春乃坂ゴルフクラブ⑥
4番ホール、496ヤード、パー5。
ここは短いロングホールで、ティーショットは高低差20ヤードほどの緩やかで長い打ち下ろしだ。
平坦となる地点までは300ヤードほどあり、余程の飛ばし屋でない限り、二打目は左足下がりのライとなる。
そのため、距離は無くともツーオンの難しいホールとなっていた。
打順は変わらず城野真理香から。
ここまでずっとオナー(ティーショットを最初に打つ人を指すゴルフ用語)を務めてきた彼女は、ここも危なげないショットを披露。
続く里桜と涼花も、簡単にフェアウェイをキープし、最後が瑠利である。
だが、これまで驚くほどあっさりティーショットを打ってきた瑠利に、いまは迷いが生じていた。
というのも、実はこのホール。2年前に来た時、派手にやらかしたのである。
左右の幅は広いのに、右に大きく曲げてOB。それを二度続けて、左足下がりでもまたミス。更にはクロスバンカー、ガードバンカーと渡り歩き、スコアーは8オーバーの13。
とても嫌な記憶が残っていた。
「ルリ、どうしたの?」
城野真理香にそう尋ねられた瑠利は少し躊躇するが、理由を話す。
すると、それに安堵したらしい彼女は、簡単なアドバイスをしてくれる。
「いい、誰にでも嫌な記憶はあるものよ。でもね、だったらそれをいい記憶に塗り変えたらいいだけなの。もっと違う事なら無理かもしれないけど、ゴルフはね。それが簡単にできるスポーツなのよ」
「さすが、先輩。良いこと言いますね」
「はい、そこ! チャカさない」
「は~い」
と、とてもいい話だったが、里桜のチャチャが入り台無しに。
けれど、そのおかげか迷いは吹っ切れたらしい。
「あはは、そうですよね。塗り変えたらいいんですよね。ありがとうございます!」
そう頭を切り替えた瑠利が、見事なショットを放つ。
「やるじゃない」
城野真理香がそのショットを見て発した言葉通り、打球はフェアウェイセンターへ落下。
若干、飛距離は落ちたものの、いい球が打てたようだ。
「はぁ……、良かった」
無事ティーショットを打ち終えた瑠利は、疲れたように溜息を吐く。
そして、ボールの止まっている地点を確認し、ようやく力が抜けた。
「ルリっち、いい球だったよ」
「ふふふ、弱点克服ね」
同じように瑠利を褒め称える有岡里桜と桃川涼花。
というのも、たとえプロであっても、最初は初心者だ。
様々な経験を積んで上手くなっていくので、瑠利の気持ちも痛いほどよくわかる。
だからだろう。
まだ余裕を見せてはいるが、ここからの彼女は怖いと感じていた。
プロである以上、中学生のアマチュアに後れを取るわけにはいかないが、若さとは時に凶暴な力を発揮することもある。
苦手意識の克服。そして、次の左足下がりへの対策は、前のホールで左足上がりの練習方法を聞いたことで、万全であると理解していた。
「やばいね、ルリっち」
「ちょっと、本気になろうかしら」
「あら、あなたたち、まだ遊んでたの? 私はとっくに本気よ」
そう、二人に話しかける城野真理香は、正確に瑠利の実力を見抜いていた。
パッティングはもう少しだとしても、それは明らかな練習不足。
コース経験が少ないのだから、当然であろう。
けれど、スイングレベルと、気持ちの強さは十分脅威だ。
そして、大内雄介が本気で期待している逸材でもある。
師匠に神川佳斗をつけ、今また彼女たちにフォローを頼んでいるのだから、これで凡人であるはずがない。
「うふふ、燃えてきたわね。あなたたちも、負けたりしないわよね」
「「もちろんです!」」
こうして尻に火の点いたプロたちが本気を見せ、瑠利の打順は最後まで変わらなかった。
それをプレー終了後、本気で悔しがる瑠利と、無理して余裕を見せるプロたち。
メンバー中、僅かに実力の劣る里桜は、本気でヒヤヒヤものだった。
「ルリっち、また勝負するですよ」
「はい、お願いします」
「ほんと、次会うのが怖いわ」
「いえいえ、涼花さんとまたご一緒できる日を、楽しみにしています」
「じゃあ、ルリ。帰りましょう」
「はい! ありがとうございました」
「「うん、またね」」
そして、瑠利は来た時と同じように、城野真理香の車で送ってもらい帰宅する。
悔しい思いはしたけど、得たものの方が大きかった。
もし、またこのような機会があったら、もう一度。
そんな思いを胸に抱くが、実は彼女、プロたちに気に入られてしまったようだ。
この後も、何度かお誘いを受けることになるのだが、それはまた別のお話。
今はスッキリとした気分で、明日からの三学期を迎えられるのであった。
ここまでが、春乃坂ゴルフクラブでのお話です。
急な終わり方をしたかと思いますが、これ以上だらだらと続けていても意味ないと判断しました。
ちなみに、設定段階での四人のスコアーは、こうなっていました。
城野真理香、トータルスコアー64の8アンダー。
桃川涼花、トータルスコアー67の5アンダー。
有岡里桜、トータルスコアー70の2アンダー。
朝陽瑠利、トータルスコアー75の3オーバーです。
ルリがしぶとくパーを取り続けるため、有岡里桜は一切のミスショットが許されなくて、ヒイヒイ言いながらプレーするという展開でした。
ゴルフマンガなどを見ているとプレーシーン多めですが、このお話は物語重視ですので、この後の瑠利がどう成長するかが重要です。




