新しいスタッフ
翌日の午後1時。
神川ゴルフ練習場には、新しくスタッフとなる女性が訪れていた。
「初めまして。パシオンゴルフガーデンから派遣されてきました、渡会海未です。平日の13時から21時まで勤めさせていただきますので、よろしくお願いします」
そう恭しく頭を下げて挨拶をする女性は、渡会海未(24歳)だ。
長いストレートの黒髪で落ち着いた雰囲気を纏う女性であるが、実は背の低さからか、年齢よりも若く見えることがコンプレックスだという。
平日に街中を歩いていると職質を受けることも多く、《《常に》》身分証を持ち歩かなければならないと嘆いていたりもした。
世間では大人びた高校生とでも思われているのだろうが、本人にとっては困った問題なのである。
と、そんな彼女であるが、パシオンゴルフガーデン(大内雄介プロの経営する練習場)では主に受付を担当していた。
仕事に関していえば落ち度もなく、協調性に欠けるなどということもない。
接客態度も申し分ないし、むしろ何でこちらに回されてきたのかと不思議に思うほどだ。
けれど、雄介が神川ゴルフ練習場への派遣希望者を募ったところ、海未が真っ先に手を挙げたという。
というのも、彼女は大の子供好き。そのため、募集要項に『小学生のお子様がいるので、その子の相手も出来る方』と書かれていたので迷いはなかったようだ。
今朝からここへ来るのを楽しみにしており、今は平静を装っているが、内心はソワソワしているのである。
『早くお子さんに会いたい』
そんな願望を隠し相手の出方を待つ海未だが、当然そんなことは佳斗たちの知らぬこと。
むしろ、佳斗自身は好感を抱いているようだが、美里は兄からの紹介を遮って、自ら名を告げる。
「はい、こちらこそお願いします。私はここを経営する神川佳斗。そして、こちらが妹の……」
「夏目美里よ。よろしくね」
前日に雄介から聞かされてはいたが、海未の見た目は娘たちとそう変わらない。
落ち着いた雰囲気にも好感が持てて特に問題もなさそうだ、と思いはするが……、何か引っかかる。
それが女の勘というのであれば、鋭いというしかないが……。
「雄介さん、《《良い方》》を紹介してくれたみたいね。《《娘たち》》とも話が合いそうだわ」
「ああ、遅い時間までいてくれるのも助かるし、ルリちゃんと面識もあるみたいだからね。雄介には、ほんと感謝かな」
美里の反応とは違い、佳斗は何も感じていない様子。
これは男性から見る女性像が甘々だからといえるが、同性同士は厳しいもの。
ただ、それでも美里の感じている違和感の正体がわからない以上は、これまでということだろう。
顔合わせも終わったので、まずは仕事である。
海未は美里に教わりながら、業務に就く。
彼女はこれまで大手のパシオンゴルフガーデンに勤務していただけあり、基礎は出来ていた。
あとは受付だけでなく、全ての業務を熟せるようになれば助かるが、それにはまだ時間が必要だ。
まずは受付をしつつ順にというところである。
と、そこへ授業を終えた陸斗が、学校から帰ってきた。
「ミサトおばさん、こんにちわ」
「あら、こんにちは、りっくん。早いのね」
「うん、今日から新しい人が来るって聞いたから、急いで帰ってきたんだ」
と、元気に報告。
その会話の様子を受付で見ていた海未は、何故か目を潤ませていた。
『ああ、活発で幼い見た目の少年。
こんな可愛らしい子の面倒を見させてもらえるなんて、ここは天国かしら』
「たすかる~」
と、うっかり漏れ出た声は、誰に届いただろうか。
幸い美里たちに反応はなく、聞いていたものはいなかった。
そして彼女は……。
『ハァァァァ……、ヤバすぎるわ。私は《《見る専》》だから大丈夫だけど、他の人たちに知られたら大変なことになるわね』
と、どうやら面倒な体質であるらしかった。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
最後にフラグ的なことが書かれていますが、特に事件は起きませんので、あしからず。




