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第78話 急襲 1 想定外の開戦

「なんだ――!?」


 団長はシアの頭の上の手を降ろして振り返る。周囲の皆も同様に振り返ったが、すぐに原因を理解した。

 遠目だが、グリフォンに追われる5人の男達。

 つまり例の隊は街までグリフォンを連れてきてしまったらしい。


 予想通りグリフォンに喧嘩を売って、敵わず逃げてきたのだろうが……街まで追ってくるとは、相当な怒りを買ったようだ。

 馬鹿な事をするだけに、なんだかんだ多少は戦えたのだろう。

 事実グリフォンはいくらか傷を負っている。

 彼らはそれ以上にボロボロだが……何故逃げ果せているのか不思議だ。


「ちっ、言ってりゃこれか。想像通りどころか、最悪な事をしてくれたな!」


「馬鹿共が……!」


 フェリクスがかなり怒った表情で吐き捨て、ダリルも同じく激怒している。


 グリフォンは街の前に揃う討伐隊に気付いたらしい。

 追っていた男達よりも脅威と見たのか、風で彼らを蹴散らしつつ急加速して討伐隊に向かう。

 どうやら、喧嘩を売っておいて情けなく逃げる彼らは、奴にとって既に嬲る対象になっていたようだ。

 ギリギリ逃げられる程度に追い詰めて遊んでいたのだ。本当にかなり怒っているのだろう。


 そのまま討伐隊の元まで来てしまったのは失策だが、討伐隊としても有利という訳ではない。

 予想外で急過ぎるし、大勢で纏まっていては戦いづらいのだ。


「グリフォン来ちゃったの!?」


「やばっ、私達武器持ってきてない!」


 事態を理解したセシリアとリリーナが焦る。彼女達はまだ奴と戦えるほどの実力も経験も無い。

 その上、見送りに来ただけなので武器すら持っていなかった。

 シアの付き添いという意識が強すぎて気が抜けてしまっていたのだ。

 これもまた未熟さが顕著に出たと言える。


 飛ぶ相手に剣や槍があった所で……とは思うが、とにかくハンターとしては情けなくも逃げるしかない。

 なによりシアを連れているし、リアーネは戦いなど素人だ。


「とにかく戻ろう! 結界の意味は無くても、壁の内側へ!」


 リアーネが叫ぶ。

 既に周りの――討伐隊以外の人達は走り始めている。

 魔物ではないので結界で阻めないが、このまま外に居るのも有り得ない。既にかなり近づいてしまっている。


「やっぱりあの時の……」


 飛んで近づいてくるグリフォンを見て、シアはやはり山で戦った奴だと確信する。隣のルナも同じ事を思ったらしい。


 ふと、奴と目が合った気がした。

 明確な敵意を感じたシアは一瞬足が竦んでしまった。


「シア! ボケっとしない!」


「あっ、うん!」


 危険だというのに動かないシアの手を取って叫ぶリリーナ。流石にこの状況では冷静ではいられないらしい。

 そのまま走りだし、シアはなんとか付いていく。


 そうして、討伐隊以外が街へ入ると門が閉まった。

 これで一応正面からは入ってこれない。

 飛ぶ相手では意味が薄いが、討伐隊が応戦しているのでどうにかなるだろう。

 ついでに流れ弾を防ぐ意味もある。


「信じらんない! 勝手な事したどころか街までグリフォンを連れてくるなんて!」


 走って中へ戻ったが、前方は逃げる人達で混乱している。

 一旦止まって状況を見るリリーナは思わず叫んだ。

 叫ばずにはいられない。あまりにもふざけた話だ。


「団長達が一旦退いたときは平地にさえ追ってこなかったって言ってたのに……随分怒りを買ったみたいだね」


 リアーネも苛立たし気に口を開く。

 知能が高い故にここまで追ってくるなど普通ではないのだ。


「で、結局手に負えなくて情けなく逃げ帰ってきたわけ。どうしようもない連中ね」


「いくらなんでもちょっと、酷すぎるよね」


 その逃げる判断さえも遅かったのだから、本当にどうしようもない。

 温厚なセシリアでも流石に許せないらしい。

 ハンターが街に敵を連れてくるなど……最早どう言葉にしていいかも分からない。

 魔物と違って結界で阻めないというのに。


「本当にそんな奴らが居るんだね……ハンターって凄い人達なんだと思ってた」


 ルナも呆れるどころか、最早悲しげに口を開いた。

 そして更に逃げる為に皆走りだそうとしたところ、シアの苦しそうな声が聞こえた。


「ちょ、ちょっと待って……! 急に、そんな走ったら……」


 歩くのもつらかったのに、急に走ったことでかなり息が上がっている。

 なにより、パニックになった集団が――あの日を思い起こさせて精神的にも厳しいモノがある。


「っごめん、つい……大丈夫?」


 手を引いていたリリーナは思わず謝った。

 非常事態とはいえ、早く逃げなければという意識が先に立って、シアの事をちゃんと考えられなかった事を恥じる。

 繋いでいた手は一旦離し、背中を擦ったりと気遣っている。


「うん、大丈夫……」


 大丈夫とは言うが、もはや強がりにもなっていない。

 流石に誰でも分かるし、これではこのまま逃げるのも難しいだろう。


「どうせ人が一気に逃げて混乱してるし、シアを連れてこのまま行くのも危ないな」


 逃げようとしていた先は大勢の人で混乱している様子だ。

 一般人が大勢居たのだから、それが一斉に逃げればそうなるだろう。

 リアーネがどうしようかと皆を見る。


「やっぱり担ぐ? それとも待つ?」


 冗談で言っていたのかもしれないが、本当に誰かが運ぶのが良いだろう。

 ルナではシアを担げないので、このまま落ち着くまで待つのか、担いででも進むか聞く。


「正面は討伐隊が居て門も閉まったし、万が一来るとしても上からでしょ。どこかに隠れて、混乱が収まるのを待つ方が安全かも――」


 万が一を考えたら、上から見えない位置に隠れる方がマシだろう。

 リリーナはそう考えて提案する。実際、人の波に飲まれるよりはよっぽど安全だ。


 しかし判断をしている時間さえ無かった。

 非常事態はまさしく非情だった。

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