第77話 戦闘準備 8 人格者ばかりじゃない
「その辺で終わっとけ。もうすぐ出るぞ」
「あ、邪魔しちゃってたかな、ごめんなさい」
黙って眺めていた団長が声を掛ける。どうやらもう出発らしい。
それを聞いて出発を引き留めてしまっていたのかとセシリアが謝った。
「邪魔って程じゃない。念の為に早く出る事にしただけだ」
「念の為?」
しかし彼が言うには、予定を早めての出発であるようだ。
何か早める理由があるのかとルナが訊ねる。
暇そうにしていたのに今更な話だと思ったのだろう。
「まだ1つだけ隊が戻ってないんだ。丁度その隊が出発した方向と、グリフォンの現在地は同じ東だ。遭遇しちまったのかもしれないからな」
どうやらとある隊だけが戻らないらしい。
運悪く遭遇していたなら計画がズレかねない……が、何故かその隊を心配している様子は無い。
「それは確かにあり得るね……というか東って、そもそも戻るのに時間がかからないじゃないか。最初から何かあったんじゃないのか?」
それを聞いたリアーネは納得しかけたが、すぐに思い直す。
東は少し進めば山脈なのだから、いつも通りの業務で出ても大した距離は動かない。
ここまで遅れるなら、何時間も前から問題が発生している筈だった。
「ここへ集合するより前に、戻ってない隊には再度連絡をして全て返事が届いてた。その中で唯一未だに帰らないんだよ」
「返事を返しておきながら戻ってこない? なんだそれは……功を狙ってグリフォン討伐でもしてるんじゃないか?」
フェリクスも口を挟むが、どうやらちゃんと連絡が取れているらしい。
早く戻れる上に問題も無いのに遅いなどそれこそおかしな話だ。そんな隊は何か余計な事をしているとしか思えない。
リアーネはその隊がグリフォンと戦おうとしているのではないかと勘繰る。
偶然出会って討伐したなら賞賛されるだろうからだ。
これだけ遅れて迷惑を掛けている時点で、もうそれは叶わないが。
「やっぱそう思うよな。その隊の周りからの評価からしても、恐らくそうなんだろう。今朝の時点で無理を言って勝手に隊を作って出て行ったらしいからな」
団長が同意する。やはりそういう者達であったらしい。しかもメンバーまで勝手に決めて動いたのなら殆ど確定だろう。
連絡にわざわざ返事を返したのは、緊急事態として捜索されないようにする為かもしれない。
「なにそれ。ハンターがそんな勝手していいわけないじゃない」
これにはリリーナも嫌悪感を露わにする。戦う事において勝手な事をする者は酷く嫌われるのがハンターだ。
彼らは自ら大勢に嫌われる事をしているのだが、気付いていないのだろうか。
「そんな奴らがいるの? 街と人を護るのがハンターでしょ?」
ルナも驚いている。
過去にシアから聞いていた事、この街に来て見聞きした事から、街と人の為に命を懸けて戦える誇り高い人達。というのが彼女のハンターへの印象だった。
「全くだ。いくら俺達でも、分を弁えられん馬鹿をわざわざ助けに行く気は無い。が、いつまでも待っているのも無理だ」
副団長として人の上に立つフェリクスもかなり憤っているようだ。
なんにせよ戻らないだろう隊を待つのは有り得ない。だから無視して出発しようという事らしい。
「そうなんだ……」
どこか衝撃を受けたらしいシアが呟いた。
そんな判断をする相応の理由があると分かっていても、自分を助けてくれた人達がハッキリと見捨てるという意思を見せた事に驚いたのだ。
「ハンターという重要な仕事を生業にする以上、実力も無いのに勝手な事をする奴ってのは簡単に切り捨てられる。迷惑だし、周りを危機に陥れる可能性が高いからな」
シアへ言い聞かせるように団長が語る。結局理由など単純なものだ。
街と人を護る為に戦うというのに、勝手な事をして周りに迷惑を掛けるなんて論外である。
「もしかしたら実力はある可能性は無くもないがな。評価されてない現状を覆せると思い込んでるんだろう。討伐してきたなら……勝手な行動の分、帳消しで済めばいいな」
補足としてフェリクスが口を挟む。
一応可能性として、馬鹿な事をするだけの実力くらいはあるかもしれないが……なにかしらの要素がダメなのだろう。
有事の際に勝手な事をするような輩が、普段から評価されている筈も無いが。
実力にしろ内面にしろ、評価をしてもらえない事に不満を持っての行動だと思われているらしい。
「認めて貰えないからグリフォンを倒してやろうって? 馬鹿でしょ……」
リリーナは彼の言いたい事を理解してまたぼやく。嫌悪も呆れも通り越しているようだ。
自分の実力も課題も理解している彼女からすれば、そんな無謀且つ馬鹿な事をするなど理解出来ない。
しかも勝手な行動でのマイナスが大きすぎる。
普通そんな事は思いついても実行しないだろう。
「ま、一応確定はしていないからそう言うな。戻るのか戻らんのか分からないから、もう出ようってだけさ。結果的にその通りだったなら、相応の処罰が下るだろうよ」
殆ど確定してはいるが、未だ疑いの時点でごちゃごちゃ言っても仕方ない。
ダリルは師匠らしくリリーナを窘めるが、後半はやはり厳しい表情で語る。
推測の通りなら最悪クビだろう。
そうなればもうこの街でハンターとしてはやっていけない。
「というか、それならこうして話し続けるのもマズイんじゃない?」
もう出るといってからも話し続けてしまっている。
流石に良い事ではないだろうとリアーネは考え、早く行けと促した。
彼らも別に、その隊がそのままグリフォンにやられてしまえと思っている訳ではない。
優先度が低いからおざなりな扱いになっているだけだ。
もし悪い評価をされていなくて、単純に問題が発生しているのならば大急ぎで出発している。
「そうだな――もう号令かけるから戻ってな」
団長も一応はそう思っていたのか、すぐに意識を戻した。これで本当に出発するらしい。
最後に、見送りに来てくれたシアの頭を撫でて声を掛けた。彼も彼でシアを可愛がっているのが分かる。
「うん、気を付けてね」
大きな手に撫でられるのがくすぐったいのか、ちょっと笑って見送りの言葉を伝えた。
瞬間、大きな騒めきが起こる。
切羽詰まった声や怒号……どうやら何かよろしくない事態が起きたらしい。




