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第64話 実験と考察 5 空飛ぶ幼女

「もういいんですか?」


 彼ならもっと時間を使いそうなので、意外に思いセシルが確認を入れる。


「あとは障壁に乗って飛べるのかどうか気になるが、難しいだろうな」


「あ、そっか……」


 言われてみればそんな使い方があったな、とシアは思ってしまったが……どうして思いつかなかったのか。


 実際、物理的な足場を作って飛ぶという人は存在する。

 難易度はかなり高く失敗したら落下という危険はあるが、1つの目標とされることもある技術だ。


 なにせ、ただ動かすだけでは乗っても落ちる。

 落ちないように固定したまま動かすのだ。

 掛けられた力に対抗しながらの操作――非情に複雑且つ繊細な制御が必要な高等技術である。


「やってみる!」


 しかしそんな詳しい知識など知らないシアは、何故か意気込んで宣言した。


「なに? まぁ試すのは良いが、かなり難しい筈だぞ」


「僕も流石に出来ない事だけど……」


 2人も流石にそれは無理があると思った。

 ただ、ここまで予想の上を行く制御を見せているので、もしかしたら……という気もなくはない。

 だから試す程度なら見てみたいと、止める事をしなかった。


「はぁ……んっ!」


 シアは既にかなり疲れが出ている。

 息も荒く脂汗まで流し始めたが、それでも障壁を作り出し身を包んだ。

 一番自然な形と思っているのでこの形にしたのだろう。


 自分では思いつけなかった使い方を示されて、無理してでも先へ踏み出そうと意地になっている節がある。


 適正が無いという大きなコンプレックスを抱え、自分に唯一出来る事の新たな可能性を目の前に見たのなら止まれない。


「シア、あんまり無理は……一気に魔力を使いすぎだよ」


 流石にルナもシアの状態に気付いて声を掛ける。


 ただでさえシアは魔力の消費による負担が大きい。

 しかも毎回かなりの魔力を使うのだ。作って消してを繰り返してはあっという間に枯渇する。


 山での鍛錬だって、いつも時間をかけてのものだった。

 こんな風に短時間で一気にやっては無駄につらいばかりだ。


 過去のやり方が休憩を挟むゆっくりなマラソンなら、今やっていることは全力ダッシュをひたすら繰り返している感じだろう。

 それを体の弱いシアがやっているのだから、苦しいなんてものじゃないはずだ。


「しまった、俺とした事がっ……夢中になってて気付けなかった。申し訳ない……」


「あぁっ……僕も、ごめんね。つらいだろう……」


 ルナの言葉でようやく気付いた2人は慌てる。

 いくら夢中になっていたとしても、もしかしたらと思っても、気付いて止めるべきだった。


 誰でも当たり前に使う魔力障壁を発展させたもの、という認識だった。

 だから大量の魔力を使い、大きな負担があるという考えに至らなかったのだ。

 魔力を使い過ぎれば危険なのだから、これ以上は無理だろう。


「大丈夫っ! もうちょっと頑張ってみるから……」


 しかしシアはそんな声を無視して、危険なラインを踏み越えてしまった。

 もはや誰が見ても限界だ。


「いや、そんな無理をしては! どの口が言ってると思うかもしれないが、次の機会にしてもっ……」


 ダリルは焦って止めようとするが、彼女は障壁で覆われているので外から止める手段は無い。


「はぁ、はぁ……ふぅ……ん~っ!」


 荒く息を吐き、倒れそうになる体を奮い立たせて必死に障壁を浮かせた。

 既に脂汗どころか顔色も悪く、頭が割れそうな激痛で意識も危うい。


「う、浮いた……」


「凄い……いや、ダメだ! もう止めだ!」


 止めようとしていたが、目の前で宙へ浮くシアを見て驚愕する。

 魔法によって単身空を飛ぶなど、こんな幼い子供が出来ていい事ではない。


 大人ですら難しい事を無理して実現させるなど、どれほどの負担なのか。

 魔法に関しては無理をするというのは危険以外の何物でもないのだ。


 驚いてしまったがすぐに叫んで止める。

 しかしどれだけ外で騒ごうと、シアが自ら止めない限りどうしようもない。

 2人で障壁を掴んで降ろそうとまでしている。



 シアは何かを感じた。

 これはダメだ、これ以上は無理だ……と、本能的な何かを。


 そしてその瞬間――浮いて数秒後。

 障壁がスッと消え、咄嗟に彼らはシアを受け止めて地面に優しく寝かせた。

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