが、無情にもボールの行方を追っていたフォアキャディー(前方にいて、ボールの行方を確認する役目を負ったキャディー)からは赤旗が上がった。
「うそ……ここまで来て……」
そのショックは、隠しきれないものだ。
佳奈美にとっては、ほんの一時の気の緩み。
それで取り返しのつかない事態となることもあるのが、ゴルフである。
まだティーグランドにいるにもかかわらず、彼女は一打罰の三打目としてティーショットを打ち直さなければならないのだ。
ゴルフ選手にとって、OBほど精神的なダメージを負うものはない。
もちろん打った本人が悪いとはいえ、二打目がチップインしない限りパーを取れない状況は、苦痛以外にないであろう。
そして、焦って取り返そうとすれば、更なるピンチを招くだけである。
結果、佳奈美のショットは精彩を欠き、これまで決まっていたアプローチも寄らずのトリプルボギーと、大きくスコアーを崩した。
「ハア……、なにやってるのよ、もう」
そう自分を責めたところで結果は変わらない。
残るホールはあと二つだが、崩れる時はあっけないものだ。
ここを彼女がどう乗り切るかは課題であるが、ただ、こうなってくると、富士アザミ女子学園の藤居奈緒と桜花東高校の雪屋愛実は気合いが入る。
というのも、前半ハーフを終えた休憩時間に、彼女たちは瑠利のスコアーを聞かされていた。
当然、後半もスコアーを伸ばして来ると予想されるが、同じ春乃坂学園の佐子田佳奈美がこれでトータル6オーバーとなり、数字の上ではチャラである。
このまま更に崩れるとなれば、ここをチャンスと思うは必然。
最低でもパープレーで逃げ切り、後続の組へ託す。
それが彼女たちの思い描く作戦であった。
けれども、そう思い通りにいかぬのもゴルフ。
「残りは二つ。ここで仕切り直しね」
佳奈美はそう切り替えると、前を向く。
残る二つが短い打ち下ろしのショートと、ロングだったことも功を奏した。
思わぬところでプレッシャーから解放された彼女は本来の調子を取り戻し、17番の打ち下ろしのショートでティーショットをピンそばにつけバーディーを奪うと、続くロングも気持ちの入ったスイングできっちり3オンに成功。問題なく2パットで決めてのパーと、後半を2オーバーで乗り切ったのだ。
「やっと終わったわ。これで明日もあるんだから、最悪ね」
佳奈美は18番のパットを終えると、疲れ切った様子で座り込む。
終わってみれば、39・38の77スコアー。
後半は15番までパーを維持していただけに、勿体ない結果であったが、これも勉強だ。
例年なら予選通過スコアーは84前後であるため、彼女は当然予選通過。
トップ10も狙える好位置で一日目を終えたのである。
ちなみに、富士アザミ女子学園の藤居奈緒は後半パープレーで、37・36のトータル73スコアー。
桜花東の雪屋愛実は17番でスコアーを落として、39・37のトータル76スコアー。
そして、一人スコアーを崩していた関沢高校の織原芽衣は結局リズムに乗れず、41・43のトータル84スコアーと、予選通過ラインぎりぎりであった。




