新しい友人
4月に入り、入学式も終えた。
地元の桜城中学校に通う陸斗のクラスは、1年3組。
さっそく新しい友達もでき、順風満帆なスタートといっていいだろう。
この先、予定していた陸上部に入れば、更に友達も増えていく。
実家の手伝いは瑠利が寮に入ったことで、あまり必要無くなった。
父の佳斗としても、息子にはあまり家のことにこだわらず、友人たちと楽しく過ごして貰いたいと考えてるので、好都合だ。
ただ、一つだけ問題があるとすれば、学校で陸斗がちょっとした有名人になりつつあることだった。
「リクト! 今日、遊びに行っていいか?」
そう尋ねてくるのは、同じクラスで友人となった荒木卓哉だ。
「うん、いいよ。でも、友達も一緒でいい?」
「もちろんさ。いつもの、二人だろ」
「そう、ケイタくんとアオイちゃん」
「よし、決まりだ。さっそく行こうぜ」
向かった先は、陸斗の実家に併設された神川ゴルフ練習場の裏のアプローチ練習場だ。
ただ、そこにはすでに先客がいて、練習を行っていた。
「あっ、リクトくん、いま帰ったんだ」
「うん、アヤナお姉ちゃん、ただいま~」
「おかえり。それで、今日も来たんだね、タクヤくん」
「はい、もうすっかりゴルフに嵌まってしまって。オレもプロを目指したいなとか、思ったりしてます」
陸斗たちが話す相手は森沢彩夏。
ここの従業員として落ち着いた彼女は、朝の仕事を終えた後、こうして練習しているのである。
「そうね。でも、そんな甘いものじゃないから、やるなら真剣にね。趣味の時間を全てゴルフに費やして、それでも時間は足りないくらいだから」
「は、はい……」
大先輩から忠告に、やや臆した様子の卓哉。
それでもその顔は真剣であり、気持ちの強さを窺える。
「へぇ~、これは楽しみね。リクトくんも負けてられないわね」
「うん。僕だってもっと練習して、ルリ姉ちゃんみたく上手くなるんだ」
「あはは、そこは私じゃないのね」
「え~、だって、アヤナお姉ちゃんは上手すぎるもん。ルリ姉ちゃんよりも勝てる気がしないし」
そう口にした陸斗は、ちょっとだけムスッとする。
というのも、それは冬から始めた遊びで、少し長めのアプローチ勝負でのことだ。
ここで取れる最大の距離は、50ヤード。
使用する番手は全員統一。
例えば3アイアンだけで勝負するとか、パターだけでとかである。
これまでアプローチはサンドウェッジ、グリーン上はパターのみでしか練習してきていない陸斗は、大苦戦。
それを経験者の彩夏は慣れたように適正でないクラブを器用に使いこなし、見事にピンへ寄せる。
これに瑠利も対抗心を燃やし、必死で練習。
陸斗だけが置いて行かれることとなったのだ。
「でも、上手くなったでしょう?」
「それはそうだけど……」
そう言われてもと、まだ不服気味。
もちろん陸斗だって、練習は頑張っている。
だが、それでも差は縮まる気がしないのだ。
と、そこへ三人分の足音が近づいてくる。
大人の男性と子供が二人。
「なら、私も混ぜてもらおうかな」
「えっ……、先生?」
そう驚く彩夏であるが、陸斗も同じように驚いていた。
「あっ、ユウスケおじさん、こんにちわ。それにケイタくんとアオイちゃんも……」
と、ちょっと申し訳なさそうに二人を見る。
というのも、友人たちは少し怒っているようで……。
「さきに帰っちまうなんて、ひでえな」
「私も、リッくんと一緒に帰りたかったよ」
「ごめん……。でも、二人ともクラスが違うし」
ただ、そう言い訳しても、機嫌を直してくれそうにない。
「遊びに行くって約束してたんだから、待っててくれてもいいよな」
「そうよね」
なんてことを言いながら、更にむくれた《《フリ》》をする。
それに戸惑う陸斗であるが、彩夏も少し困っていた。
「先生、どうしてこちらへ?」
「うん? 私がここへ来ては変かい?」
「いえ、そういうわけでは……」
「ふふふ、そう畏まらなくていい。私はこの二人がここへ来たそうにしてたから、連れて来てあげただけだよ」
