新年会➂
パシオンゴルフガーデンにあるパーティールーム。
ここでは著名なプロゴルファー20名が集まり歓談中であるが、そこに受付を済ませた佳斗と瑠利が入場してきた。
「おっ、主役の登場だぞ」
そう、声を発したのは井澤翔馬だ。
彼は雄介からの依頼で、この会の目的を知っていた。
昨年の活躍で名の売れた佳斗に注目が集まることは必然であり、皆の意識を誘導することこそ、彼の狙いである。
けれど、そこで自己主張しないところが、佳斗の良さだ。
「みなさん、明けましておめでとう。それから、翔馬。私が主役って、それは失礼でしょう。ここは大内雄介プロの主催する新年会なのだから、主役はもちろん雄介でないといけないよ」
と、会場中の視線を集めながらも、丁寧にそれを否定する。
その物腰の柔らかさこそ彼の武器であり、人々の関心を集めるところであるが、本人はあまり気づいていなさそうだ。
「さあ、ルリくん。プロの方たちに挨拶しようか」
そう促す姿は師匠と弟子というよりは、親子に見えた。
瑠利も受付で池月光莉が緊張を解してくれていたので、中学生らしく元気一杯で挨拶をする。
「あけましておめでとうございます! この度、神川佳斗先生の弟子となりました、朝陽瑠利です。早く、先輩方と同じ舞台に立てるよう努力いたしますので、よろしくお願いいたします」
それは、さすが15歳というほどに、ハキハキとしたもの。
一見すると強気な物言いと捉えられないこともないが、プロを目指すのであれば、このくらいで丁度いい。
むしろ、怖れ知らずで、好感が持てるというものだ。
ここにいるメンバーもほとんどがトッププロなのだから、その挨拶を歓迎することはあっても、それに否定的な意見を唱える者はない。
むしろ、若かりし頃の自分を見ているようだと、懐かしんでいる者もいる。
その筆頭が井澤翔馬だ。
「あけましておめでとう。いや~、元気いいね。やっぱ、これくらいじゃなきゃ、プロは務まらないよな。俺も昔はそうだったし、佳斗を師匠に選んだことも好感が持てる。うん、三年後を期待しているよ」
彼も研修生時代には、雄介や佳斗とあんな風に熱く語っていた。
それを思い出したらしくウンウンと頷いているが、同じように陣馬秀雄も若い瑠利の挨拶に感心した様子。
「あけましておめでとう。まだお若いのに、しっかりしてるね。流石は佳斗君のお弟子さんということですか。ええ、楽しみにしていますよ」
このように、大御所である二人から認めてもらえれば、瑠利も安泰だ。
あとは、自身の努力次第であるが、プロは結果が全て。
その過程などは一切関係なく、勝ってこその世界である。
「ありがとうございます。ご期待に沿うよう、努力いたします!」
瑠利がそう答えれば、誰からともなく拍手が沸き起こる。
現在注目のティーチングプロである佳斗の弟子にして、この度胸。
プロになる資質は十分にあると、トッププロの面々が彼女を認めたようだ。
こうして佳斗と瑠利が注目を集めたタイミングを見計らったかのように、主催者である大内雄介プロが姿を現す。
「明けましておめでとう。みなさん、私の主宰する新年会に、ようこそお出でくださいました。もう、ご紹介済みかと思いますが、そちらにおりますのは、特別ゲストとして来てくれた神川佳斗君と、そのお弟子さんの朝陽瑠利くんです。今後の活躍を見込める逸材として招待いたしましたので、今のうちに友誼を結んでおいた方が、得策かもしれませんよ。では、短い間ですが、歓談をお楽しみください」
そう締めくくったことで、佳斗に参加者が殺到。
トラブルにならないようにと、翔馬と陣馬秀雄が間に入る形で話を進める。
その先陣を切るのは、長瀬祐樹プロだ。
「佳斗さん、お久しぶりです」
「やあ、長瀬プロ。最終戦以来ですか?」
「はい、あの時は驚きました。失礼ですが、まさか疲れの見え始めていた雄介さんが単独6位でフィニッシュできるなんて、思っていませんでしたからね。あれが佳斗さんマジックなんだと、僕は思っているんですよ」
そう話す長瀬祐樹プロは、本当に驚いていたようだ。
昨年の11月、御殿場から始まった高額賞金のツアー4戦。
普段であれば体力面を考慮し、全てに参加することのない大内雄介がフル参戦したあげく、全てトップ10以内でフィニッシュしたのである。
それを一緒にラウンドしていた長瀬祐樹は脅威に感じ、この新年会へ参加を決めたのだ。
「いやいや、買いかぶりですよ。実を言うとね、あれは雄介の意地なんですよ。これで最後だからって、倒れる覚悟もしているよなんて言われたら全力で応えるしかないじゃない。私に出来ることは、完璧に読み切って伝えることだけだからね」
佳斗はそれを当然のこととして話すが、簡単なことではないと長瀬祐樹にはわかっていた。
ただ、それと同時に二人の信頼関係があってのものだと気づき、自分のバッグも担いで欲しいという言葉は飲み込んだ。
「そう、意地ですか……」
「ええ」
「さすがは大内雄介プロ。粘られたら脅威ですね」
それだけ告げて、長瀬祐樹は交代する。
次は阪元秋生プロ。
「初めまして、神川先生。お会いできて光栄です」
「あ、はい、こちらこそ。阪元秋生プロですよね。ご活躍は拝見しておりますよ」
「ありがとうございます。早速ですが、いくつかお伺いしても、よろしいですか?」
「ええ、もちろんです」
そうして話題となったのは、スイング理論について。
阪元秋生プロはベテランに近い年齢となり、スイング改造に力を入れていた。
そのため、様々な知識を持つ佳斗に会いたかったようで、いくつかのアドバイスを貰い、満足した様子。
「帰ったら、さっそく試してみます」
「でも、無理はいけませんよ。合わないと思ったら、すぐにやめてくださいね」
「はい」
こうして次は落居和弥プロと続き、佳斗は参加者である男子プロ全員と会話。
雄介の目論見通り、多くのトッププロと知り合えたのであるが、彼の本当の狙いは佳斗ではない。
師匠である佳斗がプロたちと歓談する間、暇になった瑠利は女子のプロたちに囲まれていたのであった。




