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第85話 戦いの後で 5 少女の為に、少女と共に

「なるほど、な」


「うぅむ。想像もしていなかった事だな。確かに公にするのは避けたいか……」


 話を聞いた団長とフェリクスは難しい顔をして、腕を組んで考え込んでいる。

 話の中でダリルが言った通り、公にすれば確実に面倒が降り掛かる。


「その新しい属性とやらで、何か世界を変えかねない物を生み出せる可能性はあるけど。だからと言って、ねぇ……」


 リアーネは新たな属性の力というものを魔道具技師としての面から考えてみる。 

 調査と研究次第だが、今までに無い物を作り出せる可能性は充分にある。

 千年の歴史上どころか、繁栄を極めた旧時代でさえ存在しなかった物を。


「そこが悩ましいところだ。もしかしたら何か良い結果が得られるかもと考えるとな」


 そうなれば事は世界規模と言ってもいい話だ。

 それを数人の判断で無かった事にするというのも気が引けるが……それこそ途轍もない物を彼女に背負わせる事になってしまう。


「いいんじゃないか? 今のままだって安定はしてるんだ。もしかしたらの為に、想像も難しい程の面倒を背負わせるのは気の毒だ」


「俺達だけで何か研究なりしてどうにか出来る事でも無いし。ひとまずは隠して、このまま置いておいたほうが良いだろう」


 考え込んでいた団長とフェリクスが彼らなりの答えを出した。

 今でも世界は安定している。どうにかこうにかバランスを取って上手く回っているのだ。

 そんな中で、彼女に巨大な負担を押し付けて新しい何かを生む必要性はあまり無い。


 今後何か考えを改める必要が出来たらその時にまた考えればいい。

 つまりは現状維持で後回しという事だ。

 

「そうだね……隠していたいかも」


「きっとシアを護る事には繋がらないと思うからね」


 当然だがセシリアとリリーナも、シアにそんな重荷を負わせたくなどない。

 それなら隠す以外に選択肢は無い。

 例え世界規模の話になろうが、そもそも誰も知らなければ関係無いのだ。

 今まで通り何も変わらない。



 そうして其々結論を出したところで、ダリルが疑問の声を上げる。

 どうやら既に別の事を考えていたらしい。


「そういえば、何故グリフォンは目の前の討伐隊さえ無視して、大勢の中から彼女を狙った? 今言った通り彼女は特別……その所為で狙われてしまうのか?」


 改めて考えてみれば、その疑問は当然の物だった。

 シア達とグリフォンの事情を知らないのだから仕方ないが、なにやらそれらしい理由を考えついてしまったらしい。

 残念ながらそれは違うと否定してくれる人など居ない。


「確かに。街に入って襲う事は別におかしかねぇから、それ自体は気にしていなかったが……そう言われるとそうとしか思えないな」


 街まで来てしまった以上、中へ入って人を襲うという事自体は充分想定される。

 だから討伐隊は出来る限り全力で攻撃した。

 なのに傷を負っても無視して街へ入り、大勢の中から彼女だけを狙った。しかもわざわざ連れ去ろうとしたのも異常だ。


 そう言われてしまうと団長は――いや、誰も疑う事は出来なかった。

 シア達が事情を隠していたが為に、如何にもな条件が揃ってしまっている。


「そんな……」


 セシリアは悲しそうな声を洩らした。

 ただ持って生まれただけであろう力の所為で狙われるなんて酷い話だ、と言わんばかり。

 リリーナも隣で悲痛な表情に変わった。


「そうなると彼女の故郷が襲われたってのも怪しく見えるな。あれこそ異常だったのだから、もしかしたら……」


 そして団長がとんでもない事を言い出した。

 彼らは絶対に思わないが、もはや疫病神のような存在になりそうである。


「それもあるか……しかし分からない事が多すぎる。あのグリフォンが特別だったのか、魔法生物だからなのか、魔物さえもなのか」


「とりあえず全て可能性として考えておこう。確証は何もないのだし、気にし過ぎても仕方ない。護るのは変わらないさ」


 結局は何も分からない以上、全て可能性だ。

 流石にこのまま想像だけ続けていても仕方ないので、フェリクスは一旦話を打ち切った。


 例え彼女を狙って街さえ襲われてしまったとしても、今は何処も万が一の対策を置いている。

 それで完全に大丈夫とは言えないが、どちらにしろ街も人も、シアも……護るという事は変わらない。


 当然だが、害を齎すかもしれないからと追い出すような考えなど微塵も無かった。

 皆揃って真面目な顔で頷いている。

 より一層、護るという意識が強くなったようだ。


「なんにせよ、あの子は力の使い方って奴を改めて知っていくべきだろうな。強くなりたいってのもそれに合わせてちょっとずつ考えてやるか」


 ひとまず団長は乗り気になっていた。

 鍛えるにはまだ幼いが、そういった危険の可能性があるなら話は別だ。


「未知故に俺達もどう教えていいのか分からないが、聞く限りは可能性の塊だしな」


 全く知らない力の使い方や鍛え方、そもそもシア自身が貧弱と問題は多い。

 それでもどうにかしてやろうと、フェリクスも同じように思っているらしい。


「その辺りは少しずつ様子を見て考えていくしかない。無理しない程度に、あの子が望むまま鍛えてやろうじゃないか」


「本当に無理させるなよ? あの子がやる気になってたとしてもちゃんと止めるんだからな?」


 ダリルも考え込んでいたのを止めて会話に混ざってきた。

 無理しない程度とは言うが、シアが自ら無理しかねないのが問題だ。

 そしてまたもや、無理させたのはお前だろう、とフェリクスが弄る。


「分かってるって。……お前達も、あの子が一緒に頑張るなら気は抜けないだろ」


 まだ言うか、といい加減面白い反応もしなくなったダリルは、弄りを流してセシリア達に話を振った。

 きっと彼女達も、シアと一緒に鍛錬していたらより気が入るだろう。

 弱った姿など見せたくないと必死になるはずだ。

 そしてそれは事実であり、2人は若干苦笑いしつつも頷いた。


「元々お前達には休みを増やしてやろうとしてたんだが、ちょっと調整して……上手い具合に時間を作ってやる」


「「ありがとうございます」」


 元より彼女達の休みを増やしてシアと居られるようにと調整を考えていた。

 それを鍛錬に変えて仕事を少し減らしてやればいい。


 そして鍛える側の彼らの時間も取らなければならないし、その全ての調整は簡単な筈も無い。

 2人もそんな団長に声を揃えて感謝を伝えた。



 そうしてなんとか彼女達の問題は解決……まではしていないものの、ひとまず収まった。

 何か余計な勘違いまで生まれてしまったが。


 保護された当初、保護者の目があったら鍛錬などさせてもらえない……なんてシアは考えていた。

 それが気付けば逆に鍛えていくことになっている。なんともまぁ、先の事は分からないものだ。


 その日はそのまま、看病の為もあるが休息となり男達は安心して仕事に戻っていった。

 シアはその後何回か目を覚ますが、特に何かが出来るわけでもなく……チビチビと軽く食事をするだけだ。

 そうして殆どを眠って過ごしたものの、幸いにも着実に回復していった。

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