個人戦決勝(リン・咲緒里)
佳奈美とカエデ、二人が奮起する一方、苦戦を強いられたのはリンだった。
というのも、彼女は前日の疲労が色濃く、本来の調子を取り戻すことができなかったからだ。
昨日の最終ホールを終えて、自力で立ち上がることさえできなかったリンは、表彰式、そして夕食時と普段通りに振舞っていたが、やはり無理をしていたのだろう。
翌朝、目が覚めても身体はズシリと重く、このままスタートしても良い成績を修められそうにない状態だった。
「眠い……、無理」
それが、彼女の率直な感想だ。
顧問の東矢章乃も本人がそう判断したのなら棄権も止む無しと考えていたが、一転「やっぱ出る」というので参加を決意。
ここが避暑地ということもあって、夏の暑さは抑えられているが、それでも暑い。
熱中症のリスクを考えれば辞めさせるべきであったのだろうが、「ダメなら途中で棄権する」と本人が言うので、仕方なく認めたのである。
「いい、本当に無理しちゃダメよ」
「うん」
「……はぁ、あなたのことだから心配ないとは思うけど、無理そうならすぐに棄権するのよ」
「わかってる」
「ハイハイ、じゃあ頑張ってきなさい」
「行ってきま~す」
こうしてスタートして行ったリンであるが、やはり本来の調子には程遠かった。
飛距離を落とし、堅実なゴルフをすることでスコアーを維持しているが、同組でプレーするメンバーとの差は開くばかり。
昨日入った長いパットも集中力を欠くこの状態では、難しかった。
結局、前半を1オーバーでプレー。
ベスト10入りは厳しい状況となっていた。
「りん、どうするの?」
9番ホールのグリーン付近で待っていた詩穂にそう尋ねられると、彼女は「やる」の一言。
ならば、何も言うまいと、サポートに尽力する春乃坂学園の一年生たち。
休憩中、バナナの皮を剥いて差し出すと、サンドイッチを紙のお皿に並べ、紙コップにスポーツ飲料を注ぐ。
そして、いつの間に用意したのか、大きめのうちわで扇ぎだした。
「寒い……」
「あ、やっぱり……」
もちろん、悪気は無かったのだろうが、ここは冷房の効いた休憩室。
うちわを持っていた平倉萌花も、そうかなとは思っていたようだ。
「じゃあ、返して来る」
そう言って出ていく萌花と入れ替わるように、リンの一つ後ろの組でプレーしていた咲緒里が休憩室に入ってきた。
今回、休憩時間として与えられたのは、熱中症対策として15分。
後ろの組と遭遇する確率は、非常に高い。
「どうだ、りん。調子は?」
「ん、ぼちぼち」
「ははは、なら大丈夫だな。今できることを頑張ればいい」
「了。そろそろ行く。咲緒里先輩も頑張って」
「ああ、私なら、問題ない」
そうして出て行った後半戦。
リンは必死に耐え、大きくスコアーを崩すことなくプレーを終えるが、スコアーは後半も1オーバー。
結果74のスコアーで、二日間のトータル144(70・74)のイーブン。最終順位を12位という結果で大会を終えた。
だが、プレーを終えたリンは、昨日と同じように立っていることも難しい状態で、アテストを終えると、プルプルと震える足で医師の待機しているテントへ直行。すぐに診断を受けることとなった。
「疲労でしょうね。ゆっくり休めば、よくなりますよ」
その言葉を聞き、安堵のため息が漏れる春乃坂学園のメンバーたち。
顧問・東矢章乃も無理をさせた自覚があるだけに、まずは安心したようだ。
ただ、本人曰く。
「全国大会、行きたかった」
そう言われてしまうと、言葉も出ない。
体調管理を含め、今後の態勢を見直す必要があると、改めて指導方針を芳尾麗奈プロと相談するのだった。
ちなみに、リンのプレーする様子を後ろの組で心配そうに見守っていた咲緒里だったが、彼女自身は絶好調。
この日も68スコアー(34・34)でプレーを終え、二日間のトータル136スコアー(68・68)で8アンダーは、三位タイ。
無難に全国大会行きを決めたのである。




