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前半戦を終えて

 4番ホール・ティーグランド上。


 瑠利の打ったボールは強烈なバックスピンでピンそば50センチにつき、同伴競技者たちを圧倒。

 二人の心は完全に折れたかと思われた。


 けれど、榎本優花里は目を輝かせ「すごい」を連発。その瞳はまるで憧れの選手を見るかのようで、目指すべき目標を見つけたと、熱い視線を瑠利へ送る。


「私もあんな風になりたい」


 それは彼女の確固たる決意。

 心が折れるのではなく、心に宿るその意思は、ここでより強い力となってあらわれた。


 彼女が手にしたクラブは7アイアン。

 池越えを考えれば、ギリギリのクラブだ。

 ほんの少しのミスが命取りなこの状況で、優花里は思い切りよく振り抜いた。

 そして、勢いよく飛び出した打球はピンへ一直線に向かうが、ただ少し短くも見える。


「越えて!」


 咄嗟に叫んだその言葉は、彼女の強い気持ちの表れ。

 ボールはその気持ちに応えるかのように伸び、手前カラーでワンクッション。

 跳ねてグリーンに乗ったボールはコロコロと転がり、ピン手前1メートルのところで止まった。


「やったー」


 ピョンピョンと飛び跳ね、感情を露わに喜ぶ榎本優花里。

 ここまで冷静にプレーしてきた彼女だが、どうやらこっちが素らしい。


「ありがとう、朝陽さん。私、吹っ切れたわ」

 

 それが何を意味しているか瑠利には全くわからないが、こんなムードは大歓迎だ。


「えっと、良かったね」


「うん!」


 楽しそうな笑顔を向ける榎本優花里に、瑠利も嬉しくなるのだった。




 

 こうして二人の距離が縮まってくると、次に問題となるのは華彩秋良である。

 彼女は今、非常に苦しんでいた。

 というのも、それはこれまでの態度だ。

 あの強烈なバックスピンを見れば、相手の実力もわかるというもの。

 素人に、あんな球は打てないのである。


「わたし、あの子になんてことを言っちゃったの……」


 それは、プレー中に考えることではないが、頭の中は後悔で一杯だった。

 どう見ても相手はトップレベル。それも優勝争いを演じられるだけの器だ。


「ああ、もう……」


 と、もはやゴルフどころではない様子。

 一言、『ごめんなさい』と声に出せば済む話であるのに、それが出来ない。


「どうしたらいいの」


 ブツブツと呟きながら自分の世界に入り込んでしまった華彩秋良は、榎本優花里のスーパーショットも見ていなかった。


 彼女の頭の中を支配するのは、後悔のみ。

 だから、周りが全く見えなくなっていた。


「アキラ、ちょっと聞こえているの?」


「えっ、ゴメン……。私の番?」


「そうよ。もう、何回呼びかけたと思っているのよ」


 榎本優花里はとっくに打ち終えていて、あとは華彩秋良を残すのみだった。

 それなのに、いつまで経っても打とうとしない彼女に、優花里は心配して何度も声を掛けていたのだ。


「ごめん、すぐに打つわ」


 もうすでに気持ちも切れ掛けプレーどころではないが、それでもまだ続けなければならないのが、辛いところ。


 華彩秋良はヤード表示を見て、6アイアンを手にする。


「えっ」


 それを見た優花里が驚いた声をあげるが、彼女の耳に届いてはいなかった。


 風と方向を確認。手前には池。

 それだけを見て放った華彩秋良のショットは、大きく右に逸れていき、ガードバンカー右奥へボスン。


「あっ!」


 っと叫ぶが、どう考えても大きすぎた。

 彼女より飛距離の出ない榎本優花里が7アイアンでピンそばにつけたのだから、6アイアンでは大きい。

 まだ池を避けるために番手をあげて軽く振るというのであればいいが、番手通りに打ってしまえば、この結果は必然だった。

 距離の長いバンカーショットが残り、おまけにオーバーすれば池が待っている。

 明らかに集中力を欠いたことで招いた結果が、この状況なのである。


 続く第二打を華彩秋良は池を怖がってザックリ。バンカーからは出たものの、まだラフ。

 そこからPW(ピッチングウェッジ)で転がすも寄せきれず、ワンピン(ピン一個分の距離・約2M40cm)残し。

 さらに、それを外してのダブルボギー(ダボ)と、もはやボロボロ。


 対する瑠利と優花里はバーディーを奪い、その差は開く一方であった。


 そして、その後も果敢な攻めのゴルフを続けた瑠利は、8番ホール・495ヤードのパー5でもツーオンに成功。4つ目のバーディーを奪い、アウトコースを32のスコアーで終える。


 一方、その瑠利から刺激を受けた榎本優花里は、4番でバーディーを奪った後もパーとボギーでしのぎ、1バーディー4ボギーの39スコアー。

 彼女にしては上出来の内容であった。


 最後は華彩秋良。

 結局、彼女はその後も立ち直ることは出来ず、ボギー地獄へと転落。

 前半を終えてみれば、48スコアーと大叩きだ。


 明暗の分かれる結果となったのである。



 プレー後も俯き加減のまま歩きクラブハウスへ戻ってきた華彩秋良は、もはや泣き出す寸前。

 その彼女をクラブハウスの外で待ていたのは、朝に彼女の言動を注意した競技委員の波崎清二だ。

 彼は一組目の様子を心配して、ここから上がってくる三人を見ていた。

 そして、それが予想通りの結果であったことを痛感する。


「やはり、こうなりましたか……」


 長年、競技委員なんてものを務めてきた彼には、最初のティーショットを見れば大方の結果は予想がつく。

 

「もう少し、しっかり注意しておくべきでしたね」


「う、う、う、ごめんなさい……。ほんとうに、ごめんなさい……うわぁ~ん……」


 と、波崎の顔を見るなり謝罪を口にし、堰を切ったように泣き出す華彩秋良。

 彼女は、すでに限界だったのだ。

 ここまではプレー中であったため、ずっと我慢してきた。

 それを彼と会ったことで、気持ちが溢れてしまったのである。


「アキラ……」


「華彩さん……」


 彼女を心配して駆け付けた鶴都学園の生徒たちに連れられて行く華彩秋良を、瑠利と優花里は不安そうに眺める。


 このまま戻ってこないのでは。


 そう思う気持ちもあるが、彼女たちにできることは何もない。


「二人とも、大変だったね。後半のスタートまでには少し時間があるから、軽く休憩するといい。心配しなくても。彼女のことは大丈夫。鶴都学園には良い顧問が付いているからね。でも、彼女が戻ってきたら、普通に接してくれたら嬉しいかな」


 そう優しく微笑む波崎清二に、「「はい!」」と二人は元気よく返事。


 「いこっ!」


 っと、優花里が声を掛け、二人仲良く休憩に向かうのだった。

 


 

 

 



ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


まずは一組目の前半戦をお送りいたしました。

次はカエデの番です。

果たして彼女にはどんな結果が待っているのでしょうか。

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