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第40話 襲来 3 猫は構い過ぎると逃げる

「ん。大人しくしてる」


「わりぃな。セシリアとリリーナには少し休みを増やしてやるつもりだが、急には無理だからな……」


 シアが最も懐いている2人には出来るだけ傍に居させてやろうと、団長は手を回している。

 戦うという仕事な以上、人が減っては危険が増えるだけだ。

 しかしその調整が難しい訳では無く、かなり融通の利く職場ではある。

 とは言え長期的にとなれば、周りの負担を考えると流石に急には決められない。


 ありがたいことに、そんな気を使ってくれる団長にシアは礼を言う。

 と、ノックの音が響く。どうやら団長へ何か要件のある人が来たようだ。


 察したシアとルナは邪魔にならないように部屋の奥にあるソファへ移動する。


「おう、いいぞ」


 それを横目に、団長はノックの主に入室を促す。

 入ってきたのは若い女性――シア達がギルドを訪ねた時に対応した人だった。


 こんな場所に似つかわしくない幼い少女が訪ねてきた上に、説明も無しに団長が連れて行った事が気になったらしい。

 適当な要件を作って様子を見にきたようだ。


「失礼します、団長。幼女を連れ込んで何をしているんですか?」


 部屋に入り、団長の机へ歩きながら凄い事を言う。

 しかし誰もが気にしていた事でもある。


「本当に失礼だな、おい」


 聞かれた団長は、今更ながら自分の行動を振り返って理解する。

 そもそもシアの事は公言していないため、ギルド内でも知っている者は少ない。


「冗談です。先日保護したという少女ですよね、さっき知りました。どうしてここへ?」


 団長が幼女を連れ去ったせいでザワついた場を収める為に、知っている者が軽く説明していた。

 と言っても、何か事情があって保護された孤児だという事だけだ。


 彼女もそこで知ったのだが、それでもわざわざ要件を作ってまでここへ来るとは。

 余程興味が湧いたらしい。


「知ってるなら変な事言うな。今日は家に誰もいねぇから、寂しかったんだとよ」


「あらら……可愛らしいじゃないですか。というか普通に紹介してくれても良かったのでは? 団長が幼女を連れて行くとか絵面が危険です」


 予想以上に微笑ましい理由だったからか、彼女は笑みを溢す。

 ついでに、理由作りにとりあえずで持ってきたどうでもいい書類を置き、説明しなかった理由を聞いてみる。


 片や、またもや寂しがっている事を突かれた上に可愛らしいとまで言われたシアは顔を赤くしている。


「仕方ねぇだろ。わざわざ言いふらす事でもねぇしよ。まぁ傍から見たらヤベェってのは今更理解したけども……」


「――改めて、こんにちは。私はスミア、ギルドの裏方を纏めてるわ。お嬢ちゃんのお名前は?」


 しかし団長は語らない。

 明らかになにか良くない事情が無ければ保護なんてしない以上、つらい話なのだと彼女も多少は察していたらしい。

 追及すべき事ではないと判断したようだ。


 考えが足りなかった事を反省している団長を後目に、シアへ近づき挨拶をする。

 団長への辛辣な言葉や、話を振って置きながらスルーしているあたり良い性格をしているらしい。


「こ、こんにちは。エリンシアです」


 会話していたのにあっさり切り上げて近づいて来たからか困惑。

 団長に軽口を叩けるような立場の人だと思ったシアは、若干怯みつつも挨拶を返す。


 事実、スミアは事務としてではあるがギルドを陰ながら支えている。周りからも割と評価されている程度には能力と立ち回りが出来る人物だ。


「あたしはルナだ」


 自分も挨拶しないと、とルナはシアの頭に乗りながら名乗る。

 最近のお気に入りの場所らしい。


「精霊が当たり前に居るのはびっくりだけど……仲が良いのは分かったわ」


 そんな姿を見て仲の良さを理解しつつも、やはりスミアは驚く。

 精霊自体珍しいのだから仕方ない。


