第93話 新しい日常 4 可能性
「やはり早すぎたな。もっと成長しないとそもそもが無理だろう」
あらゆる面で彼女に武器は無理だとハッキリ分かったので、団長は武器については終わらせようとした。
「弓なんかどう? シアでも持てるサイズじゃない?」
「いや、それは……」
しかし横からルナが弓を持ってきてシアへ渡した。
特別大きくなければ持つことはなんら問題は無いが……
ダリルは先に無理だと伝えようとしたが、シアの行動の方が早かった。
「ふぬぅ~……っ! ……無理」
とりあえず弦を引こうとしてみたシアだが、全く無理だった。
戦闘用の弓など、非力な子供の力で引けるものではないのだ。
それでも強化をすれば大丈夫かもしれないので、武器としては唯一シアにも扱えそうな物だろう。
確実に筋肉痛で苦しむ事になるだろうけれど。
「だろうな。弓ってのは案外力が要るんだ。それにこいつはそこまでじゃないが、より威力を出す為に強化が当たり前だからな」
話を聞かなかったシアにフェリクスが説明をしてあげる。
より強く放つ為に、大人でもしっかりと強化をしないと使えないような強力な弓もあるらしい。
「強化しなきゃなんにも使えないじゃん!」
「と言われてもな……嬢ちゃんみたいな小さな子が使うようには作られてないんだよ。強化の負担も考えたらそれこそ無理がある。今回は筋力の確認も兼ねてとりあえず試しただけだ」
何もかも全然使えそうにない事に、そんな非力な自分に、シアは残念がるどころか若干怒り始めた。
やはり自分には何も出来ないのか、という悲しみが大きいようだ。
「何も出来ないのを確認されるのはつらい……」
「悪かったって……流石にその辺は自分でも分かってると思ったんだが……」
「分かってはいるけど……持った事は無いし、もしかしたらって……」
しょんぼりと項垂れて悲しそうに呟くシアを慰めようと、大人達は若干わたわたしている。
フェリクスが口を開いたが、それはそれ。
分かっていても試したくなるし、試した結果に不満があるだけだ。
見た目通り、子供のように拗ねているだけなのだ。
「もう障壁を武器にしちゃえば? あれ殆ど重さ無いし、めちゃくちゃ丈夫だし」
なんだかどうしようもないらしいシアを見かねてルナが提案。
「なるほど、確かにそれは素晴らしいな……出来るか?」
それを聞いたダリルは一瞬で意識を変えてしまった。前のめりでシアに訊ねてきた。
実際に氷や石で武器を作る事はある。武器としては貧弱もいいところだが、魔装で覆えばマシだ。
主に武器が破損した時などに使える、その場限りの応用である。
同じように物質を作り出す彼女の力なら可能なのではないかと思える。
「いや、そんな期待の目で見られても。どうかな……」
「試してみたら? とりあえず小さい壁出して、形を変えてみるとか」
「まぁ……やってみるけど」
急に態度の変わったダリルに引きながらシアは困惑している。
今までそんな変形などした事が無いのだ。
やってみなきゃ分らない、とルナが後押しをしたからか、とりあえず試してみようと空中に障壁を作った。
この間作ったように多少の厚みはあるが整った形だ。
「改めて見るとなかなか気になる物だな」
「本当にな。これで剣の形にでもしてみたらどうだ? こういうの」
ダリルと違って、出会った時以来じっくりと見た事が無かった団長とフェリクスは触ったり叩いたりと興味津々な様子。
そして傍にあったシンプルな剣を持って、参考になるかと見せてあげる。
「……ん~……むぅ……」
作った障壁と剣を見比べ……唸りながら変形させようとするが、どうにも上手くいかないらしい。
出来上がったのは細長い板の先端を斜めに切り落としたような形。
「ふむ……なんとなく剣っぽいといえば剣だが。側面が問題だな、刃にならない。魔装で鋭さは多少作れるが……そもそもがこれじゃあ無理だな」
ダリルはだいぶ柔らかく評価したが、正直これを剣とは言えないだろう。
なにより、彼の言う通り刃が無かった。
「こんな複雑な形無理だよぉ……今までだって簡単な形にしか出来てなかったのに……」
どうやらシアは結構真剣に頑張ってみたらしいけれど、全然上手く出来ない事に嘆いている。
まぁ……シンプルな剣の形とは言うが、それを作ろうとすれば途端に複雑となるのは当然だった。
剣身と柄だけでも全く形が違う上に、厚みも考えなければならない。
切っ先を薄く研ぎ澄ませ刃とするのはどうしたらいいのやら。
それでも一旦形作れば維持は難しくないのか、地面に落としても残っている。
「流石に無理か~……残念」
良い案だと思っていたのか、ルナも残念そうにしている。
実際良い案だったのだけれど難しすぎる。
「だが多少なりとも形を変えているわけだし、練習していれば出来そうだな」
落ち込んだシアを慰めるように団長が励ます。
どれくらいの時間がかかるかは分からないが、絶対不可能とまでは思えない。
「このまま変形させるというのを鍛えるべきじゃないか? 色々と可能性の塊だぞ」
「確かにな。作った後の維持も出来てるし……最高の防御が転じて最高の武器か。夢があるな」
フェリクスも同様に思ったのか、シアの力の使い方として変形させる事を重点的に鍛える事を提案した。
この障壁の強度を彼らは未だ詳しく知らないが、もし武器を作れたなら強度に優れる上に破損も無意味な武器となり得る。
ダリルはその可能性を考えてかなり期待している様子だ。
「いや、そうは言ったがこれは……どうだろうな。持った感じあまりにも軽い。どれだけ硬かろうが重さが無ければ威力は無い。残念だが……」
しかし団長はシアの作った物を手に、残念そうに口を開いた。
彼女の障壁は殆ど重さが無い。故に武器としては軽すぎるのだ。
例えこれがちゃんとした剣の形をしていたとしても、威力はそこらの剣に負けそうだ。
「……っ! やっぱ何にも出来ないやつ……」
そう言われてシアは崩れ落ちてしまった。
可能性を、希望を示されたと思ったら砕かれた。
「まぁまぁ、焦るなって。なんにせよ幼過ぎる今を基準に考えたって仕方ない。当面は障壁の使い方と体作りだ。ついでに体の動かし方もだな」
「俺達も色々考えてやるから、今すぐどうにかしようなんて考えるな。それこそ無理な話だ」
流石に重さまでどうにか出来るとは思えないし、これは難しい問題だろう。
ダリルとフェリクスは向こうで休んでいる彼女達にも言ったように、これから出来る事を教えていくから焦るなと優しく伝えた。
「あっちも充分休憩出来たみたいだし、やってやらなきゃな。また走るなり障壁の練習するなり、無理しすぎない程度に時間潰しててくれ、な?」
「はーい……」
このまま続けても、ひたすらシアを落ち込ませるだけだと察した団長は話を切り上げた。
とにもかくにも、今出来る事を少しずつやっていくしかない。
未だ不満気なまま、頬を膨らませて返事をしたシアの頭を撫でて歩いていく。
彼に続いてフェリクスもダリルもまた、再度セシリア達を虐める……鍛える為に戻っていった。




