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第91話 新しい日常 2 貧弱幼女

「さぁ、今度は全力で休め。一息付いたらもう1回だ。これを繰り返して本当の限界までやるからな」


 何も言わずにただ聞いていただけの3人に向かって、ダリルがひとまず休憩だと伝える。

 休憩が終わればまた全力で戦うのだ。

 勿論ルナに頼んで、治癒魔法で回復するなんてのはナシだ。それではシアのように体力も付かない。

 つまり、次はより厳しい戦闘になるというわけだ。


「……はぃ」


「きっつ……」


 息も絶え絶えなセシリアとリリーナは、転がったままなんとか返事を返す。

 自分達で望んだ事ではあるが、流石に予想以上の厳しい鍛錬だったらしい。

 それでも精神的には全く折れていない。


 これはシアがルナと共に山でしていた鍛錬に近い。

 あの頃はひたすら障壁を練習してルナが常に体を癒し……魔力が戻ればその繰り返し。

 敵が居れば実戦で実践。

 何回も体調を崩し倒れても、毎回のように限界まで続けたのだ。


 限界までとにかく繰り返すというのは、あまりにつらく厳しいが効果は大きい。

 体力も伸ばすという面もあって回復さえ無いので、苦しさは言葉に出来ない程だろう。


 まぁシア達は考えが及ばなかっただけで、体力を伸ばさないなんてつもりは無かった。

 何より、本来は回復など無いのが当たり前である。


「いや、ここまで余裕を見せられるとはね……」


 2人に比べればまだ随分とマシな状態のセシルだが、大人達との力の差に叩きのめされたらしい。

 それでもやはり折れてはいない。

 より高みを目指そうと微かに笑みを浮かべている。


「まぁ3対3だしな。俺達は長年組んでいて息も合わせやすいし、とりあえず実力差には目を向けなくていい」


 今回は様子見も兼ねて3対3での戦闘だった。

 それはそれで、連携やらなんやらで個人の実力以上に差が大きく出たので仕方ない。

 団長の言う通り、この鍛錬で見るべきは実力差ではないので気にする事ではない。


 そう言うと大人達は思い思いに時間を潰し始めた。

 皆が回復するまで待つわけだが、その間に離れた所で転がっているシアの様子も見るようだ。


「シアちゃん……見てる余裕無かったけど、大丈夫かな……?」


「ルナが傍に付いてくれてるし……走るだけだったから、大丈夫だと思うけど……ちゃんと見てあげられないのが悔しい……」


 大人達がシアの方へ行くのを見て、息を整えながら呟く。


 彼女達は未だ転がったままだが、シアへの心配はしっかりしているらしい。

 ルナが付いている事から安心もあるようだ。

 けれど残念ながら、結局まともにシアを見る余裕など無かった事に不甲斐なさを感じている。



「こっちはこっちで問題だな……病み上がりだからか?」


 心配性らしいルナが気にしていないようなので、とりあえずシアは大丈夫なのだろう。

 そう思ってフェリクスは落ち着いて彼女を見ている。まさか走っていただけでダウンとは……と言った感じだ。

 彼もまたシアの貧弱さを具体的に知らないのだから仕方ない。


「本人は全快だって言ってたけどねー」


 悪戯にも反応してくれないシアから離れ、病み上がりとか関係無くこれが限界なのだとルナは教える。

 事実、寝込んでいる間ひたすら魔法で癒してもらったお陰で、全くなんの問題も無かった。

 壊滅的に体力が無いのは元々だ。


「短時間走っただけでぶっ倒れるとは、予想以上に無理は出来そうにないな」


 一度魔力の使い過ぎで無茶をさせてしまった事もあり気にしていたのだが、予想以上の貧弱さを再確認したダリルは頭を悩ませる。

 こんな有様でどう鍛えていけばいいのだろうか?

 体を動かすにも武器を使うにも体力は必要だ。そもそも武器が持てるのかすら怪しい。


「体力が無いのは分かった。すぐに変わるモノでも無いし……体も成長していくから、長期的に見て少しずつ鍛えていくか。今は体力以外を伸ばしたほうが良さそうだ」


 まだ10歳――しかも歳相応の成長さえ出来ていない。

 これからの成長も考え、ひとまずは長期的に体の改善と体力を付けていく事にしよう、と団長がシアへ伝える。

 聞こえているかは分からないが。


「……ぁい」


 なんとか聞いていたらしく、蚊の鳴くような声で答えた。


「おぉ、生きてた」


 シアは魔力さえ使っていないので、ただ疲労困憊なだけだ。

 それが分かっているから心配していなかったルナは、返事を聞いておどけるように反応した。


「治癒魔法が無いと……こんなにキツかったんだね……」


「そもそもそんなに動く事なかったもんね」


 ゴロンと横に転がって仰向けになると、息を整えながら口を開く。

 汗で地面に小さな人型が出来ている。砂まみれでも気にする余裕さえ無いらしい。


 今までだったらこんなに疲れる前にルナが癒してくれていた。

 そうして体調を整えて、障壁と魔法の制御、魔力を伸ばすという鍛錬をしてきたのだ。

 今更になって、それがどれだけ異常な事だったのか……本来はどれだけ体力が無く弱かったのかを痛感したらしい。

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