第41話 襲来 4 多分入り浸る
「なんか……勢いのある人だね?」
またまたあっという間に会話を切り上げて出て行ってしまったスミアを見送ってシアが呟く。
「どうもお前さんに興味があるらしいな。まぁ誰だって気になるんだろうが……もういっそ公言しちまうか? 嬢ちゃんの事情を言いふらすような形になっちまうけど」
団長はスミアの様子を見て、シア達の事を周囲に説明する事を考える。
こうしてギルドにも顔を出している以上、誰もが気にするのは確かだ。
ただしなかなか壮絶な過去である事から、むやみやたらに詳しく説明して回るのもどこか憚れる。
「あー……うん、良いよ。会う人会う人に聞かれても大変だし、団長さんのやりやすいようにしてくれれば」
「多分同情されたり、悪い意味じゃなくやたら絡まれる事になりかねないが……嬢ちゃんが良いならそうさせてもらうか」
シアとしては毎回のように聞かれる可能性を考えたら、先に説明されていた方が気が楽だ。
「それくらいは別に……」
「まぁそうなればここに遊びに来やすいしいいんじゃない?」
シアは自分が同情されるのは受け入れるつもりでいる。
しかし可愛がられるという事までは考えていない。
スミアが既に世話を焼いて可愛がろうとしている事もよく分かっていない。
やはり自分がどう見られているのか、という自覚が薄いらしい。
ルナは興味があまり無いのか、ここへ遊びに来やすいだろうと適当な返事だ。
まぁ彼女からすれば好奇な目で見られるのは変わらない以上、そんなものだろう。
「ここは仕事場なんだがな……来るのは良いが邪魔しちゃダメだぞ」
未だここへ遊びに来るという意識のルナへ、一応口を出す。
あまり軽々しくギルドへ子供を入れるのもよろしくないのだが……事情さえ説明していれば誰も邪見に扱わないだろう。
だからそれでも構わないとも思ってしまう。
「それは……私は大丈夫。ちゃんとできるよ。ルナは知らないけど」
「いや、あたしだって何も考え無しに動いたりはしないよ。ダメな事はしっかり守るって」
「ならいいけど」
シアもルナも、お世話になっている人達へ迷惑を掛けてしまいかねない行動は流石に自制するつもりである。
それでも、なんだかんだで何かしら騒ぎを起こしそうな2人だが。
「んじゃ、今日明日くらいで説明しておこう。――ああ、一応言っておくが、常に嬢ちゃんの知り合いが居るわけじゃないからな」
「分かってる。そんな頻繁に来たりはしないつもりだけど…」
とりあえずギルドの者には説明をすることに決めたらしい。
一応の忠告として、シア達の現状の知り合い――あの日保護してくれた人達が居ない場合だって充分あり得るという事だけは伝えておく。
言われたシアも流石にそれは理解しているようだ。
頻繁には来ないとか言っているが、ギルドの人達に受け入れられたら全く気にしなくなりそうである。
そんな話をしていれば、ノックも無しに扉が開いた。
「はーいエリンシアちゃん、お待たせ!」
元気よく部屋に入ってきたスミアが、随分しっかりとしたお茶とお菓子を持ってきた。
ケーキまであるが……なぜ仕事場にこんなにお菓子があったのかは謎である。
スミア以外には分からない。
「お前……ノックくらいしろ。というかなんでそんなもんがここに――」
「ごめんなさーい。じゃあエリンシアちゃん、お茶しながら色々お話しよっか」
団長の苦言をサラリと流して、シアの座るソファへ向かった。
「あ、うん。ありがと……お話って何?」
「ちょっと待て。嬢ちゃんの事情については改めて俺からギルド連中に説明するから、今は聞くな」
スミアの飄々とした態度にまたもや困惑しているシアは、とりあえずお礼を言って受け入れるが……お話とはいったいなんだろうか。
団長は若干慌てて止めた。
シアの過去についてこの場で聞き出すなど、嫌な気持ちにさせてしまうだけだろうと考えたらしい。
「分かってます、無理に聞き出す真似はしません。街に来てからの事だけでお話しましょ」
「う、うん。何から話せば……?」
止められたスミアは元よりそのつもりであったのか、過去には触れず街に来てからのここ数日の話をしたがる。
数日しか経っていないというのにどう話せばいいやら、シアは困惑したままだ。
「あたしはちょっとその辺見て遊んでくるよ。迷惑はかけないからさ」
「あ、ルナ! ――もうっ」
一連を見ていたルナは窓から逃げる。
察しが良くグイグイと積極的に絡んでくる彼女は、ルナとしては少し苦手に感じてしまうのかもしれない
残されたシアは仕方なく1人でスミアの相手をすることになった。
別にスミアが嫌だとか苦手とかではないが、どうにも対応しづらい。
団長はひとまず様子を見つつ、ある程度で切り上げさせることにした。
そもそも仕事を放り出してここへ来ている時点で問題なのだが……




