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個人戦決勝(瑠利・浜辺聖来)

 東海大会個人戦決勝。


 春乃坂学園ゴルフ部の選手たちも四人がプレーを終え、残るは瑠利だけとなっていた。

 

 その彼女は、現在18番ホールのグリーン上。

 1メートルのバーディーパットを残すのみであり、これを沈めれば、この日8つ目のバーディーとなる。


 もはや、同組でプレーする選手たちは、戦意喪失。

 スタートする前は「こんなチビに」と侮っていた彼女たちも、終わてみればまさっていたのは飛距離だけだった。

 

 というのも、瑠利のゴルフはプロのそれ。

 ティーショットを確実にフェアウエイキープし、次のセカンドでパーオンさせてのパット勝負と、わかりやすいものだ。


 対する彼女たちのプレーは、出入りの激しい攻めのゴルフ。

 バーディーやイーグルといった派手さはあるものの、代わりにダボやボギーも出るため見ている分には楽しいが、スコアーの安定という意味ではまだまだだった。


 そんな中、唯一抵抗を見せたのは、やはり竜峰学園の主将エース・浜辺聖来だ。

 彼女には最初から瑠利に対する偏見が無く、全力でぶつかることができたのである。

 

 だが……、それでも相手が悪かった。


 瑠利は大内雄介プロの秘蔵っ子であり、彼が最も信頼を寄せる神川佳斗へ預けられた少女だ。

 大内雄介プロや佳斗の研修生時代の仲間で現在は永久シードを獲得した井澤翔馬プロや、若手の筆頭株である長瀬祐樹プロなどが神川ゴルフ練習場を訪れアドバイスしてくれたり、元竜峰学園の主将エースでツアー通算4勝を誇る城野真理香からライバル視され、その後輩である森沢彩夏や佐々野明日花といった歴代の竜峰学園主将キャプテンまでもが集まる神川ゴルフ練習場の寮住まいなのだ。


 その、あまりのハイレベルな環境に普通の感覚の者であれば臆するのだろうが、むしろ瑠利はそれを楽しんでいる様子であった。


「化け物め」


 そう揶揄しながらも前半から果敢に挑戦者として攻めた浜辺聖来であるが、無理せず淡々とスコアーを伸ばしていく瑠利には届かない。

 結局、ノーボギーの6バーディーでプレーを終えたにもかかわらず、この差なのである。


 最後は瑠利のバーディーパットを見届けて、東海大会を終えた。


 彼女の感想としては……。


「今はまだ勝てる気がしない」


 と、素直な敗北宣言だった。



 そして、その瑠利であるが、こちらは終始ニコニコだったようだ。

 というのも、それはスタートの少し前のこと。

 パッティング練習場にいた瑠利に詩穂が調子を尋ねると、思いがけない言葉が返ってきた。


「ルリちゃん、調子はどう?」


「あ、シホさん。良いですよ。それより、サオリさんって、やっぱりプロ志望だったんですね」


 それは、全く予想していなかった言葉。

 だが、心当たりが無いこともない。


「あんた、起きてたのね?」


 思い当たるは、昨日の休憩室での会話。

 てっきり眠ていると思っていた瑠利が、実は起きていた。


「そりゃあ、ユラやヒナノたちが私のホッペをあんなにプニプニしたら起きますよ」


 そう訴える瑠利だが、もちろんこれは彼女の言い分が正しい。

 というか、むしろ起きない方がどうかしている。

 だが、瑠利は眠かったから放置していたようだ。


「それで、私の漏らした声を聞いたと……」


「はい!」


 いい笑顔でそう答える瑠利に、詩穂は少し考え込む。

 別に隠すことではないが、何故このタイミングで聞いてきたのかが気になるのだ。


 けれど、だからといってなんだという話でもある。

 咲緒里も瑠利も仲間であり、むしろ一緒にプロを目指せると喜んでいるのかもしれない。


 そんな思いから、詩穂はそれを肯定。

 うっかり余計なことまで口走ってしまうが、それを失敗だったと気づくのは、瑠利の態度をみてからだ。

 

