表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/105

暴走するカエデ

 アプローチ練習場のグリーンでは、陸斗と瑠利が昨日と同じようにパター勝負で盛り上がっていた。


 練習をするなら寡黙にコツコツとすることも大事だが、楽しく対戦形式でした方がメリットも大きい。

 特にメンタルを鍛えるためには、プレッシャー慣れは必須。

 場数を踏めば、極度の緊張状態は避けられるので、二人の勝負は理にかなっていた。



「あ~あ、また負けちゃった」


「でも、だんだん厳しくなってるよ」


「ほんと?」


「うん、長いパットが決まるようになって、決着も早くなってるじゃない。まだ私が入れ返しているから勝ててるけど、本音をいうと、ちょっとキツイかな」


 そう話す瑠利であるが、ここまで昨日を含め、10戦10勝。

 ちょっと、大人げない気もするが、手を抜くなんて陸斗に失礼だ。


 ただ、パッティングはミズモノ。運の良し悪しでも結果は変わるため、このまま拮抗勝負が続けば、確実に負ける時が来ることは、わかっていた。


 そして、次の勝負。


「よしっ!」


 と、先行の陸斗が五メートルの長いパットを一回で沈め、次は瑠利の番。

 厳しいプレッシャーと戦い放ったパットの行方は……。


「あ……」


「やったー、かったー」


 と、ピョンピョンジャンプして、全身で喜びを露わにする陸斗。

 それもそのはず、瑠利のパットはカップの縁を掠め、通り過ぎたのである。

 どうやら芝目の抵抗にあい、予想とは違ったキレ方をしたようだ。


「ああ、悔しい。もう一回やろう」


「うん」


 ただ、負けて終わるのは嫌だと再戦を希望する瑠利は、やはり大人げなかった。

 やるなら勝って終わりたいのは、人間の心情。

 勝者は常に一人である。


 けれど、勝負とは不思議なもの。

 たった一度の勝利で、あんなに勝てなかったことが嘘のように勝ててしまうのだ。


「やったー、またかったー」


「えっ、うそっ。マジ?」


 それこそが俗に言う、流れが変わった、であろう。

 決して手を抜いているわけではないが、何故か急に瑠利のボールがカップに嫌われ始めたのである。



 と、そんな風に戦いはますます白熱していき、面白くなってきたところで、あの姉妹が現れた。


「リク~」


「りくちゃ~ん」


「あっ、シホお姉ちゃんと、カエデ姉ちゃんだ」


 これまで勝負に夢中になっていた陸斗が、名前を呼ばれたことで姉妹の存在に気づく。

 そして、パターをグリーンに放り出して彼女たちのもとへ駆けていき、しゃがんで両手を広げるカエデ……ではなく、詩穂しほのお腹辺へポフンと抱き着いた。


 その行動に迷いはなく、嬉しそうに詩穂を見上げる。


「リク、元気だった?」


「うん、元気だよ。シホお姉ちゃんは?


「私もよ。さあ、今度はカエデの所に行ってあげて」


「は~い」


 陸斗は大好きな詩穂に促されて、いまだ両腕を広げるカエデの胸の辺りへドスンとダイブ。


 その対応にはずいぶんと姉妹で差があるようだが、理由は以前にカエデが構いすぎたことによる弊害だ。


 もちろんそれが自分のためであったことは陸斗も理解しているが、子供は案外抱っこを嫌うもの。

 精神的に不安定な時ならともかく、元気一杯の時に抱きしめられていると、遊びたい衝動から逃げ出したくなるのだ。


 それなのに、である。

 姉の口添えもあってダイブしてきた陸斗を、カエデはギュッと抱きしめた。

 そして……。


「やっぱ、りくちゃんは可愛いなぁ。ずっとこうしてたいよ」


 なんてことを言い出したから、さあ大変。


 これに陸斗は抵抗。


「やだ、放して~」


 と、必死にカエデの腕を振りほどこうとする。


 精神的にも容姿的――10歳程度――にも幼い陸斗であるが、実際は12歳だ。

 そろそろ恥ずかしさがあっても不思議ではないが、それをカエデは理解してくれない。


「待って、あと三分」


「やだ、もう行く」


「あと、ちょっとだけだから」


 と、しつこいカエデに陸斗は必至で抜け出そうとするが、逆に彼女の腕の力は強まり、ますます身動きのとれない状態に……。


「もう、やだ!」


 そう叫んだ陸斗に、一瞬不安を覗かせたカエデであるが、腕はまだ抱きしめたままだ。


 ただ、それを見ていた詩穂が呆れたように「ハァ……」と溜息をつき、ツカツカと妹に近寄り、「ガツン」と頭に拳骨を落とす。


「痛っ! もう、なにするのよ」


「それは、こっちのセリフ。いつまでもそんなことしてたら、リクに嫌われるよ」


「うっ……」


 姉の言葉にカエデは激しく動揺。


 腕が緩んだ隙をついて、陸斗は脱出できたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