第60話 実験と考察 1 興奮するおっさん
「じゃあシアちゃん達はこっちだ」
「はーい」
「おー」
セシルは一旦庭の隅へ向かう。
近くで彼女の邪魔をするわけにもいかない。
またまた元気に返事を返す2人も大人しく付いていった。
「さて、何をするか……魔道具についてを引き継ぐべきか?」
「リアーネ程しっかりした説明が出来る気はしませんね……」
とりあえず隅の方へ歩きながら、どうしようかとダリルが聞く。
魔道具に関して学んでいたのならそれを続けた方が良いのか、他に何かするのか。
セシルも考えるが、魔道具の専門家であるリアーネのような説明は出来そうにない。
だったらひとまず魔道具は置いておいた方が良さそうだ。
「んー……どうしよう?」
「いや、あたしに振られても……何があるのかも分からないし」
シア達も考えるが何も思いつかない。
そもそも何処に何があるのか、何をして良いのかすら分からない。
「ふむ、なら俺が決めてもいいだろう。君の障壁や魔法についてだ」
そんな面々を見てダリルはここぞとばかりに提案をした。
以前から気になって仕方なかった、シアの障壁と魔法について話したいらしい。
「私の話?」
「ダリルさん随分気にしてたから。シアちゃんさえ良ければ是非」
予想外の話だったが、別に問題も無いしそれでもいいかなとセシルを見やる。
彼としても、ダリル程ではないが気になっているしそれで構わない。
「いいんじゃない? シアもよく分かってない事だってあるだろうし、知識がある人に話したら色々分かるかもよ」
「そうだね、それは元々考えてたし……むしろお願いします?」
ルナは別に魔法等について知識が豊富というわけではない。
ダリルのような人の方が色々と深く知っているだろうし、何かしらの助けになるかもしれない。
元々シアも話してみるつもりだった……というか、そうしようとしたらダリルがタコ殴りにされたのだったか。
とりあえず今回はそんな事にはならずに済むだろう。
「おお、そうか。じゃあ……もうここでいいか。色々と実践しながら話そうじゃないか」
「嬉しそうだなぁ。まぁ僕も気になってるけども」
というわけで予定は決まった。
どうやらもう逸る気持ちが抑えきれないらしいダリルは、移動するのも面倒らしくこのまま庭で実践までしていくつもりらしい。
「さて、じゃあまずは普段君が使っていたように障壁を張ってみてくれ」
「ん」
若干テンションが高いダリルは早速、シアに障壁を作るよう頼む。
シアも慣れたもので、さっと素早く障壁で自分を包む。
「おお、見るのは2回目だけど、やっぱり凄いと言う事しか僕にはよく分からないな」
「これは……やはり物理的に壁があるな。しかし半透明……基本的に魔力は見えないが、密度が高ければぼんやりと見える。これは超高密度な魔力という事か」
間近で見たセシルは感心するが、詳しいことは分からずただ凄いとしか言えないらしい。
対してダリルは興奮したように障壁に触れていく。
ペタペタ、コツコツと触れたり叩いたりと、シアに……いや障壁にへばり付くように観察している。
おっさんが幼女に向かってしているのを考えると、なかなか嫌な光景だ。
「結局は魔力障壁が更に高密度になったもの、という事ですかね?」
とりあえず見た感じとダリルの推察から感想を言うセシルだが、使っているシアの意識としてもその通りだ。
「いや……普通の魔力障壁と違って、魔力そのものではないな。――むしろ属性エネルギーか?」
しかしダリルから見ると少し違うようだ。
シアの障壁は属性魔法で作られた物に近いらしい。
「属性に適正が無いというのは……もしかして……とは違う? ……作られた物質……」
ダリルはもう障壁に夢中で周りは見えていない。
障壁に触りながら、ぶつぶつと独り言を呟く。
残念ながらその独り言は誰の耳にもハッキリとは届いていないが、物凄い集中だ。
恐らく彼の頭の中では様々な考えが巡っているのだろう。
近くでぶつぶつ言いながら触ろうとしてくるおっさんが少し怖いシアは、腰が引けているものの大人しくじっとしている。
ひとまず彼は一旦落ち着いたほうが良いと思う。




