第57話 休息 7 予想の範疇
瞬間、大きな音が響き土壁を穿った。
どうやら事故など起きず正面に撃てたらしい。
「わっ!?」
「ひゃっ!?」
予想以上の爆音でルナは跳び上がる。飛んでるけど。
そして撃った本人は反動でひっくり返った。
強化していたお陰で銃が吹っ飛ぶことはなかったが、その所為で腕に体が持っていかれてしまったらしい。
リアーネは支えると言ったのにわざと転ばせたようだ。
直前までは支えていたが、反動を抑える事も助ける事もしなかった。
しっかりと強化を使っていたから事故は無いと判断して、むしろどうなるのか体感させてやろうと思い直したらしい。
それが良いか悪いかは置いといて、銃についてはよくよく理解出来ただろう。
「耳がぁ……結構大きい音なんだな、びっくりした」
ルナは耳を抑えて痛がりつつ驚いている。
シアの曖昧な知識だけで知っている銃とは爆発の威力が違うようだ。
「……で、なにやってんの? 怪我はしてないでしょ?」
「ぅぅ……くぅ……頭打った……」
すぐに落ち着いたルナは、仰向けに地面に転がるシアを見て呆れた。
多分耳も痛いのだろうけれど、ひっくり返った時に頭を打った痛みが強いようだ。
頭を押さえ膝を丸めて悶えている。
涙目だが、事故は無く安全に撃てたと言っていいのだろうか。いいか。
ただ、リアーネとしては頭を打つとまでは予想して無かったので気まずそうにしている。
精々尻餅程度だと甘く考えてしまったようだ。
「1回撃っただけでひっくり返るなんて……全然ダメじゃん」
「言った通りだったろう? シアみたいな非力で小さな子供が持つものじゃない。爆発を起こしてるんだから反動が大きいのは当然。今は一応……私が軽く支えてあげたのにこれだ」
わざと転ばせた申し訳なさはあるけれど、それでも改めて言い聞かせる。
始めてで反動の抑え方も分からないというのもあるが、たった1発撃ってこの有様ではどうしようもない。
彼女の言った通り、手に余る物だったと実感しただろう。
「支えてくれてない……いや、はい。ごめんなさい……」
支えると言って放棄した事に文句を言いそうになるが、危険なワガママを言ったのはシアなので何も言えない。
転がって涙目のまま返事を返した。
「分かったならいい。自分には扱えないだろう物を無理して持つなんてただの馬鹿だ。……あと下着は隠しなさい」
危険な事をさせてしまったが、理解してくれたのなら良かった。
武器も魔法もまともに扱えなければ危険でしかない。
子供に撃たせた事を棚に上げて軽くお説教。
ついでにひっくり返って丸見えになっている下着も注意する。
庭とはいえここはギルド内だ、誰が見ているかも分からない。
「あぅ……」
シアは自分がどう見られるかという自覚が薄い。
しかも山の生活から、隠すという意識まで無くしかけている。
注意されて今更気付いたらしく、サッと隠して顔を赤くした。
自覚は薄くても、見られたという羞恥心はしっかりあるようだ。
「というか、わざと転ばせたの?」
ルナはチラッとジト目を彼女に向ける。
「強化を使っていて、事故は起こらないと思ったからね。無理して使って、強烈な反動を体験して、しっかり理解出来ただろう」
シアの横に落ちている銃を拾いながら、何故そんな事をしたのかを説明してあげる。
ついでに土壁も崩して平らな地面へ戻していく。
「うぅ、酷い……でもよく分かったよ。危ないことしてごめんなさい」
ようやく体を起こして地面に座ったシアはまだ膨れっ面だ。
しかしそれを聞いて納得したのか、ワガママを言った事を謝った。
「分かってくれたなら良いよ。私も、批難されて当然の事をさせたんだ。万が一を考えたら怒ってでも止めなきゃならないのに――すまなかったな」
素直なシアを見て微笑んだリアーネは、すぐに表情を真面目な物に変えて謝る。
批難で済めば良いくらいだ。
事故の可能性を考えれば絶対にやってはいけない事だった。
きっと転ばせた事も含んでいるのだろう。
浅はかで決断しきれなかった甘い自分を責めているようだ。
シアもルナも、そんなリアーネを見て言葉を詰まらせる。
ワガママを言った自分達の所為だと、申し訳なさそうに俯いている。
しかし全員落ち込んでいても仕方ない。空気を切り替える為にルナが声を上げた。




