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第81話 戦いの後で 1 分かっていても尚……

 グリフォンが討伐された翌日。

 既に諸々の後処理は終わり、いつも通りの日常へと戻っていた。

 シアを中心とした者達以外は――



 今は昼。彼女はまだ目を覚まさない。

 元より限界まで疲労した後に、多少回復しただけの状態で、より無茶をしてしまった。

 その上なかなか酷い傷まで負って出血も多かった。治癒魔法でも血は作れないので薬に頼るしかない。

 元より体が弱い彼女が未だ眠り続けてしまうのも仕方のない事だろう。


 一方ルナは今朝目を覚ました。

 過去に無い程の全力――激怒し感情を爆発させた彼女は、自身でも知らなかった限界を超えて戦った。

 故に彼女1人でグリフォンを圧倒出来たのだ。


 結果的には討伐隊が終わらせたが、シアがあれほど追い詰めてくれたからこそだった。

 でなければもっと時間がかかっていたし、街への被害も出てしまっていただろう。

 その代償とまでは言わないが、極度の疲労とシアを救えた安心から意識を落とし、半日以上も眠ってしまったのだ。



 団長とフェリクスとダリルはなんら問題は無い。

 少なくとも結果だけ見れば、予想以上の早さで解決した上に犠牲者も居なかったなら多少は喜べる。

 討伐隊など怪我すら負っていない。


 民間人を巻き込んだ事にはハンターとして、上に立つ者として責任を感じるが、幸いにもシア以外は軽傷だった。

 大人として、ハンターとして、シアを知る者として思う所はあるが、それはそれとしてきっちり分けて考える事が出来ている。


 セシルもまた、彼らに倣って大人のハンターとして振舞っている。

 経験の為に討伐隊へ参加したが、色々と想定外過ぎる戦闘では学ぶ事は殆ど無かった。

 それでも結果としては精神的に何かしら良い意味でプラスに働いたらしい。



 問題はセシリアとリリーナとリアーネの3人だった。

 護りたい大切な者を目の前で失う所だった、何も出来なかった。その大きすぎるショックと無力感で、精神的に酷く追い詰められてしまった。


 そもそもがまだ未熟で実力不足、リアーネに至っては戦闘などしないのだから、誰が見ても仕方ないと慰めるだろう。

 しかしそんな事は当人達には救いにならない。


 1人蚊帳の外になってしまったリーリアだが、自分には明確に出来る事が無いと分かってしまったのだろう。

 努めて普段通りに振舞い、幼いながらになんとか家族を支えようとしていた。

 今は姉達の説得で学校へ行っている。



 大人達もどうにかしたいと考えはするが、してやれることが無い。

 精神的な問題というのは難しい。解決するには本人が納得できるモノを見つけるしかない。

 その為の助言をするにも、まずは一旦落ち着いて冷静に受け止める必要がある。


 3人は揃ってシアの為に家に居るが、仕事など出来るわけも無いので団長が休ませた。

 むしろ揃っているなら話をしようと、男4人は彼女達の元へ向かった。

 追い詰められたままというのも放っておけないが、なによりシアが目覚めた時の事を考えたらさっさと立ち直っていた方がいい。


 彼女は聡い。

 3人が自分の事でそんな状態になっていると気付いて、心を痛めてしまいかねないと考えての事だ。



「で、お前らはいつまでそうしてグズグズしているつもりだ?」


 彼らは家に入り、未だ心配そうにシアの元に居る彼女達をリビングへ集めて話を始めた。

 口火を切るのはやはり団長だ。


 ルナは話には加わらず1人シアを見ているが、彼女は精神的には大して問題無い。

 ただただひたすらに心配をしているだけだ。



 シアの姉3人は揃って暗い表情。彼女達だって分かっているのだ。

 あれは仕方なかった、運の悪い事が重なっただけだ。ここまで自分を責めて追い詰める必要は無い。


 怪我も綺麗に治った。どうにか収まった以上、いつまでもウジウジしていてはいけないと思ってはいる。

