第44話 襲来 7 グリフォン、馬じゃなくてライオンです
「おお、そうだった。最近外でよ、亜人が増えてるってのは知ってるよな?」
「当然だ。それがどうした? 別に珍しいことでも無いだろう」
マーカスと呼ばれた大男は説明を始める。
半年程前からだろうか、広範囲で亜人が増えているがそれは団長も当然知っている。
亜人とは言語がバラバラ且つ魔法も使えない人型の生物だ。
お約束なゴブリンやらオークやら多数の種族がいるが、どれも野生的で好戦的。
魔物ではないから結界で阻めない。
街を襲われると面倒なので、ハンターは魔物と同じ様に外でよく戦っている。
積極的に狩るわけではないが、向こうから襲ってくる事が圧倒的に多い。そして数も多い。
「そりゃそうだが、原因が分かったんだ。今日ウチの若い奴らが街の東の方でグリフォンを見たらしい。街から大して離れてない場所だ」
「……なるほど、グリフォンに追われて亜人が流れてきたのか」
聞けば亜人が増えた原因が分かったという。
グリフォン――魔法生物と呼ばれる存在だ。
主に山深くに生息する、上半身が鷲で下半身がライオンのそいつはかなり強大である。
魔法生物とは名前の通り魔法を扱う動物で、代表的なものとしてはドラゴンが上げられる。
属性は限定的ではあるが、魔物とも戦い合っているような強敵だ。
と言っても魔法という共通するモノを持つからか、人を優先的に襲ったりはしない傾向にある……が、絶対ではない。
亜人以上に好戦的で、種によっては下手に手を出せばかなりの被害が出る。
脅威となりにくい種も多く居るがそれはひとまず置いておこう。
「実は先日、ミスラに行った時にもグリフォンが近くに居るって聞いたんだ。ただ、あそこはグリフォンなんて特別珍しい話でもなくて気にしていなかったが……」
「同じ個体か? 随分広範囲で動いてるな」
シアを保護した前日、隣町のミスラに遊びに行っていた団長達は一応仕事の話もちゃんとしていた。
この街よりも更に山の近くに位置する街では、そんな話は珍しくは無い。
だから気にしていなかったのだが、離れたこちらの方まで来ているなら話は別だ。
マーカスはそれを聞いて、同じ個体なのかどうかを考える。
もしそうなら行動の予測が難しく厄介だ。
「……グリフォン?」
話が聞こえたルナは、なんとも嫌そうな顔で思わず呟く。
「ん? 精霊が居るじゃないか。そういえばこの数日、街で精霊を見かけたって奴が多かったが……」
その呟きが聞こえたのかマーカスがルナを見て、精霊が居る事に今更気付いた。
まさか今まで視界に入っていなかったとでも言うのだろうか。
「あー……あたしの事は今は置いといてくれ。また今度挨拶するよ」
ルナは彼と関わるのは少し遠慮したいのか名乗りもしない。
分からなくもないが……どうやらそれだけじゃなく、何か気になっている様子。
「そうか。完全に街に住んでるんだな……まぁ言われた通りそれは置いといて、グリフォンは流石に放置出来ねぇ」
そんなルナに言われた通り、あっさりと会話を戻す。
グリフォンほどの脅威が街の近くまで来ているというのは見過ごせない。
なにせ奴は強い上に空を飛ぶ。もし空から街に入られたら堪ったものじゃない。
「そうだな……これは討伐隊を組んで早々に狩ってしまわないとか」
「グリフォン相手に立ち回れる奴なんて限られてる。少数精鋭で探索と追跡をしてとっとと片づけたい」
団長は素早く考えを巡らせ、討伐隊の編成についてマーカスと話し始めた。
グリフォン程の敵とやりあえるのは相応の実力者だけだ。
しかも痕跡を辿って探索しなければならない。時間をかけてはいられないのだ。
そんな真面目な話に混ざれるわけも無く、シアとルナはソファで居心地悪そうにしている。




