第53話 休息 3 未だ誰も知らないモノ
「ごめんね。まぁそんな訳で……どうする? 色んな物を見れるし、2人も戻ってくるし、時間もある」
安心した2人にもう一度謝って、どうするかを聞く。
まぁ答えなど聞くまでもないだろう。
「行く」
「ま、当然行くよね。面白い物がたくさん見れるかもだし」
即答だ。
シアはもう隠しもしない。仕事中だった筈の2人に会えるのなら行くのも当然という感じだ。
それはルナも同じなのだが、面白い物が……なんて言い訳を言っている。
こっちは素直になれないらしい。
「決まりだ。じゃあ、ご飯食べて出かけようか」
「うん!」
ということで今日の予定は決まった。
もう最初の引け目を感じてどうたらこうたらなんてのは無かったかの様子。
結局余計な気を回してしまっていただけなのだ。
そしてそんなものは気分一つでどうにでもなるものだった。
素直に嬉しそうに返事を返すシアは年相応の子供にしか見えない。
もう中身を気にするのは止めた方が良いのかもしれない。
「思いがけず良い予定が出来たね。それにグリフォンも今日でどうにかなるっぽいし」
「そうだね……無事に終わってくれたら良いな」
「めちゃくちゃ自信ありそうだったし大丈夫だって。あくまでグリフォン1匹なんだしさ」
「そうそう、安心して待てばいいんだ。討伐隊の連中も軟じゃないさ」
気掛かりだったが思った以上に早く解決しそうだ。
それもあってルナはもう気にしていない。
対しシアは少し沈んだ表情になるが、2人から言い聞かされる。
「うん、そうだよね。よし、切り替えよう!」
不安や心配を振り切るように頭を振る。
そしてご飯を食べ始めるが……何を慌てているのやら、ガツガツとはしたないがやたら元気だ。
勢いは良いが一口が小さいので、なんとも言えない小動物さが漂う。
「良い子だ。……でもゆっくり食べなさいな」
言われた通り意識を変えられたシアを、リアーネは優しい目で見るが食べ方には注意をした。口元も一気に汚れてしまったので拭いてあげる。
「んぐっ……ん。あい」
「ほんとに子供だなぁ」
そんな注意をされてしまったシアは、恥ずかしそうに返事をして大人しくなった。
もう子供以外の何物でもない。
本当に中身はどうなってしまったのやら……と、ルナは少し不安になってしまう。
「そんなことない」
どれだけ幼い振舞いをしようが、中身はしっかり大人のつもりらしく否定している。
確かにシアは生まれた時から一貫して、自分の精神だけはハッキリと自覚しているし、その上で子供として生きてきた。
彼女のこの幼い言動は演技ではない。
幼児の頃は演技だったけれど、慣れて自然になった……なんて本人は思っているが、それはただの思い込み。
彼女がそうしたいと望んだからだ。
見た目通りの言動をする事で可愛がられ、愛される事を望んだ結果だ。
それを幸せと感じたからだ。
そしてその幸せを、愛を失った。
ルナが知る彼女は、愛を失ったシア――実質【彼】なのだ。
中身を打ち明けた事も大きく影響していただろう。
そして今は【彼】を含めての【エリンシア】へと、改めて変化していく途中……と言えばいいか。
こうしてまた愛されるようになった今、彼女には新たな願いがある。
今度こそ幸せになりたい、もう失いたくない、もっと愛されたい。
そんな心を、無意識に表に出している。
だからこその子供らしさ――幼い言動なのだ。
そしてそんな心の更に奥……まだ誰も、やはり本人さえも気付かぬ暗い感情が眠っている。
秘めるモノがやたらと多い子だが、それだけ複雑な存在でもある。
大人か子供か、心と性別と。
2面性を持つどころじゃない彼女だが、どれもシアであり――全て含めてのシアだ。
なんにせよハッキリしない奴である。




