梅雨時
新しいスタッフとして派遣されてきた佐々野明日花の加入もあって、どうにかゴルフシーズンの五月を乗り切った神川ゴルフ練習場。
梅雨時となる6月と7月は雨を嫌がり、ゴルフ場へ訪れるお客の数も減る。
天候が優れなければキャンセルも多くなり、その影響を練習場も受けるのだ。
「お客さん、来ないね」
「うん、雨だしね」
受付に座り、入口の自動ドアの向こうに見える雨を、ボーっと眺める瑠利と陸斗。
本日は日曜日。
部活は二人とも天候不順でお休みだった。
その理由も瑠利の場合、プロを目指す彼女が雨の中、『わざわざ学校の練習場へボールを打ちに来るくらいなら、そっちで練習してくれ』というのが、部長の談である。
他に練習場所のない部員たちならともかく、高い目標を掲げた瑠利がここに居て練習しないわけがない。
だったら、『無理して来なくていい』ということであった。
「ルリちゃ~ん、今日はもういいから、あがって。それと、もちろん、りっくんもね」
「はい、ありがとうございます。少し休んだら、練習を始めます」
「あ、じゃあ僕も、一緒に練習する」
雨の降り方を見て、もうお客さんはあまり増えないだろうと判断した美里が、二人に仕事の終わりを告げる。
こんな天気でも練習したいというお客さんはいるが、そう多くはない。
ガッツリ打ちたければ大手の練習場に行くだろうし、こうなってしまえば神川ゴルフ練習場は脆いのだ。
仕事を終えた瑠利と陸斗は、一旦自分の部屋へと向かい、すぐにまた戻ってきた。
そしてゴルフバッグ置き場から自分のバッグを運んで来ると、練習場の左端に陣取り、二人仲良くストレッチを開始。
内容によっては二人で行う方がいい場合もあるので、十分に凝った身体を解すことが出来た。
そして、打席に立つ。
ショートアイアンから始まり、徐々に大きなクラブへ変えていき、一通りのクラブでボールを打ち終えたら休憩。
今度は互いのスイングをチェックしながら、楽しそうに練習する。
「ちょっと、リクくん、後ろから見てて」
「うん、いいよ」
陸斗が打席に立つ瑠利の後方に構え、スイングの軌道をチェック。
「どう?」
「後ろから見た感じは、いつもと変わらないよ」
「そう?」
「うん」
「じゃあ、今度は前から」
そうして陸斗は、瑠利の正面に移動。
わかりやすく言えば、隣の打席である。
そこで今度は重心のチェック。
「あっ、ちょっと右に傾いてるかも」
「やっぱり……、だからだね。少し手前を叩いてる感触があったんだ。ちょっと、見てて。これでどう?」
「うん、それでスクエアー。連続して打ち過ぎると、右肩が落ちやすいって、お父さん言ってたよ」
「そうだね、横着せずに、毎回セットし直さなきゃダメだよね。うん、ありがとう」
「どういたしまして」
こんな風に一人ではできないことも、二人で確認し合えば上達も早い。
おまけにこの後は、恒例の対決だ。
「リクくん勝負しようか」
「いいよ。でも、何するの?」
「あの100ヤードのところにあるグリーンに、キャリーで乗せる勝負。失敗したら負け。どう?」
「うん、それなら。さすがに僕の番手だと、ボールは止まらないからね」
そう言った陸斗が手にするのは8アイアン。
瑠利はもちろんPWだ、
練習場には大抵、目標となるグリーンがあるものだが、これは人工芝で出来たグリーンで、本物と違いボールは止まりにくい。
おまけに100ヤードをPWで打てる瑠利と8アイアンで打つ陸斗では、ボールの止まりやすさが全く違う。。
ロフト角の大きいPWは止まりやすく、フェースの立っている8アイアンは、
ボールが飛びやすいぶん止まりにくい。
要は、止めなければいけない勝負だと、陸斗に勝ち目は無いのである。
「じゃあ、交互に行くよ。まずは私から」
バシッ
「はい、乗った。次はリクくんね」
「うん。見ててね」
バシッ
「よし! 乗った、よね」
「OK、OK。なかなかやるねえ」
「次はルリ姉ちゃんの番だよ」
バシッ
「乗った」
バシッ
「乗った……かな」
こうして繰り返されること、12回。
ついに決着の時が訪れる。
先に決めた瑠利が、陸斗のショットを待つ。
そして……。
バシッ
「あっ……、外れた……」
「やったー、私の勝ちね」
「もう……、また負けた」
そう悔しがる陸斗であるが、この結果は善戦した方だ。
寄せに特化したPWに対し、8アイアンはグリーンへ乗せるためのクラブである。
ミスも出やすく、練習場の小さなグリーンでは縦の距離も合わせにくい。
いってしまえば、難易度的には陸斗の方が、難しかったのである。
「じゃあ、今度はグリーンを変えて勝負ね」
「よし、今度は負けないぞ」
そうしてまた勝負を繰り広げ、二人はどんどん上達していくのだった。




