第59話 休息 9 男達の暇つぶし
「こんにちは、ダリルさん、セシルさん」
正直シアは、団長以外の男連中とはまだそこまで関わっていない。
皆が迎えてくれたあの日から何回か会った程度だ。
どういう人物か掴みかねているらしいシアは、これを機にもっと仲良くなろうとしているらしい。
「おー、2人も休憩って感じ? 準備が出来るまで待つんだもんね」
それはルナも同じなのだが、シアよりだいぶ砕けているのは良い意味で気安いルナだからだろう。
「せっかくだから2人に色々と魔道具を見せて教えてやろうと思ってね……今は銃を試しに撃った所だ」
当然だがリアーネは彼らとも仲が良い。
セシルは同い年で共に学校に通っていたし、ダリルは妹の魔法の師で仕事でも関わる。
とりあえず気を取り直して説明したが、銃を撃ったのがシアだとは言わなかった。絶対に怒られるからだ。
「そりゃ良い。こういう魔道具は子供からしたら、実際に見るのは貴重だろうからな」
「確かに。僕も父さんが見せてくれなければ、ここに来るまで見る事は無かったと思うよ」
説明を受けた2人は納得。親の物以外で子供が実物を見る事はあまり無いらしい。
まぁそうでなければ、どこで武器を使っている所を見るんだという話だ。
危険な所に子供を向かわせるなんて誰もさせないし、ギルドにシアのような子供が来る事も無い。
「俺達も一緒でいいか? 待ってる間暇でなぁ……」
本当に暇らしい。
ただし他の隊が遅いのではなく彼らが早かっただけだ。
「構わないよ。でも大人しく休んでいればいいのに。後で戦うっていうのに呑気だねぇ」
戦いが控えているというのに、暇だから時間を潰させろというのは呆れるものだ。
リアーネはそう言った後、チラリとセシルの方を見る。
お前もそうなのかと言いたげだ。
「待機とは言っても……僕はグリフォンと戦うなんて初めてだからさ、大人しく休憩してるなんてどうにも落ち着かなくて。こうして誰かと話している方が良い」
どうやらセシルは単純にじっとしていられないらしい。
まぁ彼の緊張も仕方ない。適度に気を抜いて無事に終わってほしいものだ。
「そっか……気を付けてね」
「ありがとう、でも流石に弁えてるさ。無茶するつもりは無いよ。まだまだ未熟だからね……今回は学ばせてもらう立場だ」
純粋に心配しているシアに、セシルは微笑んで語る。
緊張しているにしては割と落ち着いているらしく、自分の立ち位置も全て理解している様子。
「へぇ~、しっかりしてるんだね。セシリアのお兄さんとは思えないくらい」
「あはは……その感想で普段セシリアがどうしてるのか想像がつくよ」
ルナは兄妹が似てない事を弄った。
それを言われた彼としても分かってしまうくらいには、家族から見ても元気でお転婆な子という印象らしい。
「くくっ、あの子もまだまだ子供だからな。フェリクスの娘でお前の妹ってだけあって、センスは良いんだけどな」
「まぁまだ学校を出たばかりだから……きっとその内、大人らしくなるでしょう」
横で聞いていたダリルは少し笑いながらフォローを入れる。
セシリアも随分評価されている。事実、ギルドに入って半年……期待の新人扱いだ。
兄としては、まだまだ子供な妹が色々と気にかかるらしく、成長してくれることを願うばかりだ。
「セシリアって学校出たばかりだったんだ……そういえばそういう話はしてなかったかも?」
そこでふと、シアは皆が何歳なのか聞いた事が無かったと気付いた。
知っているのは同い年のリーリアだけだ。
子供っぽい面はあれど、リリーナよりも身体的には大人なセシリアが学校を出たばかり――つまり15歳だというのには驚いた。
もっと言うならセシリアはまだ誕生日が来ていないので14歳だ。来月で15歳になる。
子供扱いも当然な年齢だった。
そんな歳でも、命を懸けた戦闘の場に出る。
勿論、相応の仕事になるように調整されるが危険なのは変わらない。
やはりこの世界は戦いの世界なのだ。
「なんだ、そうだったのか。ついでにリリーナは1つ上の16で、リアーネはセシルと同じで20だ」
シアがそれを知らなかった事が意外だったのか、ダリルはそのままリリーナとリアーネの歳を教えた。
「言ってなかった私達も悪いし別に良いんだけど……女性の年齢を勝手に言うのはどうなんだ?」
リアーネはまた大人振った事を言っている。
そんな歳ではないだろうに。
「気にする歳でもないだろうに。まぁ、すまんな。確かに女性に対して失礼だった」
ダリルもまさにそう思ってついつい言葉を返すが、文句は言わず受け入れて謝った。これが大人だろう。
「で、シアちゃん達には次何を見せるんだ?」
わざわざ触れて怒らせるのも面倒だし……と、セシルは気にせず流して問いかける。
「いや、うーん……思ったより銃に時間を使ってしまったし、先に私の仕事をしてしまわなければな。ちょうど良い2人が来た事だし、この子達を任せて良いかな?」
「ああ、じゃあそうするか。仕事は早めにしておいてもらわないと俺達も困る。後でやいやい言いたくないしな」
聞かれたリアーネは少し困ったように説明する。
予想以上に時間を使ってしまったので、仕事を放置しているのはマズイと思ったようだ。
時間に余裕があるとは言っていたが、具体的に決まっていないなら早くなる可能性だってあるのだ。
ちょうど暇な2人が来たのだから任せてしまった方が良いだろう。
彼らもそういう事ならと快諾した。
もしリアーネが仕事で不備をしたら、仲が良いだけにお互い嫌だろう。
「という訳で、急で悪いけれど……シア、ルナ、私は先に仕事を終わらせてしまうから、しばらくはこの2人と一緒に居てくれ」
「全然良いよ。邪魔したくなんかないし」
「そうそう、むしろ時間使わせちゃった側だしさ」
そうしてリアーネは申し訳なさそうに伝えるが、仕事で来ているのだから当然だ。
彼女達も流石にそれは分かっているし、問題なんて無いと慌てて返す。
「うん、そしたら――ちょうど良いしそこの牽引具から始めるとするか」
という事で話は決まったので、リアーネは仕事に戻った。
さっさと終わらせてしまおうという感じだ。
先に終わらせてしまえば後は自由なのだから、最初からそうするべきだっただろう。
その辺りもやはり少し甘かったようだ。




