説教タイム
母親の美里に連れられて、アプローチ練習場から戻った夏目姉妹。
そのまま事務室へ押し込められて、これから説教タイムである。
「それじゃあ、言い訳を聞こうかしら」
受付を兄に任せ、ドアを閉めての説教タイム。
その本気度に夏目姉妹は恐々とするが、どうやら理由を聞いてくれるらしいとわかり、少しホッとする。
そして、互いに顔を見合わせどちらが説明するか相談。
やらかしたカエデは母親を怖れ、両手を合わせて無言で姉にお願いをする。
その結果、先に口を開いたのは詩穂であった。
「えっと、カエデがね、ルリちゃんの腕を知りたかったみたい。たぶん、うちのゴルフ部が弱小だから、もし本当に上手なら入部してもらおうと思っていたんじゃないかな」
そう話す詩穂は、妹の意図を正確に理解していた。
ただ、やり方に問題があり、あれでは逆効果だとも思っていたが、最初に会った瑠利の印象から、丁寧に説明すればわかってくれるとも思っていた。
その一方でカエデは……。
「ルリって、佳斗おじさんの弟子になるわけでしょう。だから、実力を確かめてから勧誘しようかと思って」
と、真っ正直に答える。
それがどんな効果を生むことなのか、カエデはまだ気がついていなかった。
詩穂は驚き「言い方!」と突っ込んではいたものの、もはや手遅れなようだ。
そして、数十秒の沈黙と、「ハァ……」という、疲れたような溜息。
これは本当に説教が必要ねと、美里は改めて思う。
「いい、カエデ。ルリちゃんはね、あの雄介さんが認めた逸材なの。それで兄さんに、指導を依頼したわけ。この意味わかる?」
「うん、ルリが上手いってことでしょう」
「そう。だからね、あなたが上から目線でモノを言っていい相手じゃないの。だいたい、全く相手にならなかったんじゃなくて」
「うっ……」
「ほらね。あの子はプロを目指しているの。あなたのような遊びじゃないんだから、そこを間違えたらダメよ」
「ごめんなさい」
「わかればよろしい」
と、ここまでは注意であるが、本番はここから。
「で、話は続きなのだけど。シホ、まだ言っていないことがあるでしょう?」
そう続ける美里は、やはり鬼の形相。
もちろん二人の母親なのだから、カエデのしでかしそうなことは、わかっていた。
「シホねぇ……」
「ごめん、カエデ。私も怖いのよ」
そうして詩穂は、妹の不始末を洗いざらい話す。
その結果……。
「これは正座かしら」
「うっ、それは……」
「もちろん、放置していたシホも同罪よ」
「ああ……やっぱり」
と、スルーしたことを後悔した。
そして、二人とも冷たいコンクリートの床へ正座させられることとなったのである。
☆ ☆ ☆
一方、美里にドナドナされていく姉妹を見送った瑠利と陸斗は、流石に続きをする気になれなかった。
別に彼女たちが気になってというわけではなく、水を差されて白けたというのが正解だろう。
瑠利はせっかくサンドウェッジを持って来たんだからとアプローチ練習をするも、集中力を切らして、寄せはイマイチ。
陸斗も手持無沙汰な様子で、ボールを転がす。
そのため、どちらからともなく「「戻ろうか」」と声を掛け、アプローチ練習場を後にした。
そして、受付へ戻ってきた二人が見たものとは。
開かれたドア越しに見える、カエデと詩穂の姿。
もちろん二人とも、冷たい事務室の床での正座である。
どちらも今日は短パンで来たため、無残な状況だ。
「痛そう」
と、瑠利が口にすれば、そこにいた美里はニッコリと微笑む。
「あら、ルリちゃん、戻ってきたのね。話は全て聞いたわ。ほんと、バカな娘たちでごめんなさい。これはそのバツだから、気にしなくていいわよ。それから、りっくん。お姉ちゃんたち、足がかゆいみたいだから、かいてあげてくれるかな」
と、それはもう、凍り付いたような笑顔でそう口にした。
もはや、二人には母親が悪魔に見えたことだろう。
陸斗も「ほんと! じゃあ、いく」と嬉しそうにし、「あ、ちょっと、やめて、リク」と詩穂が言えば、「ああ、リクちゃんまって、ムリ、ムリだから、ぎゃあああああああああああ」と叫ぶカエデ。
そして、重なるように倒れた死体が二つ。
ではないけど、流石に懲りたようだ。
ようやく許されたカエデは瑠利に謝罪。
「変な態度をとってしまって、ごめんなさい」
「あ、いえ、何か理由がありそうでしたから、大丈夫ですよ」
これではどちらが年上なのか。
そう悩む美里と詩穂であった。