「そうね、今はどうかわからないけど、昔はそうだったわ。でも、ちょっとゴタゴタがあって、一時期やめてしまったの。だから、もしあのまま続けていたら、佳斗おじさんの一番弟子はサオリだったかもね」


「ふ~ん」


 その、瑠利の興味なさげな態度に、詩穂は「あれ、怒ってる?」と、妙な寒気を覚えた。

 何か余計なことでも言ったのだろうかと考えてみるが、思い当たる節は無い。


 けれど、瑠利のこの言葉を聞いて、ハッキリと自覚した。


「サオリさんが一番弟子ですか。だったら、ここで圧勝すれば先生の一番弟子は私と、世間は認めてくれますよね」


 詩穂も、まさか瑠利がそこまで佳斗の一番弟子に拘っているとは思っていなかった。

 そのために何気なく言った言葉が、藪をつつくことになったのである。


「ちょっと、サオリは仲間よね」


「はい。でも、今はライバルです」


「そ、そうよね……。ゴメン、サオリ。私、余計なこと言っちゃったみたい」


「いえいえ、教えてくれて、ありがとうございます!」


 うっかり漏れた出た詩穂の呟きに瑠利はお礼を言って、再び練習を再開。


 そして、この爆発的なスコアーへと繋がるのだった。



 終わってみれば、二位の浜辺聖来とは4打差の首位独走。

 三位タイのサオリとは7打差と、格の違いを見せつける結果となったが、これはある意味仕方のないこと。

 トッププロを目指す瑠利にとって、東海大会レベルのコース設定では物足りないのだ。

 これは高校の部活動の一環という意味合いであり、平倉萌花や濱吉陽菜乃のような90台レベルの選手も参加しているため、あまり難易度を上げられないという事情がある。

 もしこれがプロの競技であったなら、フェアウエイは狭く、ラフは長め。グリーンは高速で、ピンポジも厳しい設定であっただろう。


 ただ、それでもトータル15アンダーは、歴代最高。

 大会新記録となった。




「只今より、東海大会個人戦の表彰式を行いたいと思います」


 そうアナウンスが流れ、瑠利が表彰台に呼ばれる。

 近くにはすでに浜辺聖来や吉瀬咲緒里たちも待機しているが、まずは優勝者からだ。


「東海大会個人戦優勝者は、トータル129スコアー・15アンダーで春乃坂学園・朝陽瑠利選手です」


 その発表と同時にパチパチパチと沸き起こる拍手と歓声。

 この場には新聞社や雑誌の記者も多く集まており、カシャカシャとシャッター音も響いている。


 その中で、堂々とした態度で表彰台へ上り、記念の盾を受け取った瑠利。

 優勝スピーチにも動じず、「この喜びを、まずはどなたに伝えたいですか?」という定番の質問にも「師匠です」とアッサリ答えていた。

 その後も全国大会への意気込みを聞かれれば「もちろん、優勝しか考えていません」と、模範的な回答をして会場を沸かせると、全国大会へ進む選手10人での写真撮影では、一番小さな瑠利がド真ん中というポジションで、そこでも笑いを誘っていた。



 その最終的な順位がこちらである。


 東海大会個人戦決勝


 一位   15アンダー 朝陽瑠利(春乃坂学園)

 二位   11アンダー 浜辺聖来(竜峰学園)

 三位タイ  8アンダー 吉瀬咲緒里(春乃坂学園)

             高山真琴(関沢高校)

 五位タイ  5アンダー 深野朋絵(桜花東高校)

             波川紅実(菖蒲学園)

 七位    4アンダー 永尾明華(富士アザミ女子学園)

 八位    3アンダー 澄田咲月(竜峰学園)

 九位タイ  2アンダー 香坂雫(竜峰学園)

             滝原由依子(佐奈高校)


 

 ここまでの九位タイまでが、全国大会への切符を手にしたのだった。


 初日よりも通過ラインが下がった理由としては、やはり高校生女子という未熟さからであろう。

 二日間通して安定した成績を残すには、それ相応の練習量が求められるのである。

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