第38話 襲来 1 まずはお勉強
簡素な世界地図的な物を最後に置きます。
必要かと言うと微妙な所ですが、大体こんなイメージです。
この世界にはいくつもの大陸が存在するが、その内4つの大陸、6つの国にしか人類は生活していない。
その4つの中で最も大きな大陸には、『ラスタリア』『フィーニス』『コルネリア』という国がある。
残る3大陸は其々に『ゴドウィン』『ギルバース』『レムナンド』という国が統一している。
どの国も人口に対してかなり広大な面積を持っている。
その理由は語るまでもなく魔物だ。
広い国土に結界で護られた街を点在させ、出来る限り広範囲に人類の生存圏を確保している為である。
元は多くの国に別れていたが、人類で足並みを揃えれば魔物に対抗しやすくなる為、次第に纏まっていった。
例え生存圏が狭くとも、長い歴史の中で恐らく現状が最もバランスが良いかもしれない。
約千年程前――増えすぎた人と発展した技術の代償に、魔物が溢れ返り人類は壊滅した。
そこから紆余曲折なんてものじゃない道程を経て、なんとかここまで戻してきたのだ。
便利さに溺れ発展させすぎてはいけない。
それは魔力の消費を増やし人を増やし、魔物が溢れるという悪循環を作り出してしまう。
世界共通の、歴史に学んだ絶対の掟。
だからこそ人は纏まり足並みを揃える。勝手に発展されては他が迷惑を被るのだから。
そんな事情もあり、世界中の数多くの街は多少の差はあるものの、発展度合はほぼ同じである。
そしてここは、ラスタリアの南に位置する街――ランブレット。
そこそこ大きなこの街において、最も大きなハンターギルド『赤竜の牙』の団長室に、この場所には似つかわしくない少女が1人。
数日前に団長達に保護されたばかりの、そのエルフの少女の名はエリンシア。
エルフの3姉妹が引き取り共に暮らしているが、今日は誰も居らず暇だったのか遊びに来たらしい。
しかし気付けば今は地理と歴史について勉強中である。
リリーナは仕事で外へ出ている。
同い年のリーリアは学校へ行っていて、本来なら長女のリアーネが面倒を見るのだが……彼女も流石に全ての仕事を家の中だけで完結は出来ない。
なのでシアは傍に居る精霊――ルナと2人で遊びに出る事にした。
そうしてなんとなく知り合いが居るかもしれないギルドへ向かった結果、団長に捕まって部屋に連れ込まれた。
言い方は悪いが事実だ。
まぁ目の届くところに居た方が良いのは確かだろう。
この2人――まだ誰も気付いていないが何をしでかすか分からない質である。
連れ込んだ団長としては、単純に仕事場で放置は出来ず心配だったからだろうが……机にあった地図に興味を示したことからお勉強スタート。
ここが何処なのか、シアの故郷は何処だったのか、山を越えてきた事も含め地理を知る為だ。
ついでに地図以外に、部屋にあった本も使って国や地域への知識を得る。
シアは元々大人である為、一応頭は悪くは無い。
むしろその幼さに見合わない知能と言えるが、地理や歴史に関しては最低限の事しかまだ学んでいなかった。
その所為で――いや、お陰で山から国を超え、最高の居場所を得たあたり運が良い。
デカい体で書類仕事をする団長の横で、ちょこんと座り勉強している小さな姿はなかなか可愛らしい。
というか対比が凄い。
そのまた隣に更に小さい精霊が居るものだから、サイズが色々おかしい部屋になっている気がする。
シアは随分と団長に懐いているようだ。まだ大して関わってはいないのだが……父性でも感じているのかもしれない。
もしくは中身の所為だろう。筋骨隆々な姿は彼女からすれば憧れらしい。
ムキムキなおっさんに懐く小さな少女というのも傍から見れば危ないかもしれない。
部屋に連れ込んだ団長は周りからどう思われたのだろうか。
可哀想な事にならなければいいのだが、この場の誰一人として考えもしていない事だった。




