表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/105

詩穂の決断

 その日の夜。


 神川家の母屋で美里が洗い物をしていると、そこに詩穂が現れた。


「お母さん、ちょっといいかな?」


「なに? どうかしたの」


「聞いて欲しいことがあるんだけど……」


 深刻な表情で、そう頼む彼女。

 少し思いつめた様子であり、美里もこれはただ事ではないと、一旦水道の蛇口を捻り、場所を居間へと移した。

 

「で、話って」


「うん、それなんだけど……」


 詩穂はそこまで言って、二階にある陸斗の部屋の気配を探る。


 すでに営業を終えたこの時間、小学生の陸斗は寝ているのだが、万が一起きてきて聞かれやしないかと心配しているのだ。


「なになに、りっくんに聞かれちゃいけない内容なの?」


「あ、う、うん。そういうわけではないんだけど……」


「へえ~、そうなんだ」


 僅かばかりの動揺。

 美里は娘の反応を見て、おおよその見当をつける。


 考え得ることは、テレビ画面で見た佳斗の姿だ。

 あれを見たうえで、陸斗にも話せないこととなると限られる。


「もしかして、ここの事?」


「えっ」


 それはまさに図星であった。

 女の子なのだから恋バナなんてことも考えられるが、そこはやはり美里である。

 雰囲気から、それは無いと見抜いていた。


「あ~あ、やっぱりね」


「どうしてわかったの?」


「そりゃあ、可愛い娘のことだもん。わかるわよ」


 そんなことを宣う美里だが、本当の理由は単純。

 彼女もまた、同じことを考えていたからだ。


 あの映像を見た美里の考えは、『今の兄に、ここは狭い』であった。


 そして、詩穂も……。


「私ね、佳斗おじさんは、こんなところにいるような人じゃないと思うの。もっと、自由に大空を羽ばたいて欲しいっていうか……う~ん、なんて説明したらいいか難しいんだけど、そんな感じかな」


「そうね」


「だから、お母さん。ここの経営を、私に任せて貰ったらダメかな? もちろん、将来的にリクがやりたいって言うなら譲るけど、あの子もここに留まるような器じゃないと思うのよ」


 それが彼女の純粋な気持ちであった。


 佳斗だけでなく、陸斗も狭い箱庭に閉じ込めるのではなく、最初から自由な選択肢を与えてあげたい。

 その結果、それでもここに戻って来たいというのなら、その時は受け入れるつもりであった。


「わかったわ。兄さんには私から話してみるけど、あなた大学には行くのよね」


「うん、ここから通える春華しゅんか女子大で、経営学を学びたいと思っているの」


「そう、ならいいわ。ただ、両立なんて甘くないわよ」


「うん、わかってる」


 美里は娘の成長を嬉しく思う反面、兄や甥っ子の代わりに詩穂むすめがここへ閉じ込められるのではと、懸念していた。 


「ハァ……、いつの間にか大きくなっちゃって……」


「なに? なんか言った?」


「ううん、こっちの話。でも、あなたも自分の幸せを優先させなきゃダメよ」


「わかってる」


 

 こうして、また一人、神川ゴルフ練習場へ力強い仲間が加わった。


 これまで母の後に付いてきていただけの詩穂が、経営に参加すると決めたのだ。

 近場の春華女子大であれば、それほど苦も無く入学できる。

 というのも、彼女の通う高校はレベルの高い春乃坂学園だ。

 もっと上を目指すことも可能であるが、現状これがベストな選択だと考えていた。



「それじゃあ、明日から手伝ってもらおうかしらね」


「えっ……」


「うふふ、朝六時だから、早く寝なさい」


「そんなぁ……」


 そして、早くも後悔する詩穂であった。


 というのも、ここに佳斗はおらず、瑠利も母親が迎えに来て帰っていった。

 そのため、陸斗だけを置いておくわけにはいかないので、美里と詩穂がお泊りしているのである。


 もちろん、カエデが拗ねたことは言うまでもないが、父親が寂しがるからと姉妹でジャンケンをし、負けたのだから仕方のないことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