そう話すこの人物は彩夏の師匠である大内雄介プロ。そして、彼が連れて来た人物たちは陸斗の小学生時代からの友人、大越啓太と羽村葵衣だ。
二人は勝手に奥まで入ってくるわけにもいかず困っていたところ、偶然ここを訪れていた雄介に連れて来てもらったのである。
「いや、ごめんな。オレが早く行こうって言ったから、リクトを責めないでくれ」
そこで卓哉は自分が無理に誘ったからだと二人に謝罪。
だが、ちょっとした悪戯心で言っただけの彼らも、本気にされては困るというもの。
「ううん、冗談だよ。オレらだって、早く帰りてえって思ってたから、気にすんな」
「そうそう、ちょっとイジワル言ってみただけよ」
「もう、みんな……」
そんな子供たちの会話に瞳を潤ませるのは、大内雄介プロだ。
「最近、涙腺が脆くてね」
との言い訳だが、競技でない時の彼はこんなものである。
ただ、師匠が不意に登場したことで、余裕のないのは森沢彩夏だ。
すっかり無口になってしまっているが、子供たちは無邪気なもの。
「おじさん、大内雄介プロでしょう。テレビで見たことある」
「ははは、そうだよ。キミは?」
「オレ……、僕は荒木卓哉です。どうしたら大内プロみたく、ツアーで勝てるプロになれますか?」
そう尋ねる卓哉に、雄介は丁寧にアドバイスを送る。
「それはね、寝る時間も惜しんで練習したからだよ。でもね、それを身体が出来ていない子供がやってはダメだよ。今はよく寝て、よく食べること。それが大事かな、タクヤくん」
「ありがとうございます」
そうして、急に礼儀正しくなった卓哉に、「あはは、タクヤが僕だって」とは、大越啓太だ。
「そうね、あんなの初めて見たわ」
「うん、別人みたい」
と言いながら、クスッと笑う葵衣と陸斗。
ただ、そんなことは気にした様子もない雄介は、さっきから一言も発していない弟子へ、視線を向ける。
「それで、私と勝負してみるかね」
その一言で、彩夏は再起動。
「はい、よろしくお願いします」
と、頭を下げれば、師弟による一騎打ちが始まった。
その様子を観戦するのは、4人の子供たち。
ドキドキと緊張する中、始まった勝負はあっけなく終わる。
もちろん、彩夏の全敗。
「どうでしたか?」
「そうだね……、まずは打球の角度だね。見ててごらん」
雄介はそう言うとSWで何球かボールを打ち、球の打ちだし角を確認させる。
「すごい……」
「こうやって、安定して高さを変えずに打てるようなれば、打球のバラツキもなくなり、決まった距離を出せる」
「はい」
「それから、重心の位置。毎回違っているから安定した球が出ないんだ。ゴルフは一打が全てをわける競技だからね。小さなミスも命取りだよ」
「わかりました。ありがとうございます」
その様子を、瞳をキラキラさせて眺める子供たち。
目の前にいるのはツアー通算24勝をあげたトッププロ。あと1つ勝てば永久シードも手に入れるゴルフ界の大スターだ。
その彼のレッスン風景を眺められるなんて、そうあることではない。
「カッコいい~」
「リクトの父ちゃんも凄いが、この人は本物のプロだからな」
「渋いわ~」
「僕のお父さんも凄いんだよ」
若干、おかしな反応もあったが、陸斗もどうにか父を売り込もうと必死である。
「ふふふ、すまなかったね。私はこれで帰るから皆で楽しく遊ぶといい」
「「「「はい!」」」」
すっかりトッププロの威厳に充てられた子供たちと、師匠からの特別授業に心を震わせた様子の彩夏。
去っていく大内雄介を見送るために彩夏は追いかけていき、子供たちは「ボールの高さと重心の位置だったよな」と、先ほど聞いた言葉を繰り返し、練習に励むのだった。
陸斗の中学生編がスタートしました。
これまで小学生だったので、あまり自立しているのも変だと思い控えてきましたが、新しい友人もでき、名前を公開していなかった小学生時代の友人たちも登場。
お話の内容も説明文は少なく、会話文を中心にしていくつもりです。
どうか続きも、よろしくお願いいたします。