「あたしに驚いたり困惑したり、そういう反応は見飽きたよ」


「誰でもそうなるよ。ルナが珍しすぎるだけ……そんなの分かってたでしょ?」


 街をシアと共に歩く度に(飛んでいるけれど)常に同じような反応が周囲から感じられる為か、ルナは飽き飽きしているようだ。


 何度も言うが仕方のない事だ。

 誰もが精霊が居ることに驚き、人と一緒に友達のように振舞っている姿に困惑する。


 珍しい精霊の中でもとりわけ珍しい存在だ。


「そうね、ごめんなさい。ちょっと失礼だったかも……」


「別にいいよ、そんな気にしてないし。少し意地悪だったね」


 嫌がるルナを見て、失礼な事を言ってしまったと思ったスミアは謝る。


 そしてルナはなんてことない様子で返し反省したらしい。仕方のない事でわざわざ嫌な態度を表すのも逆に失礼というものだ。


「ありがと。エリンシアちゃんはリリーナ達を待ってるの?」


 礼を言いつつも、またしてもあっさりと会話を切り上げてシアへ質問を投げかける。

 どうにも切り替えが早くグイグイ来る人だ。

 良くも悪くもそういう人だと理解したシアは返事を返す。


「ん。それでも良いけど……でも多分先にリーリアが帰ってくるから、それまでかな」


 とりあえず時間が潰せれば良いのだ。

 というか寂しがってここまで来てしまったんだと、あの2人を迎えたら彼女達はどうなるかわからない。


 しばらくシアを離さなくなりそうである。そして甘やかしまくって今後も仕事を疎かにしかねない。


「リーリア……リリーナの妹さんだったかな。学校かぁ。エリンシアちゃんは学校には行かないの?」


 そんな答えを聞いたスミアは、普通は考えないような事を尋ねた。

 見るからにシアは幼く、まだ学校に通う歳には見えないからだ。

 しかし彼女は違った。

 そんな歳の、しかも保護されたばかりの子供だけを残すだろうか……と冷静に考えた。


 その事と、会話や雰囲気でもしかしたら見た目以上――学校に通える歳頃だと予想したらしい。

 地味に子供相手でも見た目だけで判断していない。

 自由な性格でも充分評価されるだけはあるらしい。


「私、勉強は出来るから。それより色んな事がしてみたい」


「そうなんだ、凄いじゃない! 沢山の事を経験するのって大事だもんね」


 シアは当たり前の事のように返す。

 事実を言っているだけだが、事情を知らなければ子供がイキがっているようにしか思えない。

 しかし先の考えもあって、彼女は本当に勉強は問題ないのだろうと信じた。


 学校よりも様々な経験をしたいと返す子供はあまり居ないだろう。

 自分の意思でそう決められるというのも、まだ幼い子供である事を考えると凄いと言えなくもないかもしれない。


「学校じゃなくても知らない事は学べるし。今も少し勉強してたんだよ」


「うんうん、偉い偉い。――そうだ! お茶とお菓子があるから持ってきてあげる」


 スミアの考えなど全く想像もしていないシアは更に理由を並べ、今も勉強していたところだと地図と本を指差す。


 地図はともかく、その本は明らかに幼い子供向けではない。

 それを見たスミアは、やはりこの子は見た目以上に内面は育っているようだと納得する。


 しかしそれはそれとして、やはりまだ幼い子供だ。

 お茶とお菓子をあげたくなるのも仕方ない。頑張っている子を褒めて労わるのは大人として自然でもある。

 なにより、彼女も随分と子供好きであるらしい。


「いいの?」


 そして食いつく。中身がどうたらこうたらと言っているものの、そういうところは子供らしい。


「もちろん。ちょっと待っててね!」


「あ? おい、お前仕事関係無くなってないか? ――行っちまったし」


 シアがそんな反応をするものだから、好感触だと思って意気揚々と部屋を出ていく。

 そんなスミアへ団長は思わず口を挟むが無意味であった。

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