『序』
『序』
生命を奪う--どんな形でも、たとえ不可抗力であっても、奪われし側に想いを馳せれば、それは間違いなく罪でしかない。罪でしかないのだ。
故に、奪った側は重しを悉く身に携えて、惑いに惑う生が続いていく。
例えばそこで無感情のままにあるものは、悍ましき化物に成り下がりしものなのかもしれない。
化物の悍ましさなぞ、正視するに耐えざるものなのかもしれない。
罪人は常人に戻ることを願い、戻るよう努めなくてはならないが、その実、決して常人と同じ生に戻ることは適わない。
それでも、罪人がその罪の後に捧ぐべきものは、全てが他利でなければならないのであろうか。
名無き花のようにただ陽へ向かい、その生を懸命に貫いてきても、罪の縛から放たれることを望んではいけないのであろうか。
溢るる感情の雫が糧となり得ようとも、それすらひたすら自制しなくてはならないのであろうか。
芽生えた恋心を秘すことで、宿命を負う覚悟とするならば、夢幻の幸福が心底で儚く揺れていることに気付く。
嗚呼…嗚呼…嗚呼…。
愛しき君よ、せめて今のこの瞬間だけ、心の白地図に色を落としてほしい。
愛しき君よ、せめて今のこの瞬間だけ、無明の世界に灯をともしてほしい。
愛しき君よ、せめて今のこの瞬間だけ、とどまることのない時の流れを止めてほしい。
……せめて今のこの瞬間だけ、その名を呼ばせてほしい。