 逆にルナとリーリアに嫌な思いを……心配で不安にさせてしまっていることだって理解している。


 だけど、だからと言って大人しく受け入れるにはショックが大きすぎただけだ。

 恐らく、時間さえ経てば自然と自力で立ち直れるだろう。

 それでも放って置くわけにはいかなかった。



「お前達が落ち込んでいたところで、なんにもなりはしない。あの子の姉だと言うのなら、姉で居たいなら、とっとと切り替えて前を向け」


 フェリクスも強い口調ではっきりと言う。

 彼女達が後ろ向きになってしまっているだけだと理解しているからこそ、説教として厳しくする。


「セシリアもリリーナもまだ子供だ。素直に受け入れて糧にするのは難しいだろう。しかし言ったはずだぞ、焦るなと。……そしてリアーネ、お前はなんだ?」


 まだ未熟な子供である2人には諭すように言ったダリルだが、リアーネに対しては違った。


「普段大人振っているくらいなら、こういう時こそ大人として助けになるべきだろうが。お前は彼女達を支え見守る立場じゃないのか?」


 彼女はいつも大人としてどうあるべきかを考えている。

 両親が街を出ていて、幼い妹2人を見てきた事から来る責任感が元であろうそれは周囲も理解している事だった。


 本当はそこまで大人ではないのに、大人であろうとする。

 そんな彼女にあえて大人としてキツい言葉を伝える。

 リアーネは唇を噛み締めて悲痛の表情だ。彼女自身、全て理解しているから。


 ショックを受けたのは確かだ。

 しかしそれ以上に……自分を責めてしまっているセシリアとリリーナを見て、どうしてやればいいか分からなくて混乱しているだけだ。


 そもそも戦えない彼女には、無力感に苛まれてもどうしようもない。最初から畑が違うのだ。

 そして彼女なりに受け止めて進もうとしている。そして彼女ならそうだろうと思ったからこその叱咤激励だった。



「僕だって思う事が無いわけじゃない。あの時、僕も何も出来なかった。だけどそれで自分の無力さを痛感して、成長しようと思った。君達だってそれが出来る筈だ」


 目の前で大きなショックを受けたかという違いは有れど、セシルもまた自分の実力の無さを思い知った。

 それでも前を向いて強くなろうとしている。


 乗り越えて前を向くには強さが――きっかけが必要だ。

 彼女達にとってそれは、まさに最初に団長が言った事。

 家族としてシアと共に居たい、護りたいと思う事。既に分かっている筈なのだ。


「どうしてそこまで自分を責める? 未熟な事は仕方ない、それがどうした? 力及ばない事なんて誰だってある。なら強くなればいいだろう。そうして護れるようになればいいだろう」


 団長はセシリアとリリーナに向かって一層強く伝える。

 自分を責める必要なんて無い。未熟なんて当たり前なのだ。


 だから強くなる。強くなって、同じような事を繰り返さないようになればいい。


「そうやって沈んだ姿をあの子に見せるのがお前達のしたい事か!? それであの子が喜ぶか!? ごちゃごちゃ考えてねぇで、まずは前を見やがれ! 強くなりてぇならいくらでも鍛えてやる!」


 一番効くのはやはりシアの事だろう、と考えて言葉を続ける。

 今の姿はシアに見せられるのか――否、彼女達は絶対にそうは思わない。

 見せまいと意地を張れる。


 彼は難しい事は言わないし多分言えない。

 しかし結局はただ単純に、それだけの話だ。

 ひとまず無事に終わったのだから、余計な事は考えずに前を向けばいい。

 そうなれるように話に来た。


 結果的にそれがシアの為になるし、彼女達にとっても重要な事になる。

 前を向いて強くなろうとするならば、その為の協力は惜しまない。


 そんな言葉で彼女達もいい加減立ち直らねばと、ようやく思い直して口を開こうとした時……小さな声が聞こえた。

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