第51話 休息 1 一方その頃
さて、その頃シア達はどうしているかと言うと……寝ていた。
正確にはさっき起きたところなのだが、呑気なものだ。
一応ルナは朝にちゃんと起きていたが、リアーネと朝ご飯を食べて二度寝した。
グリフォンの件が気になってはいるものの、結局今のところはのんびりしているようだ。
リアーネがお昼ご飯を作っており、のそのそとリビングに入ってきたシアを見て顔を綻ばせる。
「おや、おはよう」
「ん……おはよ」
この家で暮らし始めてもう一週間になる。
そろそろシアがどういう子なのか分かってきたらしく、寝ぼけたようなシアへ特に何か言う事は無い。
セシリアとリリーナも流石に理解している。
リーリアに至っては同じ子供の目線からか、真っ先にシアがのんびり屋でだらしないというのを察していた。
シアも子供らしく砕けた態度に変わっている。
本当にあっという間に馴染んでいっているようだ。
「そろそろ出来るから、ちょっとだけ待っててくれ」
「うん、ありがと」
大人しく座って待つらしい。
お世話になっているし料理の手伝いくらいは、なんて考えていたのにこれである。
前世では自炊も出来ず、山で過ごしていた彼女に料理は無理だった。
そして気を遣おうとしているのが分かるのか、皆遠慮して手伝わせなかった。
同い年のリーリアは手伝っているというのに甘々だ。
「今日はどうする?」
横に並ぶルナが問いかける。
リアーネと遊ぶというのも難しい。一応彼女は家で仕事をしているのだから、迷惑を掛けるわけにもいかない。
「んー……皆大変なのに呑気に遊んでるのもなぁ」
どの口が。
皆がグリフォンと相対している頃は呑気に寝ていたというのに。
「確かに皆大変だけど……それは君達が気にし過ぎているだけだよ」
また子供らしくなく、余計な事を考えていると思ったリアーネは口を出す。
「今日も朝から討伐隊が出てるんだ。きっとそろそろ片が付く頃じゃないかな」
子供を安心させるのが大人だと思っている彼女は続ける。
大人といっても今年で20歳、まだまだ若い。
両親が家を出ているから大人らしくあろうとしているだけで、彼女も根っこは未熟だ。
「だといいんだけど……」
「ま、あたしも色々思うところはあるけどさ。ここでグダグダ考えたってなんにもならないでしょ」
そんなシアにルナも言い聞かせる。
彼女だって心配しているし、放り出して遊ぶことに何も感じないわけがない。
「ん? ……なんだ?」
料理が出来て皿へ盛り付けていたリアーネが声を上げる。
シア達も何だろうと思い、窓の方へ歩いて行く彼女を見る。
「何それ?」
窓の外には連絡用の鳥型魔道具が来ていて、リアーネは窓を開けて鳥を掴み戻ってくる。
ルナはこの魔道具を知らない為、作り物の鳥に疑問を持ったらしい。
「連絡を取り合う魔道具だよ。私もあんまり知らないけど……」
見た事がないらしいルナへとりあえずシアが教えるが、知識が無いので具体的な説明が出来なかった。
前世のスマホを知っているシアからすれば、映像どころか声すら届けられないこれはあまり興味が湧かないのかもしれない。
ちなみに写真は存在しているが、一般人の手元まではあまり普及していない。
「そう、個々で連絡を取り合える便利な魔道具だ。連絡と言ってもただ手紙を送っているだけなんだけどね」
説明を引き継いでリアーネが実際に鳥の中から手紙を取り出して見せる。
小さな鳥の中に収めるために細かく折りたたまれている為、少し不格好な手紙になってしまうのは仕方ない。
それでも普通の手紙を送り合うよりも遥かに早い。
「おぉー……そんなものがあったんだな」
「これは30年くらい前に普及しだした物でね。大した物は運べないが……なにせ速いから、色んな所で使われているんだ」
今や連絡をする上では無くてはならないくらいに浸透している。
しかし紛失の可能性を考えると、重要な物を送るのは避けたい。
そもそも遠すぎる場合には使えないという事もある。
魔法があっても地球の電子メールのようにはいかないらしい。
一口に魔法と言っても、意外とままならないモノなのだ。




