第52話 休息 2 若き職人
「何かお仕事?」
わざわざ鳥を寄越すという事は、仕事が入ったのかもしれない。
「うーん……仕事と言えば仕事だねぇ」
シアに聞かれたリアーネは曖昧な答えを返した。
よく分からないので、シアとルナは揃って首を傾げる。
「どうやら討伐隊がグリフォンと遭遇したけど、場所が悪くてマーキングして帰ってきたらしいんだ。ひとまず街へ集合して準備したらもう一度討伐に出るんだとさ」
届いたのは団長からの手紙で、どうやら先の件を伝えたようだが……彼女にわざわざ連絡する理由とはなんだろうか。
「マーキング?」
「それは私も知らない」
マーキングという言葉が気になったらしいルナは、シアをチラっと見るが残念ながら知らなかった。
「あぁ、まぁ説明しても良いけど……準備で色々と魔道具が要るから、私に手伝ってくれって話だ」
話の途中だったのでリアーネはルナの質問を流して続ける。
用件とは魔道具に関してだった。
何を隠そうリアーネの仕事とは、魔道具の製作、点検、修理を行う技師と呼ばれる物なのだ。
「あ、うん。そっか……大変だね」
ルナは話を遮ってしまった事を理解して、大人しく話を聞いているらしい。
「これでもそれなりに優秀な技師のつもりだからね。この街でならギリギリ5本の指に入る自信はある。まぁ、丁度今は仕事を減らしているし、話が来るのは当然か」
「リアーネさんってそんなに凄い人だったんだ…」
そして実はかなり評価されているらしい。
技師は知識と技術が問われる、なかなかに難しい職だ。
まだまだ若いのだから自信を持って当然かもしれない。
ついでにちゃっかり自分をアピールしているあたり、まだ姉としての立場というのを狙っているらしい。
シアとしては既にお姉さんという認識で態度はだいぶ砕けているが、まだ少しだけ畏まってしまっている。
立派な大人であろうとしているからかもしれない。
「ふふっ、見直したかい?」
「うん、魔道具はあんまり分からないけど尊敬しちゃうよ」
シアは子供としては頭が良い扱いだが、大人として考えるとどう考えても頭は悪い。
中身がそういう奴なのだ。
だからなのか専門的な知識と技術を有する事を素直に尊敬した。
そんな眼差しを受けてリアーネは満足気だ。
しかし尊敬されたせいで余計に、身近な緩いお姉ちゃんという立場が遠退いた気がしなくもない。
「じゃあ分からない魔道具はリアーネに聞けば良いんだね」
いまいち凄さが分かっていないルナだが、魔道具の専門家が目の前に居るということだけは理解したようだ。
「そうだね、大抵の質問には答えられると思うよ。マーキングも魔道具だから、後で教えてあげよう」
まだまだポイント稼ぎかのように自慢気に答える。
立派な大人然としているが、なんだかんだ彼女も子供らしい面があるらしい。
「え? でもお仕事なんじゃ……」
「ギルドへ行って必要な魔道具の確認と調整、もしくは製作ってだけさ。ご飯を食べたら一緒に行こう」
しかし教えるにしても、討伐隊絡みなら余計な事はしていられないのでは、とシアは遠慮しようとした。
対してリアーネはなんてことないように答え、一緒に向かうことを提案する。
「いいの?」
「そうだよ、討伐隊って大事な事なのに……それにあたし達が仕事に関わるなんて」
流石の2人も及び腰だ。
普段リアーネが仕事をしている時は邪魔しないように近付かなかった。
そもそも具体的に何をしているか知らなかったくらいには、しっかりと線を引いていた。
彼女はある程度時間を決めて部屋へ籠って仕事をしていたし、絶対に入ってはならないと言われていたからだ。
繊細な作業をするし、扱いを間違えれば危険な事もあるのだから仕方ない。
だからこそ、ここに来てそんなお誘いが来るのは予想外だろう。
「時間はありそうだし、良い機会だよ。家の中での仕事はきっちり分けるが……今回くらいは良いだろう。それに、リリーナとセシリアも一旦戻ってくるぞ」
どうやら準備には割と余裕がある様子。
先の自慢やら尊敬された事やらで認識が変わったのかもしれない。
ついでにお姉ちゃん2人も戻ってくると伝える。
「え!? だって2人は討伐隊に入ってないのに……実は出てたの!?」
しかしシアは勘違い。
討伐隊が戻ってくるという話だったのに、2人も同じく戻ってくると聞いたらそう思ってもおかしくない。
自分を心配させないように内緒にして、危険な討伐隊に参加していたのかと驚き慌てた。
「違う違う、ごめんね……言い方が悪かったかな。グリフォンを刺激して逃げてきたせいで、討伐隊以外が接触したら面倒だって殆どの人を戻すんだってさ」
「そ、そっか。良かった……」
「あたしもびっくりしたよ……そんな話聞いてなかったし」
言葉が足りていなかったが、事情を聞いて納得したようだ。
ルナも多少情報を集めたりもしていたのに、まさかあの2人が参加しているなど思いもしなかったからか随分驚いていたらしい。
シアもルナも、それくらい彼女達を想っているという事だ。
不安で心配になる程、実力が無いと考えている訳ではない。
そもそも実力など知らないが……彼女達にとってあの2人はお姉ちゃんという意識が強いらしい。




