第98話 会議 3 悩ましいプレゼント
「あ、おい、お前らが居なくなったらどう話を……リアーネが分かってるか」
「まぁね。というか相談っていうのもこっから先の話なんだ」
ダリルは一瞬慌てるが、リアーネなら話は分かっているだろうと思い直して放置した。
そして彼女が言うには、相談とはこれからだったらしい。
「魔道具で何か作ってあげたいって話なんだけど……僕も良い案が出なくて」
「急な話で準備も何もないし、好みの物も特にこれっていうのが分からないから、あの2人で服、大人組で魔道具をって考えてる」
どうやら魔道具技師として何か作ってあげたいと思っているようだ。
いくら打ち解けているとはいえ未だシアと出会ってから日が浅い。これだ、という物が思いつかないので自分に出来る事から考えたらしい。
そこには先日の想いも多分にあるのだろう。
急なプレゼントに悩むのはそこの男4人も同じであるので、どうせなら大人全員でいくつかの魔道具を送る形にするつもりという訳だ。
「なるほど、そういう事か。しかし魔道具……確かに悪くない、悪くないが色々ありすぎて逆に難しいな」
それは助かる提案なのだが、魔道具はとにかく種類が様々だ。
フェリクスは逆に何を選ぶのかで悩んでしまう。
「ふぅむ……嬢ちゃんは武器が全然持てなかったから、武器になるような魔道具をと思ったが、全体的に子供に持たせるものじゃないな」
団長も同じく考え込むが、戦闘畑のおっさんの考えるプレゼントだ。
しかも魔道具の中でとなると、思い浮かぶのは物騒な物ばかりである。
少女へのプレゼントと考えると流石にちょっとどうかと思う。
「もし可能ならば、あの子の力を魔道具にしてみたらどうだ? 毎回かなり集中しているみたいだし、制御の助けにもなるかもしれない……が、微妙か?」
物騒ではないまともそうな案をダリルが出してくれた。
強力な魔法の制御の補助として魔道具を使う事もある。
しかし魔道具に依存した技術を使う人は少ない。
それらは複雑故に比較的大きく、そんな物を持ち歩かなければ扱えない魔法など安定しない。
なので自分で言っておいて若干否定的でもあるらしい。
「昨日やったように障壁を剣の形にしてくれる魔道具とか? 軽すぎる問題は有れど、武器が無いよりはマシだしな」
それでも案としては悪くないとフェリクスは考えてくれているようで、昨日やっていた変形を魔道具にさせるのはどうかと言う。
結局物騒じゃないか、と突っ込んでくれる人は残念ながら居ない。
「それなら……矢を作る物とかもアリだな。矢の嵩張らない弓なんてかなり有用だろう」
とりあえず案に乗ってくれたので、他の提案もしていく。
矢ならば多少威力は落ちるだろうが、軽さもそこまで問題にはならない。
なにより嵩張らないのはかなり良い。
弓が扱えるのか、矢の形を維持したまま遠くまで飛ばせるのかという疑問はあるが……
「確かに、それはかなり使えるな。なんにせよ、製作出来るならっていう前提だがな」
それを聞いて団長は純粋に素晴らしい案だと思ったのだが、そもそも作れるかどうかだ。
「ふむふむ……一応原理的には可能だね。あの子の力をまず調べなきゃならないのは確かだけど」
意外とスムーズに出てくる案を聞いて、リアーネはメモをとっている。
調査は必要だが、とりあえず期待は出来そうだ。
建築用の決まった形の石材などを作る魔道具があるが、やっている事は形を整えるという点で同じである。
しかもそういった物は複雑ではないのでサイズも小さくて済む。
特にシアの力は、より単純な力そのものの変形だ。
「障壁を作る助けになるものは? 球体だとか、地面に合わせたりって事らしいけど……変形って意味では同じだし、負担を減らせるかも」
シアの力を間近で観察した経験から、セシルも意見を出していく。地味ではあるが有用な案だ。
「それもアリだな。ただ、魔道具なら誰でも未知の力が使えてしまうだろう。力を隠すというのもあるし……肌身離さず持っていられる形にした方がいい」
案としてはどれも良いが、フェリクスが注意すべき事を伝える。
魔道具なら誰でも使えてしまうという懸念がある。
彼女の力を隠すのならば、万が一落としたり奪われた場合に面倒な事になってしまう。
出来れば固定して持ち歩ける形にしたい。
「なるほど……私だけじゃどれも発想出来なかった、ありがとう。とにもかくにも、まずはシアの力で魔道具が作れるかどうかから調べなければ……」
結局の所まずはシアの力を調べなければ始まらない。
魔道具を作れるかどうか判断出来なければどうしようもないのだ。
「よし、私は今すぐ帰ってあの子の力を調べてみる。出来そうならそのまま製作に入るよ。無理だったら既存の物を加工しよう、何か良い候補を上げておいてくれ!」
時間も無いし思い立ったら、といった感じで急いで帰ろうとリアーネは鍛錬場を走っていく。
一応、製作が無理だったり時間が足りないようなら、既存の物を軽く加工して贈るつもりであるらしい。しかし何を選ぶのかは丸投げしていった。
「ちょっ、お前まで居なくなるのか!?」
今度は流石に居なくなられると困るので真面目に焦るダリルだが、そんな言葉は全く届かず彼女は帰っていった。
「あいつ……あんな性格だったか?」
「嬢ちゃんの為に何か出来るのが嬉しいんだろう。しかし候補を上げとけって言われてもな……」
そんな行動が意外だったのかフェリクスが呟いた。
あんなに前のめりで勢いのある彼女は見た事が無かったのだろう。
対し団長は冷静に分析していた。
先日の悩みから始まる彼女の想いを考えれば当然なのかもしれない。
自分に出来る事でシアの為になるかも……というのが嬉しいのだろう。
もしかしたらあっという間に何かしら製作してしまうのでは、と思わせる熱量を感じた。
しかしそれはそれとして、丸投げされたことには文句も出るというものだ。
「困ったな……戦闘用のはどれも子供が持つ物じゃないし。何処にでもある生活用の物しか思い浮かばないぞ」
候補が無い事にダリルは頭を悩ませるが、もうそれで行くしかないかもしれない。
「まさかこんなあっさり話が終わるなんてなぁ……」
当初はかなり考え込んでいた筈だったのだが、いざ相談してみればあっという間だったのでセシルは拍子抜けしている様子。
しかも当人まであっという間に居なくなったのだから、どうすればいいのやら。
結局セシリア達が戻るまで男達は頭を抱える事になったのだった。




