第49話 捜索 3 ままならない遭遇
そうしてしばらく、ムサイ男達が適当な事を語り合いながら、時には魔物と戦いながら、南へ進んでいると……
大きな影が地面に落ちるのを見た。
「っ!?」
「静かに……」
慌てて空を仰ぐ一行。
視線の先には、探していたグリフォン。
そのまま飛んで行き、麓から少し山に入った所へ降下していく。
もしかすれば見つけられるかもしれないとは思っていたが、本当に出会えるとは。
急ぎつつも慎重に、山道を出来るだけ音を抑えて追いかける。
山――森の中を進み、少し開けた所にグリフォンが見えた。
「傷跡からしてやはり山で縄張りを奪われた感じか」
胴体に大きな傷痕が有ることからも、やはり山から追い出されてしまったと確信した。
どこかの誰かさん達にそんな気は無かったのだが。
「一体何にやられたのやら」
犯人は見知った小さな少女達だ。
「そんな事より、運が良ければ挟み撃ちとは言ったが……むしろ運が悪いな」
グリフォンが降り立ったのは山の中――かなり生い茂った森の中で、多少開けた場所だったが崖際だ。
と言っても特別大きなものではなく、精々15メートル程度。
しかし戦うには無理がある。
周囲は狭い間隔で乱立する樹木と岩、多少開けているが傍には崖。
いくら自信のあるマーカスでさえ手を出したくない地形だ。
「戦力的にはイケるんだがな……仕方無い、マーキングだけして全力で逃げるか。そして街で隊を編成して確実に獲る」
このメンバーならばまともに戦えば狩れるだろうが、状況が悪い。
そこで団長は、グリフォンをマーキングして街へ戻り、諸々の準備をして再度討伐という考えを示した。
マーキングとは魔道具の1つ――対象に魔石を撃ち込み魔力で紋を刻んで追跡を可能にする物、つまり発信機。
これさえしておけば、大雑把ではあるが何処に居るのか追える。
ただし半日程度で消えてしまうが、そこまで時間をかけるつもりは無い。
そしてちょっかいを出されたなら、怒ってこちらを攻撃してくるのは確実だ。
「それが良さそうだ。奴が追ってきて、状況が良さそうなら迎え撃つ形でいくか?」
その案を受け入れたフェリクスは確認を入れる。
戦える場所まで釣り出してやれれば、狩ってしまった方が良い。
しかしそれは馬鹿正直に着いて来てくれればの話だ。
「平地まで行っても着いて来てたら考える。流石にそこまで馬鹿じゃないだろうが……」
力も知能もある魔法生物なのだから、大人しく不利な状況まで追ってくるとは考えづらい。
何か相当な怒りを買えば平地まで釣り出せるかもしれないが、不確定過ぎる。
そこまで怒らせるのはこの場で戦うのと変わらない。
素直に退却して準備を整えてからの方が確実だ。
「分かった」
「それで行こう」
「よし、なら……退路を確保しておくか」
皆返事を返し、行動開始だ。
他の隊へのんびり連絡を回している時間は無い。事後報告になるが誰も責めはしない。
マーカスを先頭にフェリクスとダリルが退路の確保に行く。
グリフォンを刺激して追われる中で、退路が無いなど冗談ではない。
ついでに他の敵に横槍なんて入れられたら最悪なので、警戒もした方が良いだろう。
7人で一斉に逃げるのも其々が邪魔になりかねない為、先に離れる意味もある。
「セシル、撃ってみるか?」
「マーキングですか? ……そうですね、実践した事は無いですし、やってみます」
団長はマーキング用の魔道具をセシルに渡そうとしながら聞いてみる。
銃のような見た目をしている。
撃ち出すというのも同じだが……どうやらこの世界にも銃かそれに近い物があるらしい。
しかし刺激して注目される役目を押し付けるとはなかなか厳しい。
が、言われたセシルは驚いたものの、すぐに受け入れる。
何事も経験……というのもあるが、もたもたしていたらグリフォンが飛び立ってしまうか、先に気付かれてしまう。
受け取って慎重にグリフォンに近づいていく。
魔法もそうだが、対象に近づかなければ当てるのが難しいのは当然だ。射程距離だってある。
「外しても焦るなよ。よく狙え……」
「はいっ……」
ここまで近づいてちゃんと狙っていれば外す事はそうそう無い。
セシルは深呼吸をして落ち着き、狙いを定める。
それを見ていたアインとグエンは化身をして構える。
彼らはその身体能力を活かして、追ってくるグリフォンの妨害をする役だ。
化身した彼らならば、妨害しつつも無事に逃げ切れるだろう。
「――っ!」
しかし流石にグリフォンに気付かれてしまう。
強大な魔法生物は気配の察知も鋭い。
だが気付かれるのは予想の範疇だ。
セシルは一瞬慌てそうになるも、魔道具から意外と軽い音と光と共に魔石を撃ち出した。




