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第30話 お風呂 3 混乱の果ては開き直り

「さて、そろそろいい時間だし……シアちゃん、お風呂入ろっか!」


 確かに、もう眠くなってきてるしお風呂入って寝たい。


「ん、お風呂どこ?」


「あ、ちょっと待って。シアの着替え、今日買ったやつ出さないとね。取ってくるから」


 あぁ、そうだった。

 着替えも無しに風呂に行っても仕方ない。


「私は用意できてるよ」


 ん?


「あたしも入るー!」


 んん?

 おかしいな……私がお風呂に入るって話だったのに。


 なんでセシリアも着替えを持っているんだ。

 なんでリーリアも入るなんて……え、そういう事?


「はぁ……そうなると思った。最初からそういうつもりだったわけね。はい、シアの着替え」


「あ、うん。ありがとう」


 んんん?

 なんでリリーナの手にも着替えが……いや、もう分かってるよ。

 皆で入るってことか。なるほどね。


「こっちこっち。ウチのお風呂は姉さんの好みで大きいから、4人でもなんとか大丈夫だと思うよ」


「え……?」


 いやダメでしょっ!

 だって私は一応中身は大人の男で――いやでも今は女の子だから大丈夫……なわけあるか!


 百歩譲ってリーリアは同い年の子供だから分かる。

 私としても流石にこの子に邪な感情は……無いよな、うん。大丈夫。


 でもセシリアとリリーナはまずい。

 女の子に生まれ変わったとはいえ他人の裸なんて見た事は無くて、両親は受け入れていたけど彼女達はそうじゃなくて……



 だって年頃の女の子の裸なんて見てしまったら、私はいったいどうなってしまうんだ?

 逆にこれで何も感じなかったら、それはそれで意識が変わっているということで。

 ならやっぱり私は男だな、うん。


 裸を見られることは別にいい。

 だって私は男で、こんな幼い体なんて見られたところでなんとも――いややっぱなんか恥ずかしいかも……


「あれ? シアちゃんどうしたの?」


「なんか機能停止してるけど」


「シアちゃん、お風呂行くよー?」


「ぷっ、くくっ……シアは恥ずかしがってるんだよ。誰かとお風呂なんて入った事無いんじゃない?」


「そっかぁ……恥ずかしいならやめといた方がいいかな?」


「いやいや、なんだかんだシアはお世話されるのが嬉しいみたいだし、このまま連れて行っていいよ」


「いいのかな……顔赤くして石みたいに固まってるけど」


「いいっていいって! ほら行こう!」


 これでも私は生まれ変わっても真っ当に生きてきたんだ。

 女になったからって、それを利用してグヘヘなんてしたことない。

 そもそもそこまで明確な性欲が無かったし……


 でもやっぱり女性にはそれっぽい感情は持ってて、心は反応しても体は反応しないとかいうよく分からない状態だったんだけど。

 つまり結局私はどっちなんだ。


 えーっとだから……皆とお風呂なんて興奮してしまうけど体は反応しないから別に大丈夫で。

 そもそも女の子同士だし誰も気にしないし、心だけが反応して遣る瀬無くて……


 あれ……?

 あれぇ……?



「ふぁっ!? なんで私裸に!?」


 気付いたら脱衣所、皆下着姿で私は裸にされていた。


 思わず体を隠してしまったあたり、やっぱり恥ずかしいんじゃないか私は。

 山では何も気にせず裸になってたのに。


 あぁ、下着姿のセシリアとリリーナが眩しい……


「シアちゃん、なんかずっと固まってたよ」


「あたしが無理矢理連れて来させたんだ。諦めろ」


 リーリアが裸になりながら言う。

 あぁ、見ちゃいけない……子供同士だしいいか。

 いやだから私は……あれ?


 ていうかルナのせいか。


「恥ずかしいのは分かったけど、もう皆脱いじゃったし行くよ」


「シアちゃん、どうしても恥ずかしくて無理だったら言ってね」


 ふぁぁああああ!?

 2人が裸に!?


 見てしまった見上げてしまったなんて眺め――違うそうじゃない。

 しっかり興奮してるからやっぱり私の中身は男だ!

 

 若干自意識が危うくなっていた気がしたけどこれで安心……だから違う。

 見てしまった罪悪感が凄いけどやっぱり見たい……違う暴走してるぞ。


 あれなんだっけもうわけわからなくなってきた……



「ぶぁっ!?」


 顔に冷たい水が勢いよく掛けられて少し冷静になれた。ルナか。


「おーい、いい加減起きろ。予想以上に面白い事になってそうだけど、固まってたら面白くないよ」


 こいつ、凄い事言ってるな。

 ほんとに酷い……って、ルナも裸!?

 お前今まで私の前で服脱いだことないじゃないか!


 ルナも自分で言ってた通りちゃんと女の子で――嘘だ、私はこんな小さい精霊にまでドキドキしてるのか……

 あれ、じゃあリーリアもヤバイんじゃ……

 あ……私もうダメかもしれん……


「ダメだこいつ」


 呆れられた。だって仕方ないじゃないか。とにかく落ち着く時間をくれ……


「だいじょうぶ、ちょっと待ってね……」


 必死に落ち着こうとする。

 落ち着けるわけが無いけど頑張る。



 大丈夫だ、私は女の子だ。

 女の子同士でお風呂なんておかしくない。


 それに自分の体で見慣れているだろう。成長はしていないけど同じ体だ。

 なにより、同じ様な子供体型のルナとリーリアに興奮なんてするわけない。


 問題はセシリアとリリーナだけど一旦受け入れてしまえばなんてことないはずだ。

 落ち着け――落ち着いて受け入れるんだ。

 自分が男だという事は忘れずに、女の子同士だと受け入れるんだ……



「ちょっと、開けっ放しじゃお湯も出せないでしょ。なんにしろこっち来なさいな」


「恥ずかしいだろうけど、とりあえず行こうか」


 リリーナとセシリアが言いながら私を運ぼうとする。

 目を瞑れ。まだ見るな……

 肌と肌が……柔らかい。ダメだまた……


「ひゃわぁぁああ……」


「シアの恥ずかしいって、他の人の裸に慣れてないからなんだろうね。ちょっとずつ慣らせばいいと思うよ」


「ああ、そういう事なの。自分じゃないんだ」


「なるほどねぇ……だからさっきからこっち見て赤くなってたんだ」


 分析しないで……


 でも結局はそういう事だ。

 男なのに女の子同士として、無遠慮に見てしまう。

 その罪悪感と興奮で混乱してるだけだ。


 そう、そんな単純な話の筈なんだ。

 落ち着いて受け入れてしまえば大丈夫なんだ。


 深呼吸、深呼吸だ。落ち着け……


「すぅ――はぁ……あぅ、ぅぅ……よしっ!」


 大丈夫だ。もう受け入れられるはず。


 罪悪感は仕方ないけど、どうしようもない。

 悪いけどもうそういうものだと諦めさせてもらおう。


 ルナ以外は知らないんだから大丈夫、墓まで持っていく覚悟で受け入れる!

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