第48話 捜索 2 つまり経験値稼ぎ
「南で真新しい痕跡を発見、だとよ」
とりあえず受け取った情報を共有する為、団長は皆に伝えた。
「これで北と東と南で見つかったわけか。なかなか広範囲で動いてるみたいだな」
先立って北の隊からも報告が届いている。
見つかっているのは良いのだが、これでは広くて範囲が絞れない。
もっと情報が必要だ、とダリルは苦い顔をした。
「麓を広く動いているとなると……やはり山から追い出されたのか」
「あの山脈はデカいからなぁ。何か強い奴が居たとしてもおかしくない」
アインとグエンも情報から推察をしているようだ。
普通に考えるのなら、より強い何かと争い縄張りを失ったから……というのが自然だろう。
確かにシアとルナが追い出したわけだが、そんな事は誰も知らない。
「そうだな。とりあえず行動範囲はある程度分かったが、どこに居るのやら。南の痕跡は新しいようだが……」
そんな山にずっと居たらしいシアが無事だったのは、今更ながら奇跡だなと団長は考え直した。
しかし実際の所、そんな生物が多数生息する山には亜人もあまり住処を作りたがらない。
そして魔法生物は酷く空腹だったり、刺激しなければ積極的に人を襲ったりしない。
つまり脅威と言えば魔物と一部の動物くらいだったのだ。
それをルナがどうにかしていたから無事だったわけだ。
「まぁそもそも、飛び回る奴を痕跡から追うなんて難しいしな。情報からして、北から南に動いてるみたいだし俺達も南に向かうか?」
「そうした方が良さそうだ。おい、南へ移動するぞ」
マーカスの意見に団長も賛同して声を上げる。
南に居る可能性が高いならば、そっちへ向かった方が良いだろう。
彼の言う通り、広範囲で空を飛んで移動しているものを追うなど簡単ではない。
アニムの中には翼を持ち空を飛べる有翼族がいるが……残念ながらランブレットのハンターには実力の有る有翼族は居ない。
結局は更なる情報を集めるか…偶然出会う事を期待して探すくらいしか出来ない。
南の隊からの鳥にそのまま連絡を持たせ送り、北には団長の鳥を送る。
そうして東を探索していた彼らはそのまま山の麓に沿って南下することにした。
「運良く出くわせたら、南の隊と俺らとで挟み撃ち出来るかもな」
「そうなれば良いけどな」
筋肉ギルドの3人は歩きながら意気込む。
そうなれば討伐はあっという間だろう。
「グリフォン相手にそこまで言えるのも凄いですね……」
とは言え仮にもグリフォンは強敵である。
全く臆することの無い筋肉達に、グリフォンとの戦闘経験が無いセシルは軽く引きながらも尊敬もしてしまう。
「なに、ただの経験だ。長くハンターやってるだけさ」
しかしマーカスはなんてことないように流す。
豪胆というかなんというか……無謀ではないのは確かだ。
「グリフォンだって特別珍しいわけじゃねぇからな。頻繁に戦う事は無いけども」
「お前を連れてきたのはその経験をさせるためだ。無茶する必要は無いが、よく見て覚えろよ」
団長とフェリクスも語る。
実力が足りなくて戦闘で脚を引っ張ろうが、それすらも貴重で大事な経験となるのだ。
「当然。自分の実力も経験も分かってるよ。今回はしっかり学ばせて貰うさ」
「それでいい」
それを分かって同行しているセシルも、気づけば前向きにグリフォンとの戦闘を覚悟した。
返事を聞いたフェリクスは満足そうに頷く。この様子ならば、戦闘になったとしても大丈夫そうだ。
セシルに足りないのは経験だ。
彼は今年20歳。経験ばかりは実戦以外でどうにかすることは出来ない。
年長者は若者を鍛えるのに熱心だ。
いくら実力が高かろうが、こんな仕事をしている以上いつ万が一があるか分からない。
だから後を託せる者達を育てていくのはハンターとして大事な事だ。
普段はギルドの皆で鍛え合っているが、経験を積むというのは機会に左右される。
少なくとも今回は認められる実力が無ければ無理ではあるが、こういう時こそ糧にさせようとするのも当然であった。




