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第75話 戦闘準備 6 意外と緩いお仕事

「……二人が居るって事は、もう出発したのかな?」


 怠そうで眠そうだが、とりあえず目を覚ましたシアが訊ねる。

 他の隊が戻り次第出発すると言っていたのは覚えていたらしい。


「そろそろかな……もう討伐隊は集まってるし」


「まだ戻ってない隊が居るらしいから、そいつらが戻り次第だろう」


 それには予測を交えて姉妹が答えてくれた。

 特にリアーネは準備に関わっている為、ある程度の事情は伝えられている。


「そっか。でもなんで全員戻さなきゃならないの? 討伐隊以外だって大事なのに」


 そういえば戻す理由は知らないや、と実際戻された彼女達に聞いてみる。

 シアからすれば普段の業務だって重要で外せない事、という認識だ。


「万が一実力の無い人が遭遇したら大変だからだよ。私は知らなかったけど……強い敵が現れた時はそうするんだってさ」


「正確には討伐隊が出る時は、ね。でもお陰で今日の仕事は終わり。シアと居られるし気楽なものよ。討伐隊も心配する程の人達じゃないしね」


 セシリアは初めて知ったようだが、明確な計画の上での強敵の討伐とは基本的に毎回こうだ。


 リリーナはわざと明るく語る。

 団長達にそんな気は無いが、戻されるという事は戦力外通告に等しい。

 さっきはそれを気にしてしまった面もあるが、焦るなと言われた今は素直に受け入れている。


「終わり? 待機って聞いたけど」


「だって今昼過ぎよ? 討伐後にまた外に行ってもすぐに日が暮れるわ。そんなの仕事にならないもの」


 首を傾げるシアだったが、当然の事のように返すリリーナの言葉でそういうものかと納得した。

 なにせ魔物は真っ黒、暗くなったら戦いづらいのだ。灯りなど無い山で生活していたシアには身に染みて理解できる。


「へぇ~……意外とハンターって緩いんだね」


 逆にルナは少し驚いている。

 街を護ると言うなら、暗いから帰るなんて仕事だとは思っていなかったのだろう。


 しかし当たり前だが、街の周辺は夜間でもしっかりと見回りがされている。

 今回のように、敵は魔物だけではないのだから。


「基本的には厳しいけど、甘い所はとことん甘いわ。精神的に整って余裕がないと危険が増えるだけだし、息抜きになる事には積極的なのよ」


 緩い理由はそういう事らしい。

 確かに、命を懸けているならば休息は重要だろう。

 思い返せばシアを保護した時だって、団長達が息抜きとして遊びに行っていた。


「それに、そうやって息が抜けるように普段から沢山の人が頑張ってるわけだからね」


 リアーネが話を引き継いで纏める。

 多くの人達が同じ意識で、普段から厳しく頑張っているからこそ、そういった余裕が生まれるのだ。


 団長はセシリアとリリーナの休日を増やしてやろうとしていたが、それもまた同じ事。

 ただし急には決められないあたり、常に全体が余裕という訳でもないのだが……それはそれで当たり前か。


「なるほど。――よし、見送り行こ」


 ひとまず話は理解出来たようだ。

 それはそれとして、討伐隊がまだ出発していないなら見送りに行きたいらしい。


 グリフォンは元はと言えば彼女達が追いやってしまった。

 やはり戦ってくれる人達には思う所があるのだろう。


「あら、行くんだ。良い子だねぇ……」


 見送る気など無かったリアーネはそんな彼女に感心する。

 シアとルナの内心を知らなければ、気を配る良い子に見えるようだ。


「シアは薄情じゃないのよ。どっかの誰かよりね」


「誰に言っても全員に刺さるんだけど……」


「それもそうね……仕方ない、私達も行きましょうか」


 それを聞いたリリーナは姉を揶揄うが……見送りに行かずシアを優先したのは皆同じだ。セシリアが苦笑いしながら突っ込む。

 言われて理解したのか、ばつが悪いらしく共に見送りに行く事に決めた。

 決めたというか、シアが行きたいと言えば3人は必ず付いてくるだろう。


 しかしそれはそれとして、行かないと言って残ったのに顔を見せるのは気恥ずかしいらしい。


「よいしょっ……ととっ」


 なら行こうとシアはソファから降りて立つが、フラついてしまった。

 いつもの朝のように寝ぼけてではない。体に力が入らないのだろう。

 やはり限界まで無理した影響は大きいようだ。


「わ、大丈夫?」


「そんなフラついてちゃ危ないし、まだ寝てたら?」


 当然お姉ちゃん二人は心配する。


「大丈夫だよ、今起きたばっかりだから。皆はどこ?」


 しかしシアは笑って強がった。

 一応中身は子供ではないので、こういう誤魔化しが上手い。

 言葉だけではなく、平静を装える。

 なかなか演技の上手い子なのだ。あくまでこういうちょっとした事に限るが。


「そっか、知らなかったか。東門よ、そこまで行く?」


「え、ここじゃないんだ?」


 討伐隊がどこに集まっているのか知らなかったシアだが、どうやら東門にいるらしいとリリーナが教えてくれた。


 ルナが意外そうに言ったが、シアも同じ顔をしている。

 てっきり、ここかギルドの外にでも集まっていると思っていたようだ。


「だってここはギルドの1つでしかないもの。討伐隊は街のハンターを集めてるんだから、ギルドも別々よ」


「ここは広いけど、流石に討伐隊の人達が集まれる程じゃないかなぁ」


 そんな2人にリリーナが説明してくれる。

 そう、いくつものギルドからなる討伐隊がわざわざ1つのギルドに集まるわけがなかった。

 セシリアも続いて同じく理由を教えてくれた。

 そもそもそんな場所はギルドに無かったらしい。人も物もあるのだから、考えてみれば当たり前の話だった。


「今から行っても間に合わないかな?」


「どうかな……流石にそれは分からないし、迷うくらいなら向かってしまった方が良いだろう」


 今から東門に向かうとなると、疲れたシアでは時間がかかるだろう。

 間に合わないかもと少し不安になったようだ。


 そんな事を聞かれても、いつ出発するか具体的な時間が決まっている訳ではない。

 なにはともあれ、行ってみるしかないとリアーネは正直に伝えた。


「間に合わなかったらその時考えようか。歩くの疲れちゃったら背負ってあげるからね」


 待機という名の終業なこの時間は基本的に自由だ。

 勝手に街の外にいったり、羽目を外し過ぎなければ問題は無い。

 間に合わなかった時はそのまま食事なり、何処かでゆっくりすればいい。


 セシリアはシアを背負ってあげるというお世話を自分から引き受けようとした。

 本当にシアのお世話が好きなようだ。


「背負うなら姉さんでしょ。デカいし一番安定する」


 それを聞いてまたもや姉を揶揄うリリーナ。

 姉妹で同じエルフだと言うのにスタイルが違い過ぎるのがコンプレックスらしい。

 年頃の少女らしいと言えばらしいが。


「それは誉め言葉かな? 私はそんなにどっしりしてるつもりは無いんだけど?」


「そ、そんな怒んないでよ……」


 流石に姉妹でも体型に関して弄るのはダメだったようだ。

 彼女は彼女で、エルフらしからぬスタイルがコンプレックスなようだ。


 リアーネは笑顔で問い質すが青筋が立っている。

 姉を怒らせてタジタジなリリーナを見て、シアとルナが笑った。

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