第87話 復活と前進 2 トラウマ級の恥
一方……お風呂場で服を全て脱いで体と一緒に洗い始めた、泣きそうなシアの元へルナが到着。
「ぅう……ぐすっ……あれ、ルナも来たんだ?」
すぐそこからお湯が出るのだからわざわざ魔法は使わない。
風呂場までは早かったが、しょぼくれていて洗うのはゆっくりだ。
まだまだ真っ赤な顔でぐずりながら、入ってきたルナに気付いて手を止めた。
「だって隣でやられたんだからさ。一応洗っておきたいし」
服を消して魔法でお湯を出して体を綺麗にしながら文句を言う。
シアがシャワーを使っているからこっちは魔法だ。
それにしても相変わらず便利な服で、洗う必要も無く新しく作るだけで解決してしまう。
どうやらルナは怒ってまではいないが虐める気は満々な様子。
揶揄う良いネタが出来たといった感じか。
「ごめんなさいぃ~……」
「シアのそういうお世話だってした事あるけどさ。自分まで汚れる気は無いの」
手を止めたまま情けない声で謝るが、ルナは気にせず続けた。
そんな経験があろうと、隣でおねしょされるのは当たり前だが嫌である。
「ほんとごめんて……恥ずかしいからもう言わないで……」
耐えきれないのか、ついに顔を両手で覆って体も丸めて更に小さな声で言う。
「ちゃんとトイレ行けば良かったのに。なんで我慢しちゃったのさ?」
あっという間に体を綺麗にして新しく服を着たルナは、言い過ぎないうちにイジメるのを一旦止めて聞いた。
トイレに行っていれば問題無かったのに我慢なんかした理由を知りたいらしい。
「だって1人で行くの大変だし……わざわざ誰か呼ぶのも悪いし……順調に回復してたから後で大丈夫かなって……」
蹲っていたシアは顔を上げて、ばつが悪そうに目を逸らしながらボソボソと言い訳した。
時々目が覚めても自力で歩いていくのが酷く億劫だったのと、人を呼ぶ事に遠慮をしてしまったらしい。
常に誰かが見ていたわけではないし、ルナだって運悪く眠っていた。
夜などそれこそ、ベッドからどうにか誰かを起こすのを躊躇ってしまうのもまぁ、分からなくはないかもしれない。
「そうやって遠慮した結果、余計に大変な事になってるじゃん……看病するために居るんだから、誰も迷惑なんて思わないのに」
「もう思い知ったから……気を付ける……」
ルナは至極当然な言葉を返した。
寝込んでいるシアに頼られて迷惑だなんて思う人はここには居ないし、疲れが残っていたルナだって看病の為に傍に居たのだ。
眠っていても遠慮なく起こしてくれて構わなかった。
そんな事もわざわざ言わなきゃ分かってくれなかったのか、という不満がありありと伝わってくる。
流石にシアもそんな気持ちが分かったようで、随分申し訳なさそうにしている。
「ま、これでシアはおもらししちゃう子って印象が追加されたわけだ。自業自得だね」
説教したい訳ではないルナは、話を変えるようにまた軽く揶揄った。
「もうやめてぇ……」
事実故に言い返せないシアはもう泣きそうになりながら、顔を覆って天井を仰いだ。
さっきからシャワーが床で暴れているので、ルナはひとまずお湯を止めて片づけてしまう。
「とりあえず本気で恥ずかしがってるみたいだし、これ以上は言わないけど……ほんと気を付けてよね」
ずっと真っ赤な顔で泣きそうにしているからか、揶揄うのはそこで止めた。
先程も言い過ぎないようにしていたあたり一応気は遣っているらしい。
軽い態度でいることであえてシアの気を紛らわせているのかもしれない。
言いながらついでのように、洗う事を忘れていそうなシアの全身を魔法で一気に綺麗にした。
服も多少シアが洗っていたので、おまけでさっさと洗ってあげる。
「わっ。ありがと……」
急に魔法で全身を洗われて少しびっくりしたものの、素直にお礼を言ったシアはお風呂場を出て脱衣所へ戻る。
「こんな事で時間使ったって仕方ないでしょ。さっさと着替えなよ」
「うん」
ただ洗うだけでもたもたしていたってなんにもならない。
さっさと気分を切り替えてしまえ……と、ポイポイとシアの服を投げ渡していく。
とりあえず綺麗になったけれど、漏らした下着をまた穿くのも気分的に嫌だったのか、新しい下着に替えて服を着た。
「ひとまず元気になったみたいで良かったけどね」
「それはもう。ルナも魔法使ってくれてたし、いつも通りの体調だよ」
そうして綺麗にした服を持って話しながら脱衣所を出ていく。
なんにせよ充分に元気になったようで、そこはルナも安心しているようだ。
勿論ルナがずっと魔法で癒していたお陰である。
疲労回復と活力を与えるだけではあったが、それは傷の治っていたシアに一番必要だった。
そのせいでルナ自身が疲れて眠ってしまったのだけれど。
こうして回復される事に慣れてしまっているから、いつまで経っても体が改善されないと言われてはいたのだが……今回は仕方ないだろう。
目の前に酷く弱った親友がいて、自分に癒す力が有って、それでもただ見ていろなんて。
それは中々に酷な話だ。




