受けて立つ
カエデからの宣戦布告に、瑠利は戸惑いをみせる。
これから勝負をするとして、何をするのだろうか。
女の子同士でガチンコは無いだろうし、状況を考えればゴルフが妥当だが……。
そう考えた瑠利は、その挑戦を受けることにした。
「勝負……、ですか? いいですけど、何をするんですか?」
「そうね、ここはアプローチ練習場だから、アプローチ勝負にするわ。先に5勝した方が勝ちで、打つ場所は不公平が無いように、お姉ちゃんとリクちゃんに決めて貰うけど、いいかしら」
と、想定通りの展開だ。
これに瑠利も「いいですよ」と、即答。
二人を見守っていた詩穂も、どうやら諦めた様子。
「わかったわ。私が審判ね。リクもそれでいいね」
「うん、いいよ」
これで話は纏まり、いざ勝負。
の前に、カエデと瑠利はゴルフクラブを取りに行く。
瑠利の手持ちはパターだけで、カエデに至っては家まで取りに帰ったのだ。
もう、すでにグダグダであるが、それでもわずかな時間で二人の戦いは始まった。
「じゃあ、最初はここね」
まず詩穂が指定した場所は、グリーンから20ヤードほど離れたラフ。
そこへドロップ(膝辺りにボールを構えて、落とす)して、ピンを狙う。
もちろん、勝負はパターまで。カップインして終わりである。
「私からいくわ。見てなさい」
そう、強気な姿勢を崩さないカエデ。
瑠利もここでのアプローチは初めてなので、どうなるか未知数だ。
参考になればと、カエデのアプローチショットを見守るが……結果は、酷いオーバー。
予定より高く打ち出してしまい、ボールは跳ねてグリーンの端で止まる。
およそカップまで15メートルのロングパットで、下手したらスリーパットまでありそうな状態だ。
「うそッ、あんなに跳ねるの? いつもと全然違うじゃない」
「うん、だってお父さんが、ルリ姉ちゃんのためにローラーかけて短く刈り込んだから、全く違うよ」
「……」
陸斗からそう説明されて、カエデは絶句。
さっそくピンチである。
ただ、瑠利もまた最初とあって不安は残る。
最悪でもカエデのボールの内側につければ勝機はあると思い放ったショットは、低い打ち出しで転がってのピンそば1メートル。
返しを外したカエデと違い、瑠利はこれを難なく沈め、まずは1勝とした。
さんざん陸斗とパター勝負をしてきたこともあり、グリーンの状態は把握済みだ。
それに引き換えカエデはというと、これまで練習してきたグリーンとは違い、高速であるため、全く距離感が合っていなかった。
どうにかツーパットで凌ぎ、瑠利がたったの1メートルを外すことに期待するありさま。
もはや勝負になっていないのだが、そこはカエデ。
引き下がるはずがない。
「ふんっ、まだ始まったばかりよ。すぐに追いついてやるんだから」
そんな強気の姿勢であるが、次の陸斗が選んだ場所は、バンカー内。
その真ん中あたりを示して、「ここからだよ」と告げる。
どうやら陸斗もめんどくさくなってきたらしく、早めに勝負を終わらせようと考えたようだ。
これまで散々瑠利と勝負をしてきた陸斗にとって、結果は見ずともわかっていた。
そのため、難しいところにすれば、早く終わるだろうと考えたのである。
そして、詩穂も……。
「レベル差が有り過ぎね。これは無謀だわ」
と、もはやカエデだけが空回りといった状況。
ただ、瑠利はその勝負を楽しんでいるようで……。
「今度は私からですね。先にビタッとつけますから、見ていてくださいね」
その宣言通りにピンそば50センチへ付ける。
このバンカーはアゴも高くないため、低く打ち出した球が転がっていき、あわやという感じで通り過ぎたのである。
「「惜しいっ」」
そう声をあげたのは陸斗と詩穂であった。
「もう、お姉ちゃん。どっちの味方なのよ」
そう叫ぶカエデに、詩穂は……。
「えっ、何言ってるの? 勝手に勝負を挑んだあなたを私が応援するはずないじゃない」
と、正論で返す。
これにはカエデも言葉なく、あとは散々だった。
結局、5対0で、瑠利の勝ち。
予想通りの結果であった。
そして、最後はこの人。
「あら~、あなたたち、いつまでも戻ってこないと思ったら、何をしているのかしら」
美里、鬼の形相。
「えっと、ちょっと、ルリとゴルフ勝負を…………」
「で、結果は惨敗と。シホ、あなたがついていながら、どういうことかしら?」
「ごめんなさい」
どうやら夏目姉妹、母親に怒られて萎縮中である。
「もう、ルリちゃんごめんね。バカな娘たちで。あとで厳しく言っておくから、許してあげて」
「はい、私も楽しかったから、あまり怒らないであげてください」
それは瑠利の本心。
けれど、そんな甘いことが許されるはずもなく……。
「うふふ、いいのよ。この子たちには、まだお説教が足りないみたいだから、気にする必要はないの」
と、美里はニッコリ微笑む。
「しんだ……」
「はぁ……」
そうして、お騒がせ夏目姉妹は、母親にドナドナされていくのであった。
結局、カエデの思惑はわからずじまいであったが、瑠利は普段とは違う美里に驚いた様子。
「ミサトさん、怒ると怖いね」
そう呟くと、陸斗は……。
「うん、でも……だいたいあんな感じだよ。カエデ姉ちゃんが変なことして、シホお姉ちゃんが巻き添えになるの」
「……ああ、そうなんだ……」
あまりに見たままの光景とあって、瑠利も微妙な表情を浮かべていた。




