第66話 実験と考察 7 無茶はダメ、絶対
「はぁ……で、分かったって何が?」
「ん……自分ごと浮くのは無理みたい」
幸いシアはぶっ倒れただけで、酷い状態でも意識はしっかりしているし大丈夫だろう。
とりあえず気を紛らわすのも含めて会話を続ける。
「無理? でも浮いてたよ?」
倒れる直前、数秒間だがしっかりと浮いていたのを見ている。
それに空を飛べるというのは諦めるには惜しい。
ただ単純に魔力が限界だっただけなのではないかとルナには思える。
「ほんとに限界だったの。あれ以上はなんか……絶対無理、もうダメだって思って……」
しかしシア本人には何か悟るモノがあったようだ。
「ふむ……今までにない状態にあって魔力やら集中やら……それ以上は脳が処理出来なくなったんだろう。疲労もそうだが、頭痛も酷いんじゃないか?」
シアを抱きかかえたままのダリルは、聞いていた話から推察を語る。
魔力が限界だったのは間違い無いが、それだけではなく制御そのものが限界だった。
それ以上は無理だと……扱えるモノではないと、体が拒絶をしてしまったのだ。
「うん、ものすごく……」
言われた通り、頭痛は酷いなんてものじゃない。
今は治癒魔法のおかげでだいぶ治まっているが、それでもかなりつらい。
倒れる直前など、頭が割れそうと言うのも生易しいくらいの激痛だった。
あの痛みで意識が飛ばなかった事を褒めて欲しいくらいだ……と、シアはしみじみ思った。
「どんな魔法だって頭で処理をするもんだ。その頭が限界ならそれ以上はどうしようもない。時間をかけて鍛錬して慣れるとか、何かしら補助を入れるとか、そういった対処が必要になる。」
結局、何をするにしても考えて制御するのは頭だ。
残念ながら、障壁で空を飛ぶなど現状は不可能な事のようだ。
魔法で空を飛ぶ者達は元々の才能に加え、何年……もしくは何十年という鍛錬を積んでその領域へ辿り着いたのだ。
幼い彼女が急に出来るようになるのはどう考えても現実的ではない。
とはいえ、既にそこに近い所まで来ているのは賞賛される事でもある。
「自分の力量を超えて、複雑な魔法を無理矢理使おうとするとなるらしいからね。滅多に無いけど……そういう事だったんだね」
セシルも聞いた事くらいはあるらしい。
なんにせよ、無理せず安定して使える物しか実用には至らない。
それは魔法に限らず、あらゆる物に言える事だろう。
特に戦いを生業とする者からすれば、それは当たり前の事だった。
技術的に可能な事と、実戦の中で出来る事は違う。
対価としては釣り合ってなさそうだが、ある意味で今回の事はシアにとって大きな学びになった。
とりあえずいつまでも庭で寝ているわけにもいかないし、どこかゆっくりと寝ていられる場所に行くべきだろう。
面倒を任されたシアがこんな事になってしまって、リアーネになんて説明しようか……
ダリルとセシルは嫌な汗をかきつつ、人が来なくて静かでゆっくり出来る場所――団長室へ向かった。
団長は部屋には居らず、余計な説明をしなくて済んだ事に安心したらしい2人はシアをソファへ寝かせる。
大事には至らなかったが、休む以外に回復しようが無い。
ひとまずはここで寝ていれば大丈夫だろう。




