第74話 戦闘準備 5 だらしないだけ
「んぅ……」
そしてどうやら先のルナ同様、シアが起きてしまったらしい。小さな声が漏れ聞こえた。
「あ、起きちゃったかな……?」
真っ先に反応したのはセシリア。
「……ぅー……んにゃ」
むずがるように小さな声を出して寝返りを打ち薄目を開けた。
目がしょぼしょぼするのかぐしぐしと擦っている。
「起きちゃったね」
「シア、体は大丈夫?」
リリーナとルナも続くが、シアは聞こえていないらしい。
「んーっ……」
可愛らしく伸びをしてぷるぷるしていて、本当に猫のようだ。エルフじゃなくアニムなのかもしれない。
そうして体を半分起こすが、寝ぼけたようにボーっとしたままだ。
「よだれ」
「んむぅ……」
ボーっとしているシアの口元はよだれが垂れていた。
セシリアがすぐに気付いて、ハンカチで拭いてあげる。
「やっぱりシアは寝起きが悪いね。疲れもあるんだろうけど……」
毎日リビングに来る時にボケっとしているので、リリーナも彼女の寝起きが悪いのは知っている。
ただ、流石にここまで意識が曖昧なのは疲れの所為だろうと考えた。
「シアは大体いつもこんな感じだよ。目が覚めてもしばらくはグズグズしてる」
対し直接起こして見ているルナは否定。
疲れがあるのは確かだろうが、それはそれとしていつもこうだった。
目が覚めてもしばらくはそのまま寝ていて、体を起こすまで時間がかかる。
しかもそこから二度寝に入るのも珍しくない。
「まさに小さな子らしくて可愛らしいじゃないか」
リアーネが呑気な感想を言うが、それは幼児だろう。
もう10歳になるというのにこれはだらしないと言うのだ。
「ちょっと幼過ぎるような気がするけど……」
流石にルナもそれはどうなんだと思ったらしい。
結局いつもシアが起きた時のお世話は彼女がしているのだから、可愛らしいで片づけられるのも複雑だろう。
「それはまぁ、うん……境遇のせいもあるのかも、ね?」
幼過ぎると言われシアの歳を思い出したが、訂正しようにも上手い言葉が出てこなかったようだ。適当に誤魔化した。
「起こした方が良いのかな?」
「どうだろう。放っといたらまた寝そうだけど、別にそれでもいいし」
まだぼんやりとしているし、どうしようかとセシリアがリリーナに聞く。
放って置けばいいのに、何かしてあげたくて仕方ないらしい。
「ん……おはよ」
当のシアはまだしょぼしょぼの薄目のまま起きた事を伝えた。2人の会話が聞こえたのだろう。
「おや、ちゃんと起きたみたいだよ」
「ちゃんとって言っていいのかな、これ……」
とりあえず挨拶をしている以上は起きていると言っていいだろう。
悩んでいるらしいセシリアを見ながら、リアーネが後押しした。
ボケっとした姿にルナは呆れながら静かに突っ込んでいる。
「起きたならいいか……ほら、シアちゃん、顔拭くよ」
「むぎゅ……」
それを聞いたセシリアは、魔法でお湯を作りタオルを濡らした。
さっきのハンカチはともかく、タオルなど何処から出したのかは謎だ。
そうして寝ぼけたシアの顔を優しく拭ってやる。流石に顔を濡れタオルで拭かれれば目が覚めたようだ。
「……あんたお世話したいだけじゃないの?」
「そんなことないよー」
見ていたリリーナは若干呆れながら言う。どう見てもただ世話をしたがっていただけだ。
セシリアも自覚しているのか、笑いながらわざとらしく否定する。
「少なくとも可愛がる事を楽しんではいるな。いや、皆そうか」
「それは否定しないかなぁ」
どっちにしろ楽しんで世話をしているのは確かだ。
そしてそれはセシリアだけじゃなく、リアーネもリリーナも同じだった。
「むぅ……なんでこんな幼児扱い……」
とりあえず目が覚めたらしいシアは、まるで幼児のようにお世話をされている事に若干不満な様子。
なんでもなにも、君がそういう子だからだ。
「普段の言動のせいじゃないかな」
「……気を付けよう」
何言ってるんだか、とルナは当たり前の理由を教えてあげる。
一応言われて理解出来たらしいが……気を付けるだけで改めるかは分からない。




