春乃坂ゴルフクラブ①
春乃坂ゴルフクラブは緑豊かな森林コースだ。
各ホールはセパレートされており、両サイドがOBという難関なコース設定であったが、フェアウェイは広く、形状も比較的フラットと、純粋にゴルフを楽しみたい者たちには人気のコースである。
そして、特に有名なのが、現在でも男子ツアーで活躍する大内雄介プロを輩出したということ。
そう、ここは神川佳斗と大内雄介が、研修生時代を過ごしたゴルフ場なのであった。
☆ ☆ ☆
遠目から見ても赤い屋根が特徴的な、豪華な造りのクラブハウス。
その玄関の隣に設置されたバッグ置き場の前に、一台のスポーツカーが止まる。
運転するのは城野真理香。そして助手席に座るのは朝陽瑠利だ。
バッグ番にクラブを降ろしてもらい、車は駐車場へと移動。
瑠利は先に降りて玄関で待っており、車を置いた城戸真理香が戻ってくると、一緒に入口を通ってフロントへと向かう。
待っていたのは二人のプロたち。
有岡里桜と桃川涼花だ。
今日は昨日約束した通り、四人でコースを周る予定である。
「「「「おはようございます」」」」
と、それぞれが挨拶を交わした後はフロントで受付を済ませて、ロッカールームには寄らずにそのままパッティンググリーンへ。
ここでパター練習を済ませ、時間になったらコースへ出るのである。
すでに瑠利は神川ゴルフ練習場でボールを打ってきており、そちらの練習は無し。
プロたちも済ませているのか、黙々とパターでボールを転がしていた。
彼女たちにとって、ここは遊び場ではない。
たとえプライベートであっても、練習なのだ。
そして時刻は10時20分。
用意されたカートに乗り、一番ティーへ向かうのであった。
☆ ☆ ☆
ところ変わって、ここは神川ゴルフ練習場。
時刻は10時20分。
受付に座るのは、まだ冬休み中の陸斗と、すっかりここに馴染んだ様子の彩夏である。
昨日と同じ顔ぶれとなったわけだが、流石に二日続けて瑠利と一緒にいられないのは、陸斗にとって寂しいことのようだ。
ポツリと呟く一言も、彼女の事だった。
「ルリねえちゃん、大丈夫かな……」
「あら、心配?」
「うん。だって、みんなツアープロなんでしょう。お父さんがツアープロになれる人は特別だって言ってた」
それは佳斗自身がツアープロになれなかったからこその言葉であろう。
最終プロテストは年に一度。
そこで男子は50位タイ、女子は20位タイまでが合格し、ツアープロになれるのだ。
更には、その狭き門を通過し、女子の場合は年間ポイントランク50位までが翌年のシード権を得ることが出来るのだから、城野真理香たち三人は、とんでもない高みにいる選手たちということになる。
けれど、彩夏はその心配は無用だという。
「大丈夫だよ。マリカさんは面倒見がいいからね。むしろ、私と交代して欲しいくらいだよ」
彩夏がそう言ったことで、陸斗は意外そうな顔をした。
「えっ、そうなの?」
「もちろんよ! だってね、今季のシード権を得ている御三方と、一緒に練習できるんだよ。もう羨ましくて、羨ましくて。昨日ルリに私と代わってって言ったら、嫌です、だって。あの子も言うようになったね」
それはもう、全くの彼女の本心だ。
現状、瑠利の実力で何か得るものがあるかといえば、難しいところ。
プロとの絶対的な差を見せつけられて、彼女がどう思うのかに興味はあるが、それよりもそんなチャンス、自分に与えて欲しいくらいなのだ。
ただ、陸斗はそれを聞けて嬉しそうにしている。
「じゃあ、ルリねえちゃんは、凄い人たちと練習してるんだね」
「あら、嬉しそうね」
「うん、ルリねえちゃん、頑張ってるなって」
「そうね……。なら、リクトくんも負けてられないわね」
「えっ?」
「だって、ルリちゃんはライバルなんでしょう?」
彩夏にそう指摘されて、陸斗は少し考え込むが……。
「うん! そうだね。僕とルリねえちゃんは、ライバルだよ」
と、大きな声で返事をし、満面の笑みを浮かべるのだった。




