第58話 休息 8 ありのままの姉で
「それにしても……子供が吹っ飛ぶ程の反動って随分じゃない?」
空気を変えるだけじゃなく、銃の反動も気になるらしい。
いくら貧弱なシアだからとは言え、かなりの衝撃だったはずだ。
「うん、予想以上だった。音も凄いし、これを戦いで使うの?」
体験したシアも感想を言う。
どういう物か想像は出来ていたのに、その予測を大きく超えた音と反動に驚いた。
これを戦闘で撃ちまくるのはどうなのだろうか。
随分うるさいし、強化を使わなければ安定して狙うのは難しい筈だ。
「正直あまり使わないらしい。私は戦闘はからっきしだから聞いただけなんだけども、仕事としてもこれのメンテナンスや作成は少ないね」
何かそれらしい事を言ってくれるかと思えば、あっさりと切り捨てた。
リアーネは戦わないが事情は耳に入る。どうやら大半の人にとっては無用の長物と化しているらしい。
「そうなの? 威力は凄そうだけど」
シアは意外そうだ。
扱いが難しそうでも、前世の記憶からして銃という物がそこまで使えない物だとは思えない。
「音がうるさくて余計な敵を引き付けたりしかねないらしいよ。しかも撃つときの反動で狙いがブレやすいし、弾も小さくて狙った所に当てるのが難しい」
大きな音を何回も出していたら、周囲との連携も取りづらい。
リアーネの言う通り、これでは使う人が少ないのも分かってしまう。
「じゃあなんでそんな魔道具を? 誰でも使えるからっていうのは分かったけど……いや、当たんないなら使えないんじゃ?」
そんな答えを聞いてルナは更に疑問が深まったようだ。
誰でも同じ事が出来ると言っても、そもそも扱い難い物ではどうしようもない。
「魔法が苦手な人の攻撃手段としてか、念の為の装備としてっていうのが殆どだ。威力の為にも反動や音は仕方ない」
持ち運びが楽で、魔法が苦手でもそれなりの威力で離れた所から攻撃出来る利点。
たったそれだけだが、戦闘における選択肢があるというのは命に係わる。
積極的に使われなくとも、要らないという物はそうそう無いのだ。
「逆にそれだけの理由でも使う人が居るような道具ってことなんだね」
「そういう事だ。それにあくまでこれは小型の物。かなり大型化された大砲というものがあるけど……あれは物凄いぞ。滅多に使われないが」
魔道具を作る立場だからなのか、理解して貰えた事が嬉しいらしい。
それでも2人が若干落胆しているのを盛り上げてやろうかと、大砲というものがあると興味を惹かせた。
「そんな凄い物があるのか……」
「へぇ……そんなの一体何に使うんだろう?」
狙い通り2人の興味が湧いたが、これは失策だった。
そんな物を何に使うのかなんて当然の疑問だったのに、うっかりしていた。
理由など単純であったが、説明するのがキツかった。
シアの故郷が壊滅した悲劇から学び、強大すぎる敵への対抗策として開発された物だったのだから。
「あぁ、えっと……街の防衛だ。――アルピナの件があってから開発されたものでね。万が一の事態で使われる……予定だ」
気まずそうに防衛の為と説明するが、シアはそんな物が使われなかったと知っている。
それでは余計な疑問を持ってしまう……そう思い至り、結局全部話す事にしたようだ。
ちなみに実際にそんな状況になった街は幸運にも存在しない。
移動させるのも大変なので、点検はされているものの置物になっている。
使われない事がある意味平和な証であると言えば聞こえはいいかもしれない。
「あ……そっか……それがあったら……」
説明を聞いたシアはやはり随分気落ちしてしまった。
もしその大砲が当時あったなら、もしかしたら……と思わざるを得ない。
「ごめん、嫌な事を話してしまったね……」
迂闊だった自分を責めるのは止めて、シアを気遣う。
隣でルナもどう言っていいのか分からず珍しくオロオロしている。
実の所ルナはシアの過去についてあまり触れない。
どうしたらいいのか分からないからこそ、触れることが出来ない。
「――っ! 大丈夫。そうやって、次こそ護れるように変わっていくんだもんね」
しかしシアは大きく首を振って、嫌な感情を振っ切った。
いつまでも気遣われているだけの子供じゃない、と言わんばかりだ。
あの悲劇があったからこそ、護れるようになった物があると考えれば……犠牲は無駄なんかじゃない。
分かり切った事だが、戦いの歴史とは犠牲の上にあるのだ。
「ほんとに良い子だね。ふぅ……今日の私はダメダメだ」
ちゃんと自力で気持ちを切り替えたシアの頭をまた撫でてあげる。
今日は大人として、姉として上手く立ち回れていない事に気付いてまた落ち込んでしまったらしい。
それは言い換えれば、こうするべきと気取らずに素で接しているからこそだ。
自然に向き合おうとしているからこそ見せてしまう所だ。
今この瞬間だけを見なければ、むしろ良い事かもしれない。
落ちこんでしまったリアーネになんて声をかければいいのか悩み、そんな事は無いと伝えようとした2人だが、そこへ声がかかる。
「よう、リアーネ。シア達も来てるって聞いたから気になって来たけど、何してたんだ?」
「こんにちは、リアーネ。シアちゃん達も数日振りだね」
ダリルとセシルだ。彼らもやはり暇だったのだろうか。
良いところに来てくれたものだ。




