破綻寸前
このお話は、カクヨムで連載しているお話です・
一話をお読みいただき興味を持った方は、そちらへお願いいたします。
十月初旬。
爽やかな秋風が吹き、絶好のゴルフ日和となったこの日。
ゴルフ練習場を経営する神川佳斗(42歳)は、幼い息子にこう告げた。
「すまない、陸斗。もう、ここは続けていけそうにないんだ」
ここは小さなゴルフ練習場で、経営者を務める彼はB級のライセンスを持つティーチングプロだ。
三十歳でツアープロになる夢を諦め、実家の練習場経営を継いだのだが、その両親も既になく、最愛の妻である杏沙も三年前に病いで亡くしていた。
そのため、まだ小学六年生の息子とここを切り盛りしてきたが、今時、打席数も少なく、自動でティーアップする装置も完備されていない練習場では、訪れる客も少ない。
最近では客のほとんどが昔ながらの常連たちで、皆高齢だからいつまで通ってくれるかわからない状況だ。
彼らから聞こえてくる会話も『足や腰の調子が悪くて』とか、『すまんが、暫く入院せにゃならん』などと健康に関するものが多く、このままでは経営難に陥り破綻は免れそうにないと思われる。
現に、今も土曜日の夕刻だというのに、客は誰もいないのだ。
「父さん、レッスンの仕事に専念しようかと思っていてね。知り合いのプロゴルファーにキャディーを依頼されていて、それを受けようと思うんだ」
そう、申し訳なさそうに息子へ告げた佳斗。
彼は稼業であった練習場経営を諦め、ティーチングプロとして生きるつもりであった。
そのためにもプロゴルファーの専属キャディーという肩書は魅力的であり、このタイミングを逃す手はないのだが、ツアーへの帯同となれば家を空けることも多くなり、まだ十二歳の息子に一人で留守番を任せるには心許ない。
そのため、近くに住む妹(陸斗には叔母にあたる)の家で預かってもらえるように話を進めていたが、 それを察してか陸斗はまだ幼さ残るその顔を涙で歪め、
「僕、ここにいたいよ」
と、父に告げた。
というのも、神川家の母屋が併設されたここは、陸斗にとってまだ母親が生きていた頃の楽しい思い出が詰まった場所だ。
佳斗がレッスンの仕事で留守をした時などは、二人で店番を頑張っていたのである。
そんな場所を離れるなんて頭ではわかっていても納得できるものではないが、それは佳斗も同じこと。
悲しみに暮れる息子を、ギュッと抱きしめ……。
「大丈夫、すぐに戻ってこられるよ。男子プロの試合は毎週あるわけではないし、シーズンオフになれば、ここでレッスンを希望する生徒を募集するつもりだからね」
そう言ったことで、陸斗にも笑顔が戻る。
「えっ、ほんと?」
「ああ、約束する」
「うん、じゃあ我慢する」
こうして佳斗は息子を説得し、陸斗は叔母の家へ預けられることを承諾。
話は纏まったかに見えたが、その時だ。
「たのもう!」
そんな、いつの時代かもわからない訪問を告げた者がいた。
二人は不思議に思い顔を見合わせるも来客を待たせるわけにいかず、会話をしていた事務室から出て入口へ向かう。
すると、そこには赤茶けた髪をした、中学生くらいの女の子がいて……。
「初めまして! 私は朝陽瑠利。大内プロの紹介で来ました。神川先生にお願いです。私を先生の弟子にしてください!」
そう捲し立て、深々と頭を下げたのだ。
第一話をお読みいただきまして、ありがとうございます。
この作品は神川ゴルフ練習場を舞台としたお話で、ヒロインである朝陽瑠利がプロゴルファーになるまでを描いたヒューマンドラマです。
ただ、先に言ってしまうと、スポ魂ものではありません。
小学生の主人公、神川陸斗との出会いから始まり、互いに競い、支え合い成長していく。
そして、いつしか二人は惹かれ合い……。
となることを目指して書いていますが、どうなることやら。
おもしろい、先が気になるという方。
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