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『三十九』

『39』

 善と悪、その二極のみで物事や人物を判断するしかないのでしょうか--。

 その二極の狭間にこそ、無数の個性がそれぞれ蟠踞しているのではありませんか--。

 一極集中や二極化などではなく、多様性こそが新たなる道を切り拓くのだと私は思っています--。

 故に、占術もまた不変ではなく、時が流れていくように導き出される解も変わっていきます--。

 マリンに言われた言葉たちが追憶の欠片となって、一つずつデルソフィアの心を埋めた。

 マリンに対し、善悪の別を断ずることができず、悪なる者と想定して行動してきた。間違いだったのかもしれない。

 「悪なる者か?」ではなく、「善なる者か?」と問うた。悪なる者という想定で傾いていた心内の天秤が平衡へと還り、善なる者という想定へ傾きかけたことを物語っていた。

 断定はできない。それは時期尚早だと理解している。

 一方で、アルズスに対して抱く違和感、些細な瑕疵は拭えていない。

 アルズスとマリンの会話を振り返る。短いやり取りだったと思う。だが、必要十分だったように感じる。そこに違和感を抱いてしまう。予め用意されていた進行表に沿ったような、既に出来上がっているものを途上だと偽っているような、微かだが、そんな瑕疵を拭えない。

 しかし、そこで推敲は止まる。違和感、瑕疵の元となっているやり取りは、アルズスひとりではできないからだ。そうすると、マリンもまたアルズスに同調していることになる。たった今、悪なる者ではないかもしれないとしたマリンが、アルズスと共に予定調和な会話に終始し、それを自身やルネルに見聞きさせたということだ。

 いったい何のために?

 自問すれば、アルズスの素性にすら疑念を抱かざるを得なくなる。それは、惨劇の只中にあるウォルバレスタを救うべく、異国より駆けつけた者に対し、あまりにも敬意を欠いていると思う。

 そんな思いが、そんな筈はないと心内に告げる。それでも刹那の後、「可能性は零ではない」という言葉が身内を巡る。

 「堂々巡りだな」

 デルソフィアは思わずひとりごちた。それを気に留める者は周囲にいない。デルソフィアは、いま一人だった。

 アルズスに関する話をルネルに振ってみるという選択肢は、今回に限っては無かった。ルネルがアルズスに一目置き、同行するようになってからさらに惹かれていっていることは、デルソフィアにも手に取るように分かった。これまでにルネルと築いてきた関係や絆の強さは自負するところだが、それでもルネルが尊敬の念を抱き始めている人物に微かとはいえ違和感を抱き、疑念の目を向けているという事実を明かすことは、やはり躊躇われた。

 ルネルがアルズスに抱く気持ちに対する妬心は無いと断言できる。そもそも、ルネルがアルズスへと向ける感情と同じものを自身へも向けているとは思っていない。ルネルが尊敬する人物像があるとするならば、自身などまだまだ遠く及ばないだろう。

 それでも、共に歩み始めてからの日々の長短は一概には表せないが、濃淡でいえば間違いなく濃い日々を共にしていると言える。家族というものを除けば、恐らくいま最も信頼している存在だ。

 敢えて表現するならば、同志という言葉が最も近い。そんな同志が尊敬する人物ならば、自身も同じように尊敬の眼差しを向けたいと思う。

 思うが…それを許さない瑕疵が心内に棲みついている。その瑕疵が肥大していけば、ルネルとの未来にも一抹の不安を抱かざるを得ないのか。

 そこまで思い至った時、デルソフィアは激しく戦慄した。ルネルと培ってきた絆の瓦解。

 「ある筈がない」と思う一方で、ここでもあの言葉が胸を過ぎる。

 可能性は零ではない--。

 デルソフィアはルネルの姿を思い浮かべることで、戦慄からの脱却を図った。

 しかし、何故だろうか。脳裏に浮かび上がったのは、剣を両の手に携えて進むルネルの後ろ姿だった。

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