第70話 戦闘準備 1 子供に説教される大人
シアが眠りについてしばらく経った頃、ようやく他の隊が戻り始めた。
と言ってもまだ昼過ぎだ。
セシリアとリリーナも戻り、ひとまずは休憩という事でゆっくり休んでいた。
「え? シアちゃん来てるの?」
「姉さんが連れてきたみたい」
姉が来ている事を知り、諸々の事情を聞いて来たリリーナがセシリアに伝える。
そして彼女の後ろにリアーネとダリルとセシルも来ていた。
魔道具云々の仕事は既に片付いているらしいが、男2人はまだ暇なのだろうか?
「昨日も来てたんだよね? 会えるのは嬉しいけど良いのかな……」
「いいんじゃない? 団長も許可してるみたいだし、迷惑掛ける子じゃないしさ」
ここは仕事場だ。小さな子供が頻繁に来るのは正直あまり良いとは思えない。
しかしトップの団長が受け入れているし、騒いだり邪魔をする事もないので周りも別に怒ったりもしない。
何らかの事情から団長に保護された子、という情報だけは広まっているのもあるだろう。
「シアはちゃんと良い子にしてたさ、迷惑かけたのはこっち」
話に加わったリアーネは頭を抱えるように、疲れたように言った。
結局ダリル達は上手い言い訳が出来なかったらしい。後ろで苦い顔をしている。
「……何したんですか?」
どうやら彼らが何かやらかした、と察したリリーナは厳しい顔で彼らを見る。
「いや、何というか……その」
「あー……」
そんな彼らはどうにも言葉が出てこない様子。
途中までは彼らの所為と言えなくもないが……最終的にはシアが制止を振り切って無茶しただけだ。
しかしそんな事を言い訳がましく言うつもりもないらしい。
注意が足らなかった自分達の責任だと受け入れているのだ。
それでも彼女達に何を言われるかと思い、言い淀んでしまっている。
「おかげでシアは寝込んでるよ」
ハッキリしない彼らを無視して、シアが寝込んでしまったと言う。
それだけで下手な事をしでかしてくれたと充分伝わった。
「兄さん! 何したの!?」
セシリアは詰め寄って問い質す。真面目に怒っているようだ。
溺愛するシアを兄が寝込ませたなど、彼女からしたら嫌だろう。
「う……その、魔法とかを……ねっ、ダリルさん」
「おい俺に振るな……はぁ、あの子の障壁について調べていたんだ」
「それでなんでシアが寝込むことになるの?」
セシルは妹に責められてどうしようもなかったのか、無理矢理ダリルに話を振った。若干情けない。
リリーナとしても、親友の兄と師匠がシアに何かしたのだというのは我慢ならないらしい。
「私が仕事の間、シアの面倒をお願いしたんだけどねぇ……」
仕事を優先して後を頼んだリアーネは、まさか彼らがこんな事をしてくれるとは思いもしなかったからか呆れている。
ちなみに報告された時に既に軽く怒っている。
自分もシアに銃を撃たせるなんて危険な事をさせた手前、あまり強く言えないらしい。
「悪かったって……まさかあんなに魔力と体力を消耗するとは思わなかったんだ。あっという間に弱ってしまった」
「シアちゃんには負担をかけてしまったけど、ダリルさんがあの障壁について解明してくれたよ」
調べる過程でつい無茶をさせすぎた、という事は理解してくれた。
しかし元より強く興味を持っていた彼ならやりかねないと思われているらしく、彼女達も呆れている。
セシルも一応擁護をするが、大して意味は無かった。
「それはまぁ良いとは思うけど、だからって寝込むほど無理をさせるなんて……」
「シアちゃん体弱いって言ってたのに」
そもそも途中で気付いて止めるべきだったのは確かなので何も言えない。
夢中になってシアの状態に気を配れなかったのは事実なのだから。
「それもすっかり忘れてしまっていたんだ。全然そんな感じも無く元気な子だから……いや、言い訳はもういいか」
体が弱くとも元気に動き回る彼女を見ていたら、つい忘れてしまっても仕方ない。
セシリア達でさえ気付くのは遅れるだろう。
それくらいシアは体が弱いという事を気にしない。
何故ならルナがその都度癒してくれるからだ。
疲れ果てても、体調を崩しても、常にルナが助けてくれる事に甘え慣れ切ってしまっている。
ルナと出会う以前もやはり限界まで活動して寝てを繰り返していたのもあって、彼女は心身共にそれが当たり前になってしまっている。
ある意味体と乖離した心からなる性格の所為と言えなくもない。
「はぁ……あの子が寝込んでる以上、ここで今更言ったって仕方ないけどさ。とりあえず団長の部屋で寝ているから様子を見に行こうじゃないの」
いい加減ここで彼らを責めていても意味はないので、シアの所へ行こうとリアーネが言って歩いていく。
話を終わらせてくれたからか、男2人も少し安心している様子で後ろに付いた。




