春乃坂ゴルフクラブ⑤
3番ホール・382ヤード・パー4。
ここはティーショットが打ち下ろしだが、セカンド地点は受けていてグリーンまで上りが続くという地形だ。
そのため、ティーグランドからグリーン面は見えるが、セカンド地点からは旗しか見えない。
高低差も15メートルあり、二打目はキツイ左足上がりのライが残ることになる。
そこで瑠利は無理なくフェアウェイセンターをキープ。
打順は相変わらずビリだが、今日はもうここが定位置と決まっていた。
プロたちも15歳の少女に負けられないと調子を上げ始めてきており、この打順を覆すなど容易ではない。
ただ、彼女はそれでも一度くらいはバーディを取りたいと考えているが、果たして……。
3番ホールのセカンド地点。
ここにも1番と同様、両サイドにクロスバンカーがある。
けれど、ここのフェアウェイは広く、ティーショットではそれほど気にならなかったようだ。
ただ、ここまで来てわかることは、その地形。
ティーグランドからクロスバンカーを越えるまでの距離が、約260ヤード。
打ち下ろしを考えれば250ヤード打てば届く距離で、飛距離の出るプロたちは皆バンカーを越えており、瑠利だけがその手前にあった。
これで何が変わるかというと、実はこのホール、クロスバンカーを境に打ち上げ角が変わるのだ。
わかりやすく言えば、角度が緩くなる。
プロたちはそれほど苦もない傾斜角で100ヤードほどのアプローチが残った状態だが、瑠利はキツい左足上がりの傾斜で130ヤードのアプローチが残るという状況だ。
打ち上げのホールは残り距離が近いほどグリーンがよく見えるので、その差は歴然。
おまけに練習場には無い左足上がりのライとあって、ピンチではあるが……。
何故か瑠利はニコニコであった。
「私、このホールへ来たかったんです」
そう声に出す瑠利に、プロたちも興味を示す。
というのも、極端な打ち上げホールはプロでも距離感が掴めず嫌うホールだ。
「何かあるんですかね」
「そうね、あの子がそう言うなら、秘策があるんじゃない」
「う~ん、秘策っすか。といっても番手を上げて、コンパクトに振るくらいしかないんじゃないですかね」
「あら? そうみたいよ」
何気なく呟いた桃川涼花の言葉が正解。
瑠利は迷うことなく8アイアンを手に持ち、軽く素振り。
「へえ~」
それを見ていた城野真理香も、感心した様子。
予想通り瑠利は1クラブ上の番手を持ち、コンパクトなスイングで正確にボールを打ちぬいていた。
ショットの基本としては、左足上がりのライでボールを打つには傾斜に逆らうのではなく、それに並行して構えることが重要だ。
ただし、体重配分は違っていて、身体を支えるためにも左足に3割、右足に7割。(角度によっては、4対6など状況で変わります)
その状態で普段よりはコンパクトに振り、正確にボールを捉えることで、大きなミスなくショットが打てるのである。
その時の注意点としては、なるべくならベタ足でフィニッシュもコンパクト。
無理な体重移動はせずに、意識としては手打ちのような感覚で十分。
それを瑠利は正しく実践しており、どこで練習したのかと疑問に思うほどだ。
「ルリ、その打ち方って、どこで練習したの?」
「あ、はい。えっと、師匠がですね。練習場に傾斜専用のマットを作っていまして、それで……」
そう、それは普通の練習場では有り得ないものだった。
もちろん、普段は置いていないが、佳斗が自分で練習するために打席とボールを置くマットを改造して、傾斜付きのものを作っていたのである。
もともとボールを置くマットの下はゴムの板。
なら、その下に傾斜をつけたゴムの板を挟めば、完成だ。
マットもそのままではボールが止まらないため、人工芝の長いものに変えており、何度も試行錯誤を繰り返して辿り着いた結果が、それであった。
「神川先生って、案外無茶なのね」
「あははは……」
城野真理香の言葉に、弟子の瑠利としても、苦笑いだ。
というのも、彼女自身、初めて見たときは驚いた。
まさか、練習場で傾斜のライの練習をできるようにしてしてしまうなんて、誰が想像しただろうか。
実際に造れない技術ではないのだろうが、そんな設備投資をしても、戻ってくるマージンは少ないと言っていいだろう。
とはいえ、このホールでの瑠利スコアーは4打のパー。
城野真理香と里桜がピンそばにつけてのバーディで、涼花はパーである。
結局、次の打順も瑠利はビリだった。




