第28話 お風呂 1 まだですよ
買い物から帰った私は、少し疲れた所為かウトウトしてしまって。
リビングのソファでまったりしているうちに眠ってしまった。
起きた時には夕飯の準備が終わる頃で、リリーナの姉と妹も帰ってきているようだった。
ずっと寝ている私はどう見られてるんだろう……
とりあえず挨拶もせず寝ているのは流石に無いので、しょぼしょぼする目を擦りながら起き上がる。
ぽてっ……とルナが転がっていった。こいつ私の上で寝てたのか?
「んにゃっ……落とすなよぉ……」
ルナも起きたようだ。人の上で寝ておいて文句言うな。
いや、そのままソファに戻ってまた横になった。また寝るんかい。
「あっ! 起きたよ!」
そして元気な声が聞こえる。
聞いたことのない、ちょっと幼い声だ。妹ちゃんかな。
「おー、シアちゃんお目覚めだね。はいこれ。顔拭いてスッキリしよっか」
セシリアがタオルを手に近づきながら声をかけてくる。
受け取ろうとしたらスルーされて、そのままセシリアに拭かれた。なんで。
顔くらい自分で拭けるんですけど……あ、温かい、気持ちいい……
「んにゅぅ……」
なんか変な声が漏れてしまった……恥ずっ……
「シア、そろそろご飯出来るからねー! それまで自己紹介でもしててよ!」
リリーナがキッチンの方から言うと、大人のお姉さんって感じの人が出てくる。
「おはよう、私はリアーネ。リリーナの姉だ」
リリーナの姉でリアーネ……偶然なんだろうけど覚えやすい。
しかしこの人エルフなのに、随分その……スタイル良いな。ふわっと広げた長い髪はリリーナよりも少し青が濃い。
私も自己紹介しようとしたら横から妹ちゃんが勢いよく来る。
「あたしはリーリア! やっと挨拶できたっ!」
「わっ……と、あー……私はエリンシア、シアでいいよ」
ちょっとびっくりしつつ名乗るけど、元気な子で尻込みしてしまいそう。
中身の所為か子供に対してはなんとなく1歩退いてしまう。グイグイ来る子は特に。
何処か上から目線で対応しようとしちゃうから、これも直していかないとね……
「うん! シアちゃんね!」
「リーリアちゃん……リーリアでいいかな」
ほんとに元気な子だ。
リリーナと同じ色の髪を肩にかかるくらいにしている。
しかし言われていた通り身長差が凄い。
10歳の子供同士でここまで差があるのは……そりゃあ心配されるわな。
「いいよー! ……でもお姉ちゃんって呼んでもいいよ?」
私の見た目が幼いからか妹扱いしようとしてるようだ。
末っ子だったから下の子が出来たみたいで嬉しいのかな?
これくらいの歳だと、姉2人に憧れとかもあるかもしれない。
「いや、流石にちょっと……同い年だし……」
でもせっかく同い年なんだから、友達っぽい感じが良いというか。
まぁ家族として一緒に暮らす以上姉妹なんだけどさ。
「むぅー……」
断ったらちょっとむくれちゃったけど。ごめんね。
さて……とりあえず、ちゃんと言う事は言わなきゃね。
リーリアには笑って濁しつつ、リアーネさんに向き合って真面目な顔をする。
「えーっと……改めて、急なのに一緒に住まわせてくれてありがとうございます。あの……きっと私、迷惑かけたり手間を増やしてしまうかもしれないけど、これからよろしくお願いします」
言って頭を下げると、リアーネさんに撫でられる。
つい見上げると、優しく笑いながら語り掛けてくれる。
「聞いてた通りの子だね。そんなことは気にしないでいい。大人として、姉として、君を迎え入れるのは私の……いや私達の意思だ。だからシア、君にも家族として見てほしいな」
「あぅ……ぅぅ……」
しまった、また余計な気を使わせた。遠慮しないで受け入れようって思ってたのに。
ついつい申し訳なさを感じて余計な事を口に出してしまう。
「別に今すぐって訳じゃない。ゆっくりでいいからさ。私だって君の事はあまり知らないから、嫌な思いをさせたりしてしまうかもしれない」
これが初めての会話――いや、会話にもなっていないような挨拶だっていうのに……
どうしてこんなに想ってくれるのか。
どうして皆こんなに温かく迎え入れてくれるのか。
「ずっと一緒に暮らしてきた妹達とだって、そういう事はあるんだ。お互いに知っていければそれでいい。だから、変に遠慮したり距離を取ったりはしてほしくはないかな」
「ごめ……ありがとう、ございます……」
分からないけど、そんな風に受け入れてくれる程……優しくて温かい人達なんだと改めて感じた。
思わずまた謝ろうとしてしまったけど、今度はすぐお礼を言えた。
「姉さん長い! もっと簡単に言いなよ」
キッチンのリリーナから苦言が飛んでくる。
言わせてしまったのは私なんだけどなぁ……
「えっ、だって色々聞いていたから……安心させてあげたくて……」
当然だけども、やっぱりなにかしら話していたらしい。
私はなんだか泣いたり空回りしたりでめちゃくちゃだったからね……この家の責任者らしいお姉さんなら、色々と思うところもあるだろう。
あれ……責任者って、そういえば3人の両親は……?
いや、今考える事じゃない。切り替えよう。
「だからってもっと短く纏めようよ」
「リアーネお姉ちゃんの話は難しいんだよね」
「あれぇ……? 良い事言って良い感じに迎えようとしただけなんだけどなぁ……」
大丈夫、しっかり聞いたし――しっかり効いた。
本当にありがたい。
「リアーネさんの言った事……ちゃんと分かったよ。大丈夫、です。ありがとう……」
「それなら良かった。……ほら、この子は分かってくれてるぞ」
「まぁシアが分かったならいいけどさ」
「シアちゃんは頭良さそうだしね。余計な事考えちゃうくらいには」
うぐっ……セシリアの言葉も効いた。
ごめんて……改めるから。
「頭良いの? 一緒に勉強しよー!」
リーリアちゃんがそう言って本を持ってきた。
学校の教科書かなんかかな。近くにあったって事は、さっきまで勉強してたみたいだ。
「もうご飯出来たから後にしなさい」
しかし言われた通りもう夕飯だ。後で一緒に見てみよう。
ついでに私が勉強は大丈夫だって分かってもらえたら、学校に行かない事も受け入れてくれやすいかも。
セシリアもご飯の準備を手伝っていたのか、テーブルに並べていく。
しっかりルナの分まで小さいお皿で分けてあるし。精霊は食べなくても大丈夫なのに贅沢なやつめ。
そのルナもいつの間にか起きていたようで、すぐに私の膝に座ってきた。
別にいいんだけど、ルナの頭に溢さないように気を付けなきゃ……
そうして6人で食べ始める。
こんな人数で食事なんて……ただの食事だけで心まで満たされていく気がする。




