同じころ、神川ゴルフ練習場では……
同じころ、神川ゴルフ練習場では、昨日に引き続きお祝いイベントが始まっており、大いに盛り上がりを見せていた。
というのも、春乃坂学園からは瑠利が優勝。そして咲緒里が三位タイの好成績を修めたのだ。
騒ぐ理由があるなら騒がない訳にはいかないと、前日同様、横断幕まで用意され、常連さんたちの多くが駆け付けていた。
「神川ゴルフ練習場の救世主、ルリちゃんにカンパーイ!」
手に持っているのはお酒ではなく、ウーロン茶。
それでも誰かが音頭を取ると、みんなでグラスを持ち上げる。
そんなことを人が増えるたびにやっているから、最初からいるメンバーはすぐにお腹いっぱいだ。
お酒ならいくらでも入るが、ただのウーロン茶をそれほど飲めるはずもない。
少し運動してくると練習場へ向かい、暫くボールを打って汗をかき、また冷房の効いた受付のある休憩室へ戻るを繰り返している。
だが、そんな中、昨日は一緒に混ざって話を聞いていた陸斗の姿が見えない。
美里と佳斗の二人は電話の対応に追われており、海未と明日花が受付に座るという状況。
そんな中、陸斗はどこにいるかというと、実はアプローチ練習場でボールを打っていた。
昨日、父にプロを目指すと告げたこともあり、今朝からずっとここに籠っているのだ。
瑠利が父の弟子になったことで、併設されている管理小屋にもテレビや冷蔵庫が完備され、食事もできるようにテーブルやイスも置かれている。
練習するときなんかは、ここで録画したプロのスイングを見たりして、参考にできるようにしているのだ。
ただ、その陸斗であるが、もちろん瑠利の優勝は知っていた。
時々、美里が様子を見に来ていたことも理由にあるが、この場に居る、もう一人の人物が教えてくれたのだ。
「お祖父ちゃん、今度は後ろから撮って」
「どうじゃ、この辺りでよいか?」
「うん、大丈夫。気をつけてね」
「ああ、心配いらん」
陸斗の後方に立ち、録画用のビデオカメラを構える人物。
それは吉瀬正幸であり、陸斗の祖父で母・杏沙の父親である。
彼は正月に佳斗と和解した後、ここに何度も足を運ぶようになっていた。
以前は厳格そうな態度だった彼も、可愛い孫の前では好々爺然としたただの年寄り。ああでもない、こうでもないと、慣れぬ機械を操作しながら楽しそうに孫の姿を収めている。
彼は陸斗がプロを目指すと伝えた時も反対などはせず、「なら、儂が全力でサポートしよう」と約束したので、こうなっているのだ。
「お祖父ちゃん、撮ったやつ見せて」
「うむ、なら大画面で再生しようかのう」
二人でそんな会話をし、テレビのある管理小屋へ移動。
こちらには吉瀬さちこがいて、「りくちゃん、暑いからアイスを食べましょう」と、カップのかき氷を手渡してくれた。
「うん、ありがとう」
陸斗もちょうど食べたかった頃なのか、スプーンを手に蓋を開けて一口ぱくり。
氷もいい具合に溶けていて、食べやすい硬さになっていた。
「美味しい!」
「そうね、暑いから美味しいわね」
流石にエアコンまでは完備されていないため、建物の中は暑い。
それでも窓は全開になっており、周りは木々に囲まれていて、吹き抜ける風は気持ちよかった。
「ふぅ、涼しい。あっ、お祖父ちゃん、撮ったヤツ再生して」
「うむ、すぐにやるから待ってなさい」
「うん♪」
楽しそうに、陸斗は難しそうな顔をしてビデオカメラとテレビを接続する祖父を眺める。
もう、以前のようなわだかまりもなく、すっかり仲良しになった祖父と孫。
陸斗も、お祖父ちゃんを嫌っていたわけではないので、打ち解けるのも早かった。
「これでいいか?」
「うん、ありがとう」
そうして、二人仲良く動画を確認。
祖母は、その様子を嬉しそうに眺める。
娘の杏沙が亡くなって以降、すっかり縁遠くなってしまった吉瀬家と神川家。
また、このような日が来るとはと、感慨深げな様子だ。
「ねえねえ、お祖母ちゃんもみて。どこか変じゃない?」
「あらあら、私に聞いてもわからないわよ」
そう言いながらも、三人で画面を食い入るように見つめる姿は、なんとも微笑ましいものだ。
結局、その後も孫との楽しい時間を過ごした吉瀬夫妻は、「また来るわね」と名残惜しそうに帰って行った。




